第80話 シーサーペントの対処方法
シーサーペントの数が多いというのは、ホルスト卿の申し訳なさそうな顔が嘘でないと物語っている。
産卵……卵で生まれる蟲も数が多い。同じように卵で生まれる生物も数が多くても不思議ではないが……正直、勘弁してほしい。
「何か策はあるのですか?」
「シーサーペントが産卵に使っている湾が別にあるのですが、そこを使えなくしてしまえば数が減るのではないかと考えております」
「使えなくとは……?」
「埋め立ててしまおうかと」
解決策は、とんでもない力技だった。
そういえば皇帝陛下から、環境を変えたいとか言われた気がする。シーサーペントの産卵場所を埋め立てるという意味だったか……。
そこまでの労力をかけ、結局シーサーペントの数が減りませんでしたは避けたいところ。
「しかしそれだと、ここに来るシーサーペントが減るかはわからないのでは?」
「帝都で調べていただいたところ、シーサーペントの産卵場所を潰した文献の記述がありました。文献には潰したのち、シーサーペントの数が減ったと書き記されていたそうです」
産卵場所を潰して、成功する可能性はあるか。
そうなると、やってみる価値はある。
皇帝陛下も同じ考えに至っため、地形を大規模に変えられるような魔眼を探していたのだろう。
「一度産卵場所を見に行きたいですね」
「産卵場所までは馬で十日以上かかる距離にあります。雨季に入る前までに一度見に行っていただきたいと考えております」
「思った以上に遠いのですね」
「はい。生まれてすぐは産卵場所周辺で大きくなり、一定以上に成長すると海流に乗ってこちらにやってくるのではないかと予想されています」
生まれたばかりのシーサーペントだったらまだ倒しやすそうだったのにな。エンデハーフェンに来るシーサーペントも、まだ成長段階かもしれないが、ホルスト卿の言い方からして小さいとはいえないのだろう。
流れ着くのが海流と関係しているとすれば、元を立つしかないか。
「シーサーペントが流れてくるような、海流があるのですか?」
「はい。エンデハーフェンの目の前には、新大陸へと向かう西方向の海流があります」
「それは新大陸に向かうのに、使い勝手の良さそうな海流ですね」
「はい。風も同じように西向きに吹くことが多く、新大陸へと航行するにはとても便利な場所なのです。今も同じ海路を使って船は航行しております」
今日の風は若干北向きではあるが、ほぼ西向きに吹いている。海流も西向きに進んでいるとすれば、帆船でもかなりの速度が出そうだ。
「しかし、シーサーペントまで流れてくるとは想定しておりませんでした……」
ホルスト卿はやりきれない思いがあるかのように言った。
確かに、船と同じようにシーサーペントが流れてくるのは問題だな。
「シーサーペントを抜きにすれば、いい場所なのですね」
「ええ、新大陸からこちらに戻ってくる場合は、南下すると東向きの海流があります。新大陸から東向きの海流を使い、エンデハーフェンを通り過ぎてから北上。西向きの海流を使って、西側から回り込むように入港することを想定していました」
東向きの海流と、西向きの海流を乗り継ぐように進むのか。
少し遠回りになりはするだろうが、この世界の船は魔術と風で進む帆船。魔術に使う魔力の消費をなるべく減らそうとするなら、海流と風の力を使えば魔力の節約になる。
効率よく新大陸を行き来する海路に近く、ちょうどいい場所にある港。計画としては完璧と言える。
「噂をすれば、シーサーペントが出ました」
ホルスト卿の声に前方を確認するが、海は広くどこにいるかわからない。
どこにいるか尋ねると、ホルスト卿が指差した随分と先にシーサーペントであろう、細長い蛇のような細い生物が海の上でうねっているのが見えた。湾の中にいるのだろうが、随分と沖合だ。
シーサーペントは今いる場所から遠すぎるため、どのような色をしているかなどはわからない。多少反射しているのがわかる程度だろうか。
「今日は引っ越しの手伝いのために工事しておりませんが、普段でしたら厳重警戒となる距離です。海岸に近づいてきた場合、工事は中断することになります」
「どの程度まで近づいてくるのです?」
「一番近づいてきた時で、目の前まで来たことがあります。その時は海岸を監視している者たちもその時は避難させたため、最終的にどこまで近づいたかは分かりません。しかし、陸が濡れていなかったため、陸には上がっていないだろうと予想しています」
予想ではあるが、上がってくる可能性は低いのだろう。
「監視も避難させるのですか」
「ええ。人的被害も注意していますが、人間を食べて繰り返し襲ってくるようになったら大変です。それこそ港を作れなくなってしまう」
人の味を覚えて襲うか。
魔物の凶暴性からすると、ありえそうだな。
「近づいてくる様子はありませんが、戻りましょう」
ホルスト卿は顔をしかめながらオレたちに帰還を勧めてきた。散々苦い思いをさせられてきたとよくわかる表情。
帰る前にシーサーペントに試したいことがあるため、待ってもらう。
「ホルスト卿、魔眼を使うので、少しだけ待ってもらえますか。もちろん、攻撃する気はありません」
「分かりました。どうぞ」
時間をかけてよってこられても困る、すぐに皇帝陛下より転写した鑑定眼を発動させる。
遠すぎて鑑定できないかと心配したが、鑑定が成功する。
「シーサーペント、魚類、紋様二つ。知識量の問題か出てくる情報が少ないな」
あまりの少なさに、ため息をつきたくなる。
もっと知識をつけないとな。
「皇帝陛下と同じ鑑定眼ですか?」
「そうです。わたくしの魔眼で鑑定眼を転写させてもらいました。紋様の種類まで分かれば良かったのですが……」
紋様の数が出たということは、詳しい知識があれば種類まで出ていた可能性がある。
アルミンと一緒に勉強していたため、普通の人よりは詳しいとは思うが、それでも紋様の種類は出てこなかった。
「いえ、二つと分かっただけで十分かと。二つということは、強さはそこまでではなさそうです」
「紋様の数で強さがわかるのでしたか」
「おおよそでしかありませんが、強さの目安にはなります」
例外もあるが、魔物は紋様の数が多いほど魔力が多く強い傾向にある。
蟲の紋様が一つであることを考えると、シーサーペントは蟲以上には強い。ヴァイスベルクで遭遇したキメラが三つだったことを考えると、それほどではない。
だが海はシーサーペントに有利。戦い方に工夫する必要はありそうだ。
「シーサーペントは竜種ではないとき聞いていましたが、魚なのですね。蛇のような爬虫類かと思っていました」
「そうですね」
見た目が蛇のようといえば、ウナギやウツボ。地球でも一部の細長い魚は、海蛇として認識されていた気がしなくもない。魚と蛇の違いはエラの有無となりそうだが、魚なのでエラがあるのだろう。
一部の魚は空気呼吸できるため、シーサーペントが空気呼吸できないことを祈っておこう。
「さて、本当に戻りましょう。少し近づいてきたように思えます」
若干ではあるが、確かにシーサーペントが大きくなっている。
ヴェリとモニカがいるとはいえ、戦う準備もなく戦えるような相手ではない。指示に従って、庁舎へと戻ることにする。
馬車に乗る前、最後にもう一度シーサーペントを眺める。
近づいたといってもまだ遠いため、やはりどのような色をしているかはわからない。それでも大きな白波の合間に見える体は、波と比べても大きい。
シーサーペントは港を完成させるための乗り越えるべき障害。
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