第96話 トロー
オイゲンはすぐに戻ってきた。
十一人はアザラシの毛皮を着ぐるみのように脱ぐと、二メートルを超える大柄な人が出てくる。男性はアザラシの毛皮は腰に巻きつけており、女性は胸元からワンピースのように着たりして体を隠している。
二度目なのに不思議な光景。
「陸で暮らすのは問題ないと言っているだよ」
「いいのか?」
「オラが人間について話していたからか、興味があるようでよ」
興味があるというトローを早速案内することに。
一緒に移動している兵士たちもいるがトローたちは気にした様子はない。なるべく距離をとって圧迫感を感じないように配慮しているが、オイゲンを警戒していたこともあって数は多い。
友好的に感じられるようになるべく喋りかけ続ける。
「マーレダムはまだ建てられた家は少ないが、街道に続く道が整備されている。高炉も建設中で、今後大きな村か町になる予定だ」
「小さな村ではないんだな。ところでマーレダムとは?」
「マーレダムはこの一帯の名前であり、村の名前だ。名前がないのが不便で名付けた」
「確かに名無しは不便だよ」
マーレダムという名前はユッタから問題ないとの返事を持って命名された。正式な命名はエンデハーフェンに戻ってからとなるが、この場所はすでにマーレダムとして根付いている。
オイゲンのいう通り、皆にとって名無しは不便だったようだ。
オレとオイゲンの話を他のトローたちも頷いている。
どうやら人間の言葉がわかるようだ。
「皆、人間の言葉がわかるのだな」
「オラが群れの長だから皆が知りたがっただよ」
「オイゲンが長なのか」
「強いからって自然になってたでよ」
強いものがリーダーになる。
自然の摂理としてわかりやすい。
ユッタが転生者は群れの長になりやすいと補足してくれる。
「転生者は魔眼を持っているため、同種族同士ですと一つ抜けた存在感を持つこととなります」
「魔眼持ちは人間も魔物も変わらないか」
「はい。そして人間の転生者は人間の習性が残った結果、群れを形成することが多くなります」
なるほど、人間は群れで生活する。
転生者に前世の習性が残るというのも理解できる。
オイゲンも転生者として例外なく群を形成していったのだろう。
ユッタの話はオイゲンも知らなかったようで、興味深そうにそうなのかと言って驚いた様子。
オイゲンの仲間から、トローは家族単位で助け合いはするが、オイゲンは家族以外でも助けてくれるからなと言って頷いている。オイゲンはその話を聞いて驚いた様子。どうやらトローとしての生き方をあまり知らなかったようだ。そんなオイゲンを見て他のトローたちは笑っている。
トローたちの表情からオイゲンが慕われているのがわかる。
談笑している様子からトローたちに一定以上の知性があるのが見て取れる。
そういえば皇帝陛下から、転生者として覚醒するのは一定以上の知性がある場合だと教わったな。知性があり、オイゲンとの交流もあって人を襲うような性格ではなくなったのだろうか。
オイゲンたちと話していると、近くにあるマーレダムまでたどり着く。
「オイゲン、あれがマーレダムだ」
オイゲンはレンガの家を見て立派だといい、畑を見て畑まであるのかと驚いている。
「オラが暮らしていた村より立派でよ」
「オイゲンの前世は帝国出身ではないのか?」
「いあ、帝国出身だったけども、田舎だったでよ」
オイゲンの喋り方は結構訛っているため、違う国かとも思ったが帝国だったか。
帝国は広いため、地域によって多少は訛りがある。
「トローになってから初めて人間の暮らしを見ただよ」
「オイゲンは人間がいる場所まで行こうと思わなかったのか?」
「多少探しはしたんだけども、海も危険でよ。好き勝手に移動は難しいんだ」
オイゲンたちは珍しそうにマーレダムを見て回る。
そう広くもないため、すぐに村の中を案内するのは終わった。
