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魔眼の転生者 〜忌避された者たちは、かけらの希望を渇望する〜  作者: Ruqu Shimosaka
第三章 ヴィント州

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第91話 エンデハーフェンに馴染む

 そろそろ雨季が近いと撤収することに。

 結局一ヶ月以上湾を切り取るための地面を隆起させる工事を続けた。

 しかし、湾を切り取るための隆起させる作業より、建物を作る作業の方が捗った。魔力がなければ隆起させる作業は進まないため、作業速度の差は仕方がない。


 帰還前、最後の魔法を使いに海へと向かう。

 現在、隆起させた場所は二百メートル近い堤防ができている。

 流石に一日で十メートル近く隆起させるのは難しいが、一日と半分で十メートルの隆起が可能となった。


 隆起させた場所を歩いて先端まで向かうのだが、珊瑚などがあるため歩きにくい。十メートルの幅があるため落ちることはないのだが、転ばないように慎重に進んでいく。このままでは問題があると、次回はコンクリートを持ち込み整地することが決まっている。

 現在の先端まで歩くと、オレとヴェリは魔法を使って隆起させる。


「だいぶコツを掴めたな」

「ボクたち、これしかしていないからね」

「畑を耕したり、建物を作っているが、邪魔にならない程度にしかやっていないからな」


 魔力をほぼ全て注ぎ込んで魔法を使ったあと、オレとヴェリは攻撃手段を失う。オレはまだ生命眼で銃を使えなくもないが、ヴェリは逃げられる程度の魔力しか残していない。そのため、護衛をつけられている。

 当然、守りやすい位置にいた方がいいわけだ。しかし、何もしないのはあまりにも暇であるため、手伝いつつも邪魔にならないようにしていた。


「戻るか」

「うん」


 一ヶ月しか立っていないというのに、家が何軒か建てられている。周囲に落ちている石で建てたもので、白に近い灰色の家は堅牢とまではいかないが、休むには十分な作り。

 堅牢な建物はレンガを作って建てる予定で、現在レンガを量産している。徐々に形にはなっているが、まだ数が足りていない。


 家の出来も早いが、畑はかなり大きなものができている。

 暇なモニカが作物を育て続けたため、立派な畑が広がっている。計画的に育てたため、雨季が明けた後に収穫できるだろう。


「ゲオルク卿、参りましょう」


 ホルスト卿は帰ることなく、この場所に居続けた。ホルスト卿だけ帰還するにはこの周辺は危険すぎる。エンデハーフェンを開ける準備はできていると言っていたため、問題はないのだろう。


 ヘルプストに騎乗して、手綱を握る。

 オレとヴェリの作業が終わり次第戻る予定だったため、旅の準備は万端。

 合図を出すとすぐに出発する。




 一週間もかからずにエンデハーフェンに帰還。

 最初の一日はオレとヴェリに魔力がないため、近くの村で一泊。二日目から本格的に移動をした。


「雨季になる前に戻れましたか」


 ホルスト卿は空を見ながら、安堵したかのような声を出した。


「雨季が近かったのですか?」

「正確な予想は難しいのですが、海側の空に雲が増え始めている。近いうちに雨季が訪れるのは間違いありません」


 海がある南側を確認すると、確かに小さな雲がいくつも見える。

 今までも雲はあったが、少し違う様子。ホルスト卿が大きな雲にまで発達すると、本格的な雨季が訪れると話してくれた。


 庁舎に戻ると解散となる。

 ホルスト卿とユッタは、山積みになっているであろう仕事を片付けると去っていった。


「オレたちは一度家に帰るか」

「そうですね」


 オレたちも仕事は溜まっているだろうが、先に帰還の報告はした方がいいだろう。一ヶ月半近く留守にしたからな。

 家までの間に、アンナやオレは声をかけられる。

 声をかけてくるものの大半は、カムアイスから移動してきた民。皆、笑顔で話しかけてきており、生活に問題があるようには見えない。うまくやれているようだ。


 家に帰るとイルゼやエマヌエル、そして侍女たちが出迎えてくれる。

 その中に侍女でもない、アルミンの母であるドロテアが混じっていた。

 アルミンも気づいたようで近づいていった。


「母さん、なんでここに? 港の方に家を借りたんじゃなかった?」

「ええ、そうよ。今は服作りを手伝っているの」

「そういうことか」


 ドロテアは裁縫の腕が店を出せるほどにうまい。

 アルミンが魔術に夢中になったように、ドロテアは芸術を中心に裁縫などを趣味としている。故郷のフィーレハーフェンにいた頃から芸術関係のものを収集しては、買ったものから着想を得て、色々なものを作り出していた。


