第85話 シーサーペントの産卵場所へ
倉庫や高炉を見学して二日ほど。
ココナッツを使った大砲を設計している。もう少しで試作ができそうな状況にまでなった。
しかし、今日はホルスト卿から話がしたいと呼ばれているため、庁舎へと向かう。
ホルスト卿と挨拶をした後、すぐに本題に入った。
「ゲオルク卿、エンデハーフェンも随分と落ち着いてきましたので、シーサーペントの産卵場所に向かおうと思っています」
「もう少し先かと思っていました」
「雨季の季節は多少前後することがあります。もし雨季にまで戻って来られない場合、川の増水により途中で帰れなくなる可能性があるのです」
「増水ですか、なるほど……」
オレとアンナが出会ったのは川の増水だった。
思い入れがないわけではないが、もう一度増水した川を渡りたいかと言われると渡りたくはない。増水した川を渡ったり、ヴァイスベルクの森を通ってきたオレがいうのもなんだが、無茶はしないほうがいい。
「それに私が街を抜けるには、今の時期のほうがよろしいかと」
「ホルスト卿も一緒に向かうのですか?」
事前にどの程度の人数がいくかは話し合ってはいた。
しかし、ホルスト卿はエンデハーフェンに残るのだと勘違いしていた。
「ええ、エンデハーフェンで待つことも考えましたが、産卵場所を潰せるかどうかの判断によっては、計画を変える必要があります。迅速に対応するため、同行することにいたしました」
「産卵場所を潰すのが無理だと判断した場合は?」
「その場合はエンデハーフェンを放棄する可能性があります」
「それは……。確かにホルスト卿にきてもらう必要がありそうです」
そこまでの判断は新任の長官であるオレだけでは難しい。
オレを補佐しているユッタもエンデハーフェンに来て間もないため、オレ同様に判断をしかねるだろう。となると、エンデハーフェンについて詳しいホルスト卿が必要となる。
「今日明日で出発の準備を完了させ、明後日には出発する予定です」
「分かりました。準備しておきます」
「不足しているものがあれば用意いたします」
「旅の準備はさせています。不足するものはないとは思いますが、足りないものがあった場合お願いします」
数ヶ月単位で街に留まっているが、一年近く旅をしているため必要なものは揃っている。今回は野宿することになりそうだが、気温が高いため準備はそこまで厳重にする必要はない。
旅の準備次第だが、できれば旅に出る前に大砲の試作ができる状況にまでしておきたい。
ホルスト卿との話し合いを終え、旅の準備をするため屋敷に戻る。
朝からエンデハーフェンの広場に集まる。
いつも通りにアンナ、イナ、イレーヌ、アルミン、ヴェリ、モニカ。さらにオレを補佐するユッタにホルスト卿。
護衛として兵士も百名近くが同行する。
「全員揃いました」
「出発しよう」
近くにいた兵士が合図を出すと、皆が一斉に騎乗する。
騎乗の指示は今までアンナがやっていたことだが、公爵でありヴィント州長官になったことでオレがやることに。違和感がすごいが、そのうち慣れるのだろうか。
今回もまた馬車ではなく馬に騎乗しての移動。
道なき場所があるため、馬車では通れないのだと聞いている。
護衛となる兵士はアンナの部下から多くが選ばれている。街での仕事に組み込まれて間もないというのもあるが、馬の扱いが非常にうまいという理由もある。
一年中馬に乗って大陸を横断するに近い距離を移動していたことを考えると、乗馬が上手いのは当然ではある。
騎馬民族みたいな生活を続けていたからな……。
「アンナ卿、軍馬をお貸しいただき感謝いたします」
「お気になさらず、ホルスト卿」
ホルスト卿が感謝を告げた通り、アンナは軍馬をホルスト卿やエンデハーフェンの兵士に貸し出している。
そのため、今回は軍馬だけでの移動。
目的地であるシーサーペントの産卵場所まで、普通の馬で十日前後の距離である。全頭軍馬であるため、一週間でたどり着ける予定。
予定通りに旅は順調に進む。
草原は見晴らしがよく、街道が広いこともあってかなりの速度が出ている。
気温が高いため、馬に水を飲ませる回数は多くしているものの、それ以上に順調に進んでいる。
「森の中を通らなければ随分と楽だな」
「この草原であれば、背の低い魔物でなければ遠目で確認できます」
「この人数であればよほど頭が悪いか、凶暴な魔物でなければ襲って来ないらしいしな」
襲われた場合、とても強い場合があるため全力で攻撃するように言われている。
視界が広いため余裕はあるが、緊張していないわけではない。
もっとも、一匹の魔物が縄張りとする範囲が広いため、そうそう接敵することはないとのことだが。
エンデハーフェンを旅立って六日目。
順調に街道を進んできた。
シーサーペントの産卵場所に近い最後の村を出て少しすると隊列が止まる。
「ゲオルク卿、ここから街道を外れます。すぐに草原から岩場となりますが、草原内は魔物の縄張り。魔物と出会う可能性が上がりますので、注意してください」
「分かりました」
銃を確認する。
遠距離で倒してしまったほうが被害は出ない。当然魔法も使うが、魔法と同時に銃も使用すれば威力は上がる。
兵士は魔術を使いながら、槍などで対応するようだ。
草原の中を走り始める。
街道にあった草原までの距離がなくなり、魔物に遭遇する可能性が上がると注意されたこともあって緊張する。
「三時方向! 何かがこちらに走って来てる!」
何かはわからないが、魔物である可能性が高い。
銃や魔法を使うために射線を開けさせ、銃を構える。
警戒していた兵士はよく見つけたと感心するほど魔物らしきものは遠くにいた。豆粒とまでは言わないが、魔物であるか判断はできない。流石に遠すぎるため、銃を撃っても当たりそうにない。
「ホルスト卿、逃げられると思いますか?」
「いえ、この周囲の魔物は縄張り意識が強い。縄張りに侵入したものを簡単には許しません」
「迎え打つしかないか」
魔物だと仮定して、兵士たちに魔術の準備を指示する。
オレはライフルを構えて撃てる距離に近づくまで待つ。
徐々にこちらに来る魔物の大きさが大きくなってくる。黒っぽい灰色の見た目だと分かり始めたところで、まだ距離があるのに妙に大きいことに気がつく。
「大きくないか?」
「この辺りでも強い魔物の可能性があります」
ホルスト卿の声が硬い。
魔物から視線を外せないため、どのような顔をしているかはわからないが、強張った顔をしているのが想像できる。
じっと銃を構えて見ていると、鑑定眼を使っていなかったことに気づく。
鑑定結果はダイアウルフ、オス、紋様五。知っている情報が少ないからか、オス、紋様五と表示されるだけでまともな情報がない。
「ダイアウルフ、オス、紋様五と鑑定された」
「ダイアウルフ! 馬より大きな巨体に、鋭い嗅覚で獲物を追い込み、執拗に攻撃する獰猛性があります。ヴィント州でも強い魔物です」
「逃げられないか」
「子供がいる場合、小さな群れで行動します。今のところは一頭しか見えませんが……」
「魔物なのに群れで攻撃するのか。ダイアウルフにはオスと書かれていますが、オスも群れを作るのですか?」
「ええ、作ります」
注視していた一頭のダイアウルフ以外にも索敵するよう指示を出す。
ホルスト卿が想像以上に詳しくダイアウルフについて知っていたため助かる。
「ダイアウルフの弱点は知っていますか?」
「弱点という弱点がないのがダイアウルフが強い理由でもあります」
「まともにやり合うしかないのか」
弱点があれば楽だったのだが。
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