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魔眼の転生者 〜忌避された者たちは、かけらの希望を渇望する〜  作者: Ruqu Shimosaka
第三章 ヴィント州

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第88話 シーサーペントの幼魚

 しかし、ホルスト卿は普段より饒舌だな。

 ……もしかして、興奮状態なのか?

 平常心でなかったのなら進む判断をしたのは失敗だったかもしれない。先ほどホルスト卿が言っていた、ダイアウルフの縄張りには他の魔物が出ないという裏付けを取る必要がある。

 ホルスト卿の対応はアンナに任せ、ヴィント州の兵士に声をかける。


 ヴィント州の兵士たちに聞いたところ、ホルスト卿の話は本当のようだった。

 他にもダイアウルフについて知っていることはないかと聞くと、ダイアウルフほどの魔物の場合は討伐体を組むため、今回のような遭遇戦になることはないのだと教えられた。もし遭遇戦になった場合、壊滅的な被害を受けるのが普通だとも話してくれる。


 兵士たちも若干ではあるが興奮した様子。

 ただ、興奮しているのは自覚しているようで、問題になるほどの興奮具合ではなさそう。

 戦いに慣れている兵士でそのような状況で、普段前線で戦うことは少ないであろうホルスト卿が興奮状態なのは仕方ない。むしろ、興奮しているのは当然といえる。


 兵士たちから話を聞いて回っていると、地面が草原ではなく、まばらに草の生える岩場に変わってきことに気づく。

 岩場の穴に足を取られる可能性があると、馬の走る速度を落とし始めた。

 磯の匂いとともに、波のさざめきが聞こえる。ヴィント州に来てから毎日のように感じる匂いと音。

 波の音が大きくなるにつれ、岩場の色が黒っぽい色から灰色に近くなっていく。


 波の打ちつける音が聞こえ始めると、馬が完全に止まる。

 馬から降りるようホルスト卿から指示が出される。

 何人かを馬の世話のために残して、オレたちは歩いて海に近づいていく。


「湾というには複雑な地形だな」


 波によって複雑に削り取られているのだろうか、湾内は入り組んだ複雑な地形。

 海岸線は海まで近づけそうな場所もあるが、崖のように切り立った場所もある。


「海につながっているので、湾といえば湾なのだろうが……」


 海に近づくと、海底は比較的浅いことに気づく。

 透明度の高い海の底には珊瑚が所狭しと生えている。


「きれい」

「ああ、きれいな場所だな」


 まさに南国の海。

 エンデハーフェンの海もきれいだったが、こちらの方が浅いのか珊瑚が密集して生えているようだ。

 オレとアンナが海を見ていると、ホルスト卿が近づいてきた。


「今は潮が引いている時間のようですね。満月の時期に来れたようですから、大きく潮が引く時期です」


  今まであまり海に関わりがなかったため知らなかったが、この世界にも大潮、小潮と月の満ち欠けで潮位が変わるようだ。

 アンナがホルスト卿に質問を始めた。


「今が一番浅くなっているのでしょうか?」

「海面と珊瑚の様子を見るに、おそらくはそうかと」


 確かに一部の珊瑚は海面から姿を現してしまっている。普通なら水中にある珊瑚が飛び出しているということは、随分と潮が引いている。


「あれは?」


 なんのことかとアンナを確認すると、水面を指さしている。

 指先をたどって視線を移動させると、海の中に細長いものが動いて見える。

 水中なので正確な大きさはわからないが、長さが人間二人分はありそうな大きさ。三メートルから四メートル程度はありそうだ。

 大きさから太さもそこそこあるように見える。

 色は黄色と黒のまだら模様に見える。なかなか毒々しい色合いをしている。


「あれがシーサーペントの幼魚です」


 ホルスト卿がすぐに答えを教えてくれた。

 しかし、幼魚の段階から随分と大きい。いや、最大が二十メートルを超えると話していたため、幼魚とはいえ大きいのは当たり前か。

