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魔眼の転生者 〜忌避された者たちは、かけらの希望を渇望する〜  作者: Ruqu Shimosaka
第三章 ヴィント州

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第86話 ダイアウルフ

 いや、紋様が五つもあってあからさまな弱点はないか……。

 弱点が確認できないかと鑑定眼を対象に指定ではなく、戦いに使えるよう全体で捉えるように意識する。ダイアウルフが遠いのか弱点はまだ見えない。


「紋様については何か知っていませんか?」

「紋様は嗅覚、聴覚、噛むなどの体を強化するもの。そして音を消したり、闇に隠れるような、相手に気付かれずに忍び寄る紋様も持っていることが多い。今回は忍び寄られる前に気づけています。それと、今は昼なので闇に隠れることは不可能です」

「意外に紋様での攻撃手段は少ないのか」

「ええ、単純にダイアウルフは強いのです」


 忍び寄られて襲われなかっただけ良かったと思ったおいたほうが良さそうだ。忍び寄られていたら、どれだけ被害が出ていたかわからない。最悪全滅も考えられる。


 ダイアウルフの大きさから距離感がよくわからない。おおよそ二百メートル程度の距離だとは思うが、一発撃ってみる。

 打つと同時に魔法を使う。


『切り裂き穿て』


 弾丸自体に魔法を使う。

 目視できないためわからないが、弾丸は魔法によってさらに速度を上げているはず。

 ダイアウルフが遠すぎて弾丸が当たったのかがわからない。

 ダイアウルフは速度を落とさず近づき続けてくるため、続けざまに打ち続ける。

 モニカもオレと同様に打ち始めた。


 かなり近距離となって当たっているとは確信を持てる。しかし、ダイアウルフの巨体に対して銃弾が小さすぎるのか、効いている様子がない。

 打ち尽くしたライフルからショットガンに銃を変える。ショットガンに変えたが、効果があるとは思えず魔法を中心に戦うことに。大砲ができていれば違ったのだが……。


——グルルル


 ダイアウルフの唸り声が聞こえてくる。

 獲物を前にして喜んでいるというよりは、苛立っているような唸り声。多少はこちらの攻撃が効いているのだと思いたい。


 唸り声が聞こえてきた時点で、兵士たちが魔術を打ち始める。

 百人から放たれる魔術は流石のダイアウルフも嫌がっている様子で、避けようと高速で逃げ始めた。

 収納袋の中から縄を取り出す。


『蛇のようにからみつけ』


 縄をダイアウルフの方向へと放り投げると、蛇のように近づいて足や体に巻き付く。ダイアウルフの動きが少し落ちた。

 同時に弱点となる部位が、胴体の魔石がありそうな内臓付近と、口の中だと分かった。


「凍結」


 近くにいたアルミンが聞いたことのない魔術の詠唱を合図として唱えると、槍がダイアウルフへと投げられた。槍投げでも使っているのか、槍は鋭く飛んでいく。

 動きの落ちたダイアウルフは槍から完全には逃げられなかったようで、後ろ脚付近に槍が刺さった。


——キャンッ


 そう深くは刺さっていないように見えるのに、ダイアウルフは悲鳴をあげた。

 後ろ足に刺さった槍を抜こうと体を捻っているが、体を縛り付けているオレの縄が邪魔で抜けないようだ。


「水よ」


 ホルスト卿が唱えると、水が飛んでいってダイアウルフの頭にぶつかる。ぶつかっただけで終わるかと思ったところで、水がダイアウルフの頭を覆った。魔術だというのに、練度が凄まじい。