「おお。アルミン、ゲオルク、帰ってきたのか」

「……父さん……?」


 アルミンの父であるアーノルドの声が聞こえたため振り返ると、こんがりと日に焼けた男が魚の入った荷車を引いている。ヴァイスベルゲン王国でも日焼けはするが、それとは全く違う日の焼け方。

 オレもアーノルドかどうか疑問に思うほど日焼けしている。


「ゲオルク、エンデハーフェンはいいな。好きなだけ泳げる」


 アーノルドは日に焼けた顔で、にこやかに笑っている。

 故郷であるフィーレハーフェンは寒く、夏でも川の水温はそこまで高くならない。船頭は船から落ちた時のために泳ぎは覚えるが、好んで泳ぐ人は滅多にいなかった。しかし、例外としてよく川で泳いでいたのがアーノルド。

 よく川で泳ぐアーノルドは変わり者として見られていたのを思い出す。


「もしかして、その魚は父さんが……?」

「ああ、私が取ってきたものだ」


 アーノルドがカムアイスの民の中でエンデハーフェンに一番馴染んでいそうだな……。馴染めないよりはいいのだが、適応が驚くほど早い。


「イルゼさん、お好きな魚を選んでいただけますか」

「料理長を呼んで参ります」


 イルゼが屋敷に戻っていった。


「父さん、海に入って危なくはないの?」

「ああ、干潟というには水深があるが、湾内の中にある湖のような遠浅の場所で漁をしている。満潮時には多少深くなるようだが、干潮時にはシーサーペントには少々浅すぎる」


 そういえば湾内にさらに奥まった場所があると、ホルスト卿から以前に聞いたきが。そこを漁場にしているのか。


「エンデハーフェンには漁師が少ないからか魚影が濃い。私でも簡単に捕まえられる」

「父さんの泳ぎなら余裕で魚を捕まえられるだろうけど……。なんにせよ、問題ないならよかったよ」


 シーサーペントが寄ってこないと分かっていても、海に入りたがる人は少ないだろうな……。漁師になろうとする人が少ないのは理解できる。


「ところでアルミン、冷やすための魔術は完成したか?」

「設計はできたよ」

「倉庫一つを冷やすことはできないか?」

「出力を変えればできると思うけど、倉庫一つ?」

「魚がすぐに傷んでしまうので、冷やせばどうだろうと考えた。フィーレハーフェンだと凍らせて食べ物を長持ちさせていただろ? 今は干して長持ちさせているが、あまり長持ちはしない」

「なるほど。魔石は余っているからいいけど、魔石に供給するための魔力が大量に必要になると思うよ」

「交代で魔力を込めれば問題ないだろ」

「父さんが運用してくれるなら問題ないと思うよ」


 アルミンほどではないが、アーノルドも魔術を使うのが上手い。渡し船に使う船も当然自作していたわけで、魔術についても普通の人よりは詳しい。

 アルミンの家にあった魔術に関する書籍はアーノルドの収集癖から集められたもの。収集癖とはいっても読みはしていたはず。そのため、アーノルドもアルミンと同じように、魔術師を名乗れるほど知識があるのではないだろうか。

 しかし、アーノルドは魔術を作ることにそこまでの興味がないのか、魔術を設計しているところを見たことがない。


 アーノルドとドロテアは共に収集癖があって、似たもの夫婦。


 しかし、アーノルドとドロテアは亡命するか悩んでいたが、二人とも馴染むのが早い。他のカムアイスから亡命したものたちも同じように馴染んでいてくれるといいのだが。

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