 なんにせよ幼魚の段階で人に脅威があるほど大きいのは事実。


「海に近づきすぎるのは危険か」

「ええ、見えているのは一匹ですが、珊瑚の下に隠れているシーサーペントもいる可能性があります」


 急所となる場所を確認すると、頭部と腹部に当たる腹側に弱点があるようだ。急所となる腹部も小さく、体の半分以上は攻撃しても致命傷にはならないようだ。

 頭部の方を詳しく確認していくと、目の少し後ろに別の弱点を見つける。位置からしてエラがある辺りだろうか。

 水中ではなく陸上でもっと詳しく見てみたいが……。


「ホルスト卿、倒して陸に上げられませんか?」

「陸にですか……できるならやってみたいところではありますが……」

「今まで試したことはないのですか?」

「試してはいますが、シーサーペントは魔術を当てるのが非常に難しい。もし運よく倒したとしても海に沈んでしまう」


 ホルスト卿は眉をひそめて苦々しい顔をしている。その様子から、ホルスト卿も何度も試したことはあるのだろう。

 だが今回はオレとヴェリがいる。


「では魔法を使ってみたらどうでしょう?」

「逃げられる可能性が高いとは思いますが……試してみましょう」


 ホルスト卿はあまり乗り気ではない様子。何か事情があるのだろうか。気になりながらもオレとヴェリはどのように魔法を使うか話し合う。

 オレが攻撃、ヴェリが捕獲と決まる。

 魔法を使おうと魔力を動かした段階で、ゆらゆらと泳いでいたシーサーペントの動きが変わる。のんびりとした動きから、忙しくうねりながら動き始めると、一気に速度を上げて巨体を器用に珊瑚の中へ入れていく。

 魔法を使おうとした時には見失ってしまった。


「何が起きた?」

「シーサーペントは攻撃を読むのです。おそらく魔力を探知しているのだとは思いますが、実際のところはよくわかっていません」

「魔術を当てるのが難しいというのはそういうことですか」

「ええ」


 珊瑚を壊す勢いで魔法を放てば倒せるかもしれないが、敷き詰められたような珊瑚のどこにいるかはわからない。運が良ければ倒せるかもしれないが、崩れた珊瑚の下にいるシーサーペントを回収するのは相当難しいだろう。

 魔物だというのに随分と警戒心が強い。


「シーサーペントは向かってこないのですか?」

「幼魚は水中にいるものは襲いかかるようですが、陸は警戒すれども襲いはしないようです」

「厄介な」


 魔力を探知できるとするならば、オレたちが陸からシーサーペントを確認しているのもわかっていただろう。相手が襲ってこないとわかっているため、悠然と泳いでいたわけだ。

 それでいてこちらが魔力を使えばすぐに逃げる。追いかけようにも、水中はシーサーペントが有利のため、水の中に入る分けにもいかない。

 ホルスト卿が逃げられる可能性が高いと言って、乗り気でなかった理由がよくわかる。


 魔力を待機させてシーサーペントが浮上してこないかと間待っていたが、警戒された様子で浮上してくる様子はない。

 シーサーペントではなく普通の魚が珊瑚の周りに集まり始める。

 魚が集まってきた段階で、ホルスト卿が声をかけてきた。


「ゲオルク卿、今のうちに海へとつながる部分を確認いたしましょう。干潮時と満潮時を見ればどの程度埋め立てる必要があるかわかります」


 今までいなかった魚が集まってきた時点で、捕食者であるシーサーペントは近くにいないのだろう。

 ホルスト卿の提案に従って移動することに。


 海面に近い場所から高い位置まで戻る。

 湾内は複雑ではあるが、海とつながる場所はわかりやすい。しかし、ホルスト卿は遠回りするように歩き出した。


「なぜ遠回りを?」

「歩いている場所の下が空洞の場合があります。最悪足場が崩れる可能性があるため、少し遠回りをします。複雑に地形が入り組んでいるのは、地面が崩落した後だと思われます」

「不安定な場所を避けているのですか」

「ええ。馬から降りて歩いているのも、地面に重量をかけ崩落させないためです」

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