トリックオアトリート〜おかしをくれなきゃーーするよ〜
「はぁ〜どうしてこんなことに……」
そう表情には出さずとも内心ではため息をついている。
コンビニのレジで立ちながら、忙しく発注したお菓子を配っていく。
そうオレは生活費を稼がなければならず、近くのアパートにあったコンビニの短期アルバイトをしていた。
高校では地元の大学に進学するまで勉強漬けであったがその苦労が実を結び無事に合格を果たした。
そんな苦労を乗り越え、『いざ夢の大学生活!』と意気込んでいたが現実は甘くない。
学業と私生活の両立ーーそれがどれほど難しいのが嫌にでも身に染みる。
あぁ今でも実家に帰りたいがそんな事は出来ない。
だからこそこうして今、実践しているのだ……。
おっと、昔の感情に引っ張られてしまった。
どうしてオレがため息をついているのかというとそれは今日が【ハロウィン】の日だからだ。
この地域ではそんなにコスプレをする高校生やら中学生なんかは少ない。
しかしグループになって町を歩く小学生や親を連れて近所を回る園児がわんさか増える日でもある。
そんな日に限ってこのコンビニの店長は宣伝(売り上げ)を伸ばすためにとあるキャンペーンを開催したのだ。
それが"限定!お菓子をとある呪文で唱えればあるモノが貰えます"とデカデカと広めたセイだ。
その宣伝のお陰でその園児らが親と一緒に来て、その呪文を唱えようとこっちに尋ねて来る。
「おじさん!おじさん!!【とりっくおあとりーと】!!」
無邪気な笑顔でその呪文であるトリックオアトリートを唱える。
最初はおじさんと呼ばれて心にキタものがあったがそんなものはもう慣れた。
「は〜い、ちょっと待っててね」
そうして唱えられたハロウィンの伝統的な呪文が唱えられ、オレはレジの下にある段ボールに入っているお菓子を渡す。
「わ〜い!ママ!おかしもらったよ!!」
「あら、良かったわね。店員さん、ありがとうございます」
母親がうやうやしく頭を下げ、こちらに感謝の言葉をかける。
「いえいえ、ハロウィンを楽しんで下さい」
愛想笑いとはいえ、お礼を言われるとなんだかこそばゆい。
そうして二人の親子はコンビニから出ていった。
「よぉ〜喪堂君!!お菓子の売れ行きはどうだい?」
「店長……大丈夫なんですか、本当に?」
この宣伝の案を出した張本人である店長が休憩室から顔を出してきた。
「ガハハハ!大丈夫大丈夫、お客様にはハロウィンを楽しんでいってもらわなきゃな!!」
高笑いをしているが実はこの案、本当は却下される予定だったが店長の強い要望により渋々許可が下りたのだ。
「まぁ……店長が良いなら」
「それよりもまだまだお菓子は余っている。これから沢山の子どもが来るから気を抜くなよ」
そんな会話をしている内にピロンーーピロンーーと店内に入る音が響く。
「ここっておかしもらえるの?」
「そうそう!しかもじゅもんをとなえればだよ」
「じゅもんって?」
「わすれるなよなぁ〜あれだよ!とりっくおあとーと??」
噂を聞きつけたのか四人のグループがコンビニに入ってくる。
一般的なゴースト、カボチャの髪留め、ミイラ男などの簡単なコスプレをしていた。
そうしてグループの中で一人のゴーストの女の子がレジに向かってくる。
「えぇっとえぇっと……」
もじもじしながら赤く顔を真っ赤にしながら、こちらを見ている。
緊張しているのがパッと見て分かる。
オレはその子の緊張をほぐすようにニコッと笑顔で優しく声をかける。
「どうしたの、ゴーストちゃん?」
するとそれが上手くいったのかパァァと笑顔になる。
「と、とりっくおあとりーと!おかしをくれなきゃイタズラするよ!」
「おおっとイタズラされたら大変だ!お菓子をあげるから待っててね」
その言葉が間違っていないと安堵した表情でお菓子を渡すのをジッと待つ。
「はい、これお菓子ね。友達と仲良く食べなよ」