住居に関しては家の中で寝てみたいとの意見があったため、テントで寝るのと家の中で寝るのを交代で試すことになったようだ。家を用意すると言ったのだが、家だけではなくテントも珍しかったようだ。
「しばらく世話になるでよ」
「こちらこそ堤防作りの手伝いよろしく頼む」
「任せるだよ」
人数が増えるのは助かるな。
「ゲオルク様、堤防作りの手伝いをしていただくならオイゲン殿を叙爵すべきかと」
「叙爵!?」
オイゲンが叙爵と聞いて慌てている。
オレ、ヴェリ、モニカが叙爵されたようにオイゲンも叙爵される可能性は高い。
「叙爵か。皇帝陛下に連絡すればいいのか?」
「いえ、ゲオルク様の権限で叙爵できます」
「オレの権限で叙爵できるのか?」
「ゲオルク様は皇帝陛下の代理人ですので」
そういえばそんな権限オレにあったな。
今のところ順調であるため、皇帝陛下の代理人として命令を下したことはない。もともと乱発するような権限でもないため、基本は依頼という形で周囲の州や公国とやりとりをしている。
「代理人は叙爵までできるのか」
「皇帝陛下の権限が及ぶ範囲であればできます」
「実質何でもできるのか……」
「なんでもではありませんが……今回も叙爵後に皇帝陛下へと連絡する必要はあるかと」
「それは必要だろうな」
オレとユッタの話にオイゲンが割り込んでくる。
「オラが叙爵って貴族になるんか!?」
叙爵されると思うわけがないよな。
オレもオイゲンと似たような立場だったわけで、慌てる理由はよくわかる。
ユッタの方が転生者が貴族になる事情について詳しいだろうと、オイゲンへの説明はユッタに任せた。
ユッタは新大陸のことや、港を作っていることなどの説明を説明していく。
オイゲンは質問をしたりして疑問を解消して、一応は納得したようだが、自身が貴族になるのが信じられない様子。
「オイゲン殿、帝国が求めているのは魔眼や魔法です。地域を収めろと言われることは普通ありません」
ユッタはオレを一瞬見た後そう説明した。
ヴィント州の長官に任命されているオレが普通ではないことを認識する。なんとなく察してはいたが……。
「普通はヴェリ様のような騎士となり、給与をもらう代わりに帝国の仕事を振られる程度です」
「ん!? ヴェリも貴族だか!?」
ヴェリは姓を名乗っていないのでわかるわけないよな。
視線をヴェリに向けると、首を捻っている。貴族であることすら忘れていそうだ。ヴェリに騎士になっただろうと話すと思い出した様子。
オイゲンにヴェリの様子を見せて騎士ならこの程度で問題ないと伝えようとする。
「騎士であればヴェリのように自分が貴族であることを忘れる程度。オイゲンも気にする必要はない」
「そ、そうなのか?」
まだ不安そうである。
「貴族になれば家も用意され、貴族年金も出る。もちろん、堤防を作る作業を手伝ってくれるのなら給与を払う」
「お、おお?」
オイゲンは固まってしまう。理解の上限を超えてしまったようだ。
どうしたものだろうか?
「オイゲン殿、仲間のことを思うなら騎士になっておいた方がよろしいかと。騎士の配下とすれば身分の証明が随分と楽ですので」
「というと……?」
「オイゲン殿が人間だった頃、身分を保証されていない魔物は怖くはありませんでしたか?」
「ああ……そういうことだか……」
「トローは人間に似た見た目のため、そう問題にはならないとは思いますが……」
「いあ、わかっただよ。オラ、騎士になるでよ」
自分のことではなく、仲間のことであっさりと騎士になることを決めた。身分の保証が決めてか、友好的な魔物かどうかは見た目だけではわからないものな。
ユッタから騎士になるための確認のために鑑定眼を使って欲しいと頼まれ、オレがオイゲンから許可を取って、鑑定眼を使ってオイゲンを確認する。オイゲンの言った通りに人間の転生者と確認できた。
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