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魔眼の転生者 〜忌避された者たちは、かけらの希望を渇望する〜  作者: Ruqu Shimosaka
第三章 ヴィント州

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第99話 サトウキビ畑

 シーサーペントが出たというのに港の工事はすでに再開され始めている。

 大砲でシーサーペントを攻撃しているからか、大きく逃げる必要がなくなったのか。作業自体の効率が随分と上がったようだ。


「ゲオルク」


 名前を呼ばれて振り返ると、いつの間にかモニカが近くにいた。


「モニカ、シーサーペントを倒せるようになっていると思っていなかった」

「ん、皆が頑張った」


 モニカは自分のことを誇った言い方はしていないが、腰に手を当て顔はどこか自慢げ。


「モニカも動き回って頑張っていたな」

「今度はゲオルクもやる」

「わかった」


 モニカは息が切れるほどではないようだが、汗をかいている。大砲の間を走り回っていたからだろう。大変そうなのでエンデハーフェンにいる間は交代でやった方が良さそうだ。


「新しい転生者?」


 モニカがオイゲンを見ながらそういった。

 モニカにオイゲンを紹介して、オイゲンにモニカを紹介する。


「オラ、オイゲン」

「モニカ」


 ヴェリもそうだが相変わらず姓を名乗り忘れている。

 オイゲンの場合はまだ仮の状態であるため、名乗らなくとも問題はないのだが……。二人に姓を名乗り忘れていると注意して、二人とも騎士であると説明した。

 オイゲンはともかく、モニカは騎士であることに興味はなさそうだったが……。


「ゲオルク、畑みた?」

「ああ、サトウキビ畑がすごいことになっていたな」

「作りすぎた」

「だろうな……」


 モニカに事情を聞くと、モニカもあそこまで育つとは思っていなかったようだ。そもそも今あるサトウキビ畑は種子を回収するために植えたもので、土をまともに掘り返さないで植えただけのものだと説明してくれる。


「サトウキビを収穫しながら、サトウキビを搾って煮詰めるための魔道具の量産お願いしている」

「全部砂糖にするのか?」

「早く絞らないと腐るって」

「また砂糖が山積みになりそうだな」


 前回もトン単位の砂糖ができたが、次はどれだけの砂糖ができるのやら……。

 砂糖まで精製すれば腐ることはないとはいえ、倉庫に積み上げておくだけではな。売りに行くにも港はまだ完成していない。

 陸路では僻地にあるエンデハーフェンでは売れる量が限られている。


「ゲオルク、砂糖の使い道を考える」

「何か考えるか……」


 砂糖か。

 蟲の対策に使えたのは偶然であって、基本は食べて消費するものだろう。同時に砂糖の食べ過ぎもどうかと思うのだよな。

 サトウキビの砂糖……そういえば、以前に帝国は大航海時代だと思ったことがある。大航海時代とは直接の関係があったか覚えてはいないが、船といえばラム酒と思い浮かべる。

 確かラム酒はサトウキビから作るのではなかっただろうか。

 しかもラム酒は蒸留した酒であるため、精製した砂糖同様に腐りにくい。貯蔵するのに向いていそうだ。


「ラム酒でも作るか」

「お酒?」

「ああ、寝かせる必要もある、ちょうどいいだろう」


 ラム酒について詳しくはないが、砂糖を精製する時に出る蜜糖を使って発酵させるはず。搾り汁をそのまま発酵させる方法もあると聞いたことはあるが、糖度の問題から難しいとも聞いた気がする。