「うん!ありがとうおじさん!!」
パタパタと歩き出し、その友達三人のもとに行きお菓子を分けていく。
その光景は微笑ましかった。
そうしてお菓子を配り続けて、もう時間は午後十時を指していた。
「ふぅ〜こんなもんか」
段ボールに入っていたお菓子はほとんど無くなり、もう後一個しかなかった。
オレは最後の仕事である少なくなった商品の補充やレジのお金を整理していた。
「とりあえずこんなもんかな。あぁ〜疲れた」
背中を伸ばし、あちこちに溜まった凝りの塊をほぐしていく。
「おお〜お疲れ、喪堂君!今日はもう上がっていいよ」
「あ、そうですか?それじゃあお言葉に甘えます」
店長の上がっても良いという指示をもらい、オレは更衣室に向かおうとするが。
「ちょっと待ってくれ、喪堂君」
「はい、なんですか?」
店長に呼び止められ、後ろを振り向くとポイッと何かを手渡される。
「おおっと!?」
咄嗟のことで反射的にキャッチするとそれは残り物であったキャンディーだった。
「これ、ハロウィンのやつ。よかったら貰っていくれ」
「は〜まぁ良いですよ」
キャンディで喜ぶ子どもじゃああるまいし。
「返してくれてもいいんだよ……?」
やべっ!?心を読まれたのか!
「ありがたく受け取りますーー」
「うんうん、素直でよろしい」
オレはイチゴ味のキャンディーをポケットと中に入れて、更衣室に向かった。
「それじゃお疲れ様でした〜」
「おぉーお疲れ、また明日もな」
アルバイトを終え、オレは暗い道を歩きながら、空を見上げる。
星がキラキラと輝き、まるでショーウィンドウをこの瞳で見ているかのようだった。
「きれいだなぁーー」
そんな事を口にしながら、肌寒い空気が冷やす。
オレが住んでいるアパートに着くとそこに魔女のコスプレをした一人の女の子が座っていた。
誰だよ、こんなとこにほっときやがったやつは。
その女の子は俯きながらグスンーーグスンーーと泣いていた。
本来ならば警察官を呼ぶか、交番に届けて親を探してもらうのが定石だがこんな寒い中、一人では危険だ。
オレは最低限、怖がらせないよう話しかける。
「君、そんなとこでどうしたの?」
「ぅぅーーグスングスンーー」
困ったーー女の子の気持ちはすっかり沈みきっており、話かけてもうんともすんともしない。
「友達とはぐれたの?」
こくんと小さく頷く。
「そっか、今その友達って近くにいる?」
フルフルと首を横にふる。
これゃあしまったな。ヘタに動けば心配した親が探しにくるよな。
だからといってこのまま置いておく訳にもいかない。
オレはまず、女の子がどうしたら元気になれるのかを必死に考える。
キャラクターの絵を見せる、それともお笑いのおさようなコントをやるか?
思考を巡らせるが何一つ浮かび上がらない。
そうだ!あれがあるじゃないか。
店長から貰ったキャンディーを取り出し、その子にあげる。
「これキャンディー、今日はハロウィンだよ!そんな悲しい顔をしないで楽しもう!」
少女は恐る恐る手を伸ばし、そのキャンディーを受け取る。
包みを剥がし、キャンディーを口の中に放り込むと少女は美味しそうに舐める。
良かったぁぁ。とりあえずこれで難問はクリアしたが、次がなぁ〜。
一か八か、その少女にもう一度話しかける。
「なぁ君、一緒に友達を探さないかい?」
「ーーいいの?ありがとう、お兄ちゃん」
悲しくて塞がっていた口が開く。
その少女は顔を上げ、ニッコリと涙を流しながら立ち上がる。
「はぐれるから手を繋ごっか」
「うん」
冷たい手をした少女に暖かい手を差し伸べる喪堂、二人は夜の道を歩く。
「君、名前はなんだい?」
「ーーかなん」
「そっかいい名前だね。それと魔女のコスプレかな?似合っているよ」
「ありがとう……」
ちょっとした会話を続けながら、かなんの友達を探しているがもう時間も遅い。
