第98話 エンデハーフェンへの帰還
エンデハーフェンへと帰ってきた。
オイゲンからエンデハーフェンへといくと返事をもらって二日後にはマーレダムを出発している。今回は馬だけではなく馬車も同行するため、余裕を持って出発した。
「ここがエンデハーフェンだか」
馬車に乗ったオイゲンは周囲を見回す余裕があるようだが、仲間のトローたちは上を見上げて口を開け驚いた表情。レンガ作りの大きな建物に驚いているのだろう。
海の中には巨大なものが多そうだが、人工物でここまで大きなものは見たことがないだろうからな。
実はオレもエンデハーフェンに帰ってきて驚いていることがある。
エンデハーフェンの建物ではなく、農園予定地だと言っていた場所が大規模なサトウキビ畑になっていたのだ。全力で刈り取っている様子だったが、あの規模のサトウキビを精製した場合、どれだけの砂糖になるんだ……?
モニカに事情を聞くのは後にして、今はオイゲンたちを庁舎へと案内する。
まずはオイゲンをホルスト卿に会わせた方がいいだろう。
オレもホルスト卿に相談したいことがある。
「ホルスト卿、戻りました」
「ゲオルク卿、ご無事で何よりです」
ホルスト卿は庁舎前で待っていた。挨拶をした後、部屋を移動する。
オレの部屋である長官室ではトローたちには狭いため、会議室として使用している部屋へと移動した。
「それでゲオルク卿、そちらの方々がトローですな」
オイゲンたちトローについては事前に報告されている。
帝都へと叙爵したことを伝えるため、エンデハーフェンを経由して連絡が行っているはずだ。
ホルスト卿は順番にトローたちを見回して、オイゲンで止まる。
「私はヴィント州副長官ホルスト・フォン・ボック」
「オ、オラはオイゲン」
ホルスト卿はオイゲンの挨拶から始まり、トローたちへ挨拶していった。
オイゲンを叙爵するということまではホルスト卿に伝えられていたが、エンデハーフェンに来た理由を伝えられていなかった。オレとユッタが浅瀬を潰してしまうことでの環境を心配していると伝えると、ホルスト卿はすぐに理解してくれたようだ。
「家の準備と、海に詳しいものをつけます」
「感謝しますだ」
オイゲンは緊張した様子だが、オレとユッタが間に入って説明したこともあって問題なく話は進む。
話をしなくとも長官であるオレの権限でどうにでもなるのだが、エンデハーフェンについて詳しいホルスト卿と状況を共有しておいたいいのは当然。
オイゲンについての話が終わったところで、ホルスト卿がオレの方を向いた。
「ゲオルク卿、地名をマーレダムにしたのはお聞きしましたが、堤防はどの程度完成いたしましたか?」
「堤防は八割近く完成している。次の乾季には完成しそうだ」
「それは良かった」
ホルスト卿の顔に安堵の表情が浮かぶ。
「ホルスト卿、こちらに来るシーサーペントは減りましたか?」
「それに関してはよくわからないのです」
「よくわからない?」
増えた減ったは毎日観測していたら分かりそうなものなのに。
どういうことかと思っていると、大砲を撃った音が連発する。
「……音が連続している?」
「大砲を並べて撃っているのです」
「並べて……?」
並べても撃てるのはモニカだけでは?