 蜜糖を使う方を本命として、搾り汁は試し程度にやってみるか。


「お酒」

「モニカは酒を飲まなかったな」

「少し飲むようになったけど、甘いものの方が好き」


 この世界に飲酒を禁止する法律はない。

 十五歳のモニカが飲んでいても不思議ではない。もっともモニカはあまり酒が好きではないようだが。

 エンデハーフェンは様々な果実がなっているので、酒を飲む必要があまりないのかもしれない。


「お酒ですか」

「酒だか?」


 近くで喋っていたオイゲンとホルスト卿が酒に釣られたようで近づいてきた。

 二人は酒好きだったのか。


「オラ、海の中では酒が手に入らなかっただよ」

「ということは転生してからお酒は一度も?」

「そうだよ」

「それはおいたわしい。家とともにお酒を用意しておきます」

「おお、感謝するでよ」


 酒で二人は仲良くなったようだ。

 別に仲が悪いわけではなかったが、オイゲンは貴族であるホルスト卿に遠慮している様子があった。それが酒をきっかけに随分と距離が近づいた。

 やる気もあるようなので、ラム酒の采配は酒好きのホルスト卿に任せた方が良さそうだ。


「ホルスト卿、酒造りに詳しい人材と温度管理のできる倉庫を調べていただけるか?」

「お任せください」


 肝心の酒造りは素人がやるより職人に任せた方がいい。蒸留酒は帝都の夜会で飲んだことがあるため、職人なら蒸留の方法もおそらく知っているだろう。

 蒸留方法を知らなかった場合でも、アルコールと水を分離するという曖昧な知識はある。どうにかなるだろう。


「ではこの場は任せ、庁舎へ戻り人材の確保と空いている倉庫を調べましょう」


 いつも以上にやる気のホルスト卿はオイゲンたちを連れて庁舎へと戻っていった。

 シーサーペントの調査は魔術師たちの領分。

 オレたちがここにいても意味がないのは確かなのだが、酒が目当てであろうことは理解できる。

 しかし、エンデハーフェンならラム酒を作っていても不思議ではない気がするのだが……。いや、元々この周辺は人がいなかったため、そこまで発展していないのか。

 それに港の工事が順調に進まなかっため、趣向品である酒の種類を増やそうとまで考え付かなかったのかもしれないな。帝国から予算が出ているため、貿易で利益を上げる必要もないからな。


「モニカも畑に戻る」

「ああ」


 モニカは愛馬のオブシディアンに乗って去っていった。


「あれ? ゲオルク兄さん、帰ってきてたんだ」


 オレたちも庁舎に戻ろうかと考えているとアルミンが近づいてきた。

 今回、アルミンはマーレダムに行っていないため久しぶりだ。


「アルミン、久しぶりだな。シーサーペントを調査しにきたのか?」

「久しぶり。そそ、倒せたと聞いたからね。紋様を調べないと」

「紋様はオレたちが調べたぞ。成体と同じか確認する必要はあるだろうが」

「そうなの? なら最悪欠けていても問題ないかな」


 大砲の砲弾で撃ち抜かれた部位は大きく穴が空いている。

 穴が空いた部分に紋様があった可能性もある。

 そもそも氷漬けになったシーサーペントを解体するのは苦労しそうだ。何回も魔道具の砲弾を撃ち込んだ結果、シーサーペントは氷の塊になってしまっている。


「そういえば、魔道具の砲弾を作ったんだな」

「ああ、ダイアウルフと戦った時に使った槍の流用品だよ。銃弾だと小さくて魔道具にするのは無理だったけれど、砲弾なら大きさが足りたからね」

「弾の大きさか、なるほど」

「倉庫や室内を冷やす魔道具は完成したから他の使い道がないか模索したんだ」


 そういえば今更だが庁舎は涼しかったな。

 あれは室内なので涼しいと思っていたが、魔道具のおかげだったのか。


「今は砲弾ではなくて、サトウキビを絞って煮詰める魔道具量産しているけどね」

「モニカから聞いた、作りすぎたってな」

「捨てるのももったいないからね」


 アルミンは忙しくしているようだ。

 魔術師たちが集まってくるとシーサーペントの解体が始まった。アルミンも解体に参加するようだ。


「ゲオルク様、後の仕事はやっておきますので、アンナ様へ帰還をお伝えください」

「ユッタ、いいのか?」

「急ぎ報告すべきことは終わりましたので、残りは明日以降で構いません」

「分かった」


 ユッタにお礼を言って家に戻る。

 アンナはマーレダムに一度来たが、エンデハーフェンでやることがあるため一ヶ月ほどの滞在で帰還していた。

 家に入るとアンナが出迎えてくれる。


「アンナ、ただいま」

「ゲオルク、おかえりなさい」

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