どこも人気が無くなり、ひっそりとした静けさが辺りを包んでいた。
喪堂はこれはもう無理かなと諦めかけていた。
少女ーーかなんちゃんの状態が不安だ。
手は先ほどよりも冷たくなっていた。
近くで休める場所はないかと探していますいると公園があった。
「かなんちゃん、あの公園で休憩しよっか」
「うん……」
二人は公園に入っていき、ベンチに座る。
かなんちゃんの体が震えていたのを見たオレは自動販売機で暖かいココアを買う。
「かなんちゃん、大丈夫?これココア飲める?」
「ありがとう、お兄ちゃん」
カチッとココアを開け、チョビチョビと飲み始める。
「それよりも懐かしいな、ここ」
不意に幼少期にあったハロウィンを楽しみ、友達とお菓子を分けて、食べあっていたことを思い出す。
「?どうして」
「あぁいや、少しね」
こことは違うけどあそこであの子とーー香恋に告白する予定だった。
ハロウィンの日が彼女の誕生日であり、高校生で最後に好きであることを告げるはずだった。
そのハロウィン口実に約束し、いつもの公園で待っていた。
けど何時まで経ってもあの子はーー来なかった。
それは後から知ったことだったが彼女はオレが待っている公園に向かう道中で事故にあったのだ。
当たりどころが悪く救急車で病院に駆け込まれたが、彼女はその日……死んでしまった。
その日ーーオレは彼女を忘れられず、喪失感に抑えつけられていた。
あのときに会うなんて約束しなければと自身を恨んだ気持ちを忘れられなかった。
そうしたら彼女、香恋は助かったかも知れない。
そんな気持ちでハロウィンを恨んでいたが次第に薄れていった。
誰も悪くない、ただ運が悪かったのだと自分に言い聞かせながら。
でも、それでもと彼女にもう一度会いたい。
そしてこの言葉を贈りたい。
【君が好きです】
「お兄ちゃん?」
「ん?あぁごめんごめん」
考え過ぎてしまった。
「ねぇーーお兄ちゃん、あたしね。じつはつたえたいことがあるの」
「なんだい?」
「……ずっとだましてごめんね、喪堂くん」
「えっ……?」
騙していた、どういう事だ??
「あたし、香恋なの。やっときみに逢えた」
「ど、どういうことかな?嘘は良くないよかなんちゃん……」
声が震える。どうしてこの少女が自分の好きな人を語り、自身の名を知っているのか。
いや、そんな事はどうでもいい!香恋だって!?
「かれ、ん……香恋なのか!?」
オレは肩を掴み、彼女を見る。
そんな馬鹿な、香恋とは少し面影が違う。
「うそじゃないよ。じつはねあたし、ハロウィンのきせきでここにもどってこられたの」
「きせき……?そ、そんな馬鹿げた話があるわけ」
「ほんとうだよ。きみにつたえたいことがあってきたの」
「な、なんだい」
「あたしを好きと想ってくれてありがとう。でもその鎖に縛られないで」
「……」
「HAPPYHalloween、喪堂くん愛してるよ。見守ってるから」
そう言い残し、彼女の体は光の粒子となって消えていく。
「そ、そんな待ってくれ!まだ話したいことが!!」
手を伸ばしても届かない、彼女は笑顔で手を振る。その残った光をオレは抱きしめる。
「はっぴー……はろうぃんーーなんてイタズラをしてくれるんだよ……」
声をかすめながら、膝をつき一雫が頬を伝い、地面に落ちる。
そうしてハロウィンは終わりを告げた。
悲しみよりも一人の亡き恋人に逢えた一瞬の出来事に……
どうも〜作者の蒼井空です!
いや〜ハロウィンですね!読者の皆さまは楽しめたでしょうか?
今回、ハロウィンの短編小説を書いてみたのですがどうでしたか?
ここまで読んでくださりありがとうございますm(_ _)m
感動・儚さ・いつもの日常が味わえたら嬉しいです。
それではまたHAPPYHalloween(^o^)/
追記
読者の皆さまはハロウィンを「ハロウィン」もしくは「ハロウィーン」どっちで呼びますか?私は前者ですね〜