 ホルスト卿の魔術は時間をかければ窒息するとは思うが、魔力が持つという保証はない。


「ヴァイスベルクの雪原、水よ氷結せよ」


 ヴェリの大規模な魔法が発現する。

 暖かな空気が一気にヴァイスベルクに登った時のような寒さが襲ってくる。そしてダイアウルフの頭を覆っている水が凍り始める。

 オレが追加で水をかけると、皆も同じように水をかけ始めた。徐々にダイアウルフが氷漬けになっていく。


「死んだか?」

「いや、まだ生きていると思うよ。一日中氷漬けにしておけば死ぬとは思うけど、紋様五つもある魔物は数分では死なない」

「化け物だな」


 氷の彫像となっても一日生きていられるとは……。


「この程度の氷であればダイアウルフなら凍りつく前に壊せると思うのだけど、弱点だったのかも」


 ヴェリの予想はあっている気がする。

 最初に凍らせるような攻撃をしたのはアルミンだったか。


「アルミン、知ってたのか?」

「いや、偶然。部屋や体を冷やすのに紋様を研究していたんだけど、武器の方が先にできただけだよ。シーサーペントに使えないかと思って持ってきてた」

「なるほど」


 偶然とは運がいい。

 しかし、このダイアウルフをどうするか。


「ゲオルク兄さん、氷以外の弱点は見えない?」

「魔石がある胴体、そして口の中だ」

「それはどの魔物でも同じだと思うな……」

「弱点がないというのは本当だな」


 弱点まで氷漬けで倒すのが難しい。

 モニカが近づいてきた。


「ココナッツ」

「もしかして爆発させるのか?」

「ん」


 モニカが当然だというように頷いた。

 爆発力を考えれば死ぬとは思うが……。


「とても危ないのだけど」

「普通に戦ったら誰か死ぬ」


 モニカの正論に言い返せない。

 今人が死んでいないのは遠距離攻撃で近づかれる前に氷漬けにできたから。まともに接近状態で戦えば死者が出るのは分かりきっている。

 それに爆発させる以外に一撃で倒せるような方法は魔力の関係上難しい。


「仕方ない、やるか」

「ココナッツ一つじゃ怪しい。けれど、いくつも爆発できる状態は転がったら危ない。凍らせて動かないようにする」

「なるほど」


 モニカが珍しく饒舌に喋る。

 ダイアウルフの氷が解けないうちに、ココナッツの周りに水を作って凍らせていく。

 ココナッツ爆弾に囲まれたダイアウルフの彫像が完成する。


「皆、先に離れていてくれ。かなり距離をとった方がいい」


 モニカとオレは、数値を変えて爆発できる状態にしたら必死で距離を取る。今この瞬間に爆発したらオレとモニカも即死する。

 五百メートルほど距離をとった。


「ライフルを使っても当たる気がしないな」


 地球のライフルであれば当てられるだろうが、こちらの世界で作った銃は火縄銃とそう変わらない性能だと思っている。連射できる分、火縄銃よりはいいとは思うが、精度はそこまで期待できない。


「魔法で補助する」

「それしかないな」


 魔法を使っても当てられるかわからないため、オレは自分で撃ちながら魔法を使い、モニカはヴェリが補助することにする。

 撃つ前に注意を呼びかける。


「馬が暴れないように注意してください」


 連れてきている馬は軍馬のためそうそう動じないが、慣れない音に馬が驚く可能性は否定できない。

 皆の対応ができたところで、オレとモニカは撃つ準備をする。

 馬に騎乗していては安定しないため、馬から降りて撃ち始める。


「やはり当たらないな」

「ん」


 オレが五発目を打った瞬間、とんでもない音が響く。

 腹に響くような音と共に、砂煙が舞い上がる。

 やはり馬たちが多少暴れたが、対応が早かったためすぐに落ち着く。


「当たったか。流石に死んでるよな?」


 死んだとは思うが警戒状態は維持する。

 魔術で風を起こし、ダイアウルフがいた場所の視界が晴れるようにする。

 多分穴が空いているのだと思うが、よく見えない。


「近づくのも怖いが、生きていた場合とどめを指す必要があるか」

「いく」


 オレとモニカは再び騎乗する。

 皆で慎重に爆発の中心地へと向かう。

 爆発した場所は円状にクレーターができている。直径十メートルは行かないと思うが、かなりの大きさ。


「とんでもない爆発だったのだろうな……」


 ダイアウルフの痕跡を皆で探すと、欠けた肉片と欠けた魔石を見つけた。


「やりすぎた気はするが、死んではいるようだな」

「死者を出さずにダイアウルフを倒せたんだ、やりすぎということはないと思うよ」


 アルミンのいうことも一理あるか……。

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