いや、それなら音が連続するのは変か。
「数の計算が難しいといった意味にもつながりますので、見に行きませんか?」
「分かりました」
確かに見に行った方が早い。
オイゲンたちトローも興味があると一緒に向かうことに。
港に着くとシーサーペントが海を泳いでいるのが見える。
港には大砲が十台以上も並べられ、モニカが大砲の間を忙しそうに走り回っている。
大砲一つにつき三人の兵士がいて、大砲の掃除、弾込め、角度を三人で調整している。以前に比べると随分と効率的な動き。
「モニカ卿が一人で撃っていては効率が悪いと現在の形に変わりました」
「確かにモニカが自分で撃つ必要はありませんか」
「ええ。モニカ卿一人で撃っていた時はゲオルク卿の考えた通り、港周辺からシーサーペントを追い払うだけでした。しかし、現在は随分と命中率が上がって、倒した数が増えていると予想しています。海に沈み回収できないため予想でしかありませんが」
ホルスト卿と話している間にも大砲は連射されている。説明してくれているホルスト卿が何を言っているかわからなくなるほどの音が響く。
「命中!」
兵士の一人が大声を出した。
前方に出現していたシーサーペントから血が出ているのか、海が赤く染まる。
「砲弾交換!」
聞きなれない言葉が聞こえたと思ったら、兵士たちが先ほどまでとは違う色の塗られた弾を準備し始めた。
交換した砲弾が撃たれ、海に着弾すると海面が凍った。
「凍った!?」
「魔術師が作った試作の砲弾ですね。弾自体が魔道具となっていて、着弾時に海水を一気に冷却して凍らせるようです」
「試作とはいえ……随分と戦い方が変わりましたね」
シーサーペントはまだ死んでいなかったのか、氷に巻き付いて氷を攻撃している。当たり前だが氷に攻撃しても意味はない。
大砲の音は響き続け、シーサーペントに砲弾が降り注ぐ。
氷漬けにされたシーサーペントは弱ったのか、動かなくなる。
「ここまでうまく行ったのは初めてですね」
「ホルスト卿、シーサーペントはどうするので?」
「試作の砲弾ですので、そこまでは考えていないかと」
「つまりあのまま放置か」
氷の彫像となったシーサーペントは取りに行くには遠い。運が良ければ港に漂着するだろうが……。
船を出して回収するのは海底に他のシーサーペントがいないとも限らないため無理。
「オラたちが取ってこようか? 海の底から引き上げるのは大変だけども、浮いているなら引っ張れると思うだよ」
「いいのか? 他にもシーサーペントがいるかもしれないぞ」
「回収が無理そうだったらすぐに逃げるでよ」
オイゲンたちトローがアザラシの毛皮をかぶると、姿がアザラシに変わる。オイゲンが海中の様子を確認したあと、問題ないと判断したようだ。
オイゲンが氷の彫像となったシーサーペントに近づくと、氷の塊が港に向かって進み始める。水流眼を使って動かしているのだろう。
近づいてきた氷の塊をオレも魔眼を使って引き寄せる。
巨大な氷は港に付けられる。
オレとヴェリが魔法で凍りついたシーサーペントを陸にあげる。
オイゲンたちトローも港に上がってアザラシの毛皮を脱いだ。
「凍っていたらオラ一人でも回収できそうだよ」
「魔術師にオイゲンたちの魔道具を作ってもらうか」
「おお、嬉しいだよ」
シーサーペントを回収できれば倒したとはっきりとわかり、今後のために研究にも使える。魔道具を作るくらいの労力をかけるのは間違いではないだろう。
「オイゲン卿たちにはエンデハーフェンを気に入って欲しいですな」
ホルスト卿がそう言いながら近づいてきた。
確かにオイゲンたちがエンデハーフェンに永住してくれるのなら、シーサーペントに対する不安はほぼなくなる。他の魔物が住み着いている可能性があるため、湾全体を確認する必要はあるだろう。
オイゲンたちが住めないような状況はオレたちにとっても好ましくないため、そのような状況にならないといいのだが……。
「今見た場所は良さそうだっただよ」
「人間が漁をできる浅瀬もありますので、明日にでも案内させます」
「浅瀬はゲオルクから聞いているでよ。楽しみにしてただ」
オイゲンとホルスト卿が話している間に周囲を見回す。
随分と港が大きくなっていることに気づく。もう大型船が二隻か三隻は入港できるのではないだろうか?
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