097 深い闇に潜んでいる4
94 95 96 97 は“ひと綴りの物語”です。 《その4》
領主館に侵入します。
傭兵団の団長オッサンって、見かけによらず技工派なんです。
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
命題はコイツの命令にどこまで従っていいのか
当然だろう。そして団長があえて言わなかった命令。
『金主のコイツの命を守らなくていい理由』
警護がいらない程に強いのか、折角の金づるだが、お荷物過ぎて最悪は捨ててもいい案件なのか。
……たぶん後者だと思うが、その見極めが難しい。って。団長さん、面倒だからって丸投げすんなよ。
「命令は絶対だ。契約の一番最初に書いた。団長も同意している。僕を守らなくていい。最優先は任務だ。全力を注げ、余録があった場合のみ自分の身を守もっていい」と僕。
幹部さん全員の顔が凶悪に、楽しそうに歪んだ。いや、笑った。あ、反感買っちゃったかな。だって基本はマゾ体質でしょ戦闘狂なんて。
「いいね、生意気な小僧。死んでも生意気でいられるか試すか?」
「下手な命令を出してみろ、瞬時に殺す。そしたら有耶無耶だ」
変に正しくコイツらはオッサンの部下だ。やりづらい。兵站班の子たちが懐かしい。元気かな。寝てるな。ずるいな。悪い夢を見て魘されろ。
「お互いの自己紹介は終わったようだな」とオッサン。
ずるいぞオッサンも働け。僕の文句を封殺して「そのまえに」と輪から離れ、傭兵の何人かをピックして集め、隅に連れて行って言い聞かせるように話し込み始める。
聴力を増した僕の耳には「死ぬ覚悟が出来てない者は連れていけない」と聞こえた。
「なに、事が終わってオレラが失敗してもお前らにお咎めが行くことはないし、成功したら無論のこと開放はしてやるし、報酬は渡せないが、協力費の名目で幾らかは渡してやる」
失敗したら参加してなくても全員が当初の予定通り縛り首だし、“働かないヤツ”に渡す協力費なんてせいぜい数個の魔晶石を(僕から)チョロカマシて渡してやれるやるぐらいだろうが、それは判っていたしても、全員が明白にホッとした表情を浮かべた。腰を落として震えている者もいた。
苦労人な団長さん。戦線崩潰の芽を適切に摘む戦術眼と指揮能力の才に優れた団長さん。しかし、一番に優れているのはその人心把握能力だと思う。
カリスマなど御大層なモンは持ってない。ただ効率よく事務作業を熟しているだけだと、本人は言っていたが。
僅か一週間前までは駅舎検問所で“魔物に殺されていく傭兵共を、座った椅子を傾け、足をブラブラと揺らしながらただ見ていた中年男だったくせに。実際、傭兵共のマネジメントはさせられていたが、直接的な接触は禁止されていたのに。
あの時、あの検問所の小さな部屋で、僕からの提案を聞き終わるとカタリと音を立てて椅子を戻し、肘から下を膝上に曲げて置いた猫背で、相変わらず魔物に殺されていく傭兵共から視線を外さずに教えてくれた。
『命が行き交う戦場で、上の者は常に部下に死んで来いって、命令してんだけど、どんな気分だと思う。オレは慣れない。嫌な気分がずっとしてた。……離されたんなら……もう関係ないって、思ったんだけどよ。
部下に死んで来いって命令して、実際に死んでもらうにはどうすればいいと思う?
愛でるのさ。愛でて愛でて育てて、それでも最後はやっぱり死んで来いって言うんだ。実際に部下は死んでくれる。嫌なもんさ。俺はただ、好きな魔法をぶっ放して自慢の大剣を振り回したかった、だけなんだけどな』
まだ大剣を振り回りところは見ていない。たぶん今、背中に背負っているのがそうだろう。剣先がズルズルと床を引き摺っている。牢に行く前に武器庫に直行し、片隅で投げ捨てられていたのを発見した時は小躍りしていた。オッサの小踊りは不気味だ。小男に背中の大剣ズルズルもモロ小物っぽい。
魔法はぶっ放すと言う割には小針を使うなど小技系で技巧派だ。それも驚くほど機密に。似非がビックリして喜んでコピってたが、複雑過ぎて僕では百年掛かっても使い熟せないと嘆いていた。
三センチばかりの針を飛ばして脊髄や目に刺していたが、あれもオール魔法で行っている。制御を優先して驚くほど遅い、ただ目の前を飛び回る蚊を叩き落とせないのと同じ理屈で、慣性の法則を無視した目では追えきれない軌道を描く。
風を操り、流れに乗せるのではなく、ピッチングマシーンの射出の原理と同じに、針を覆う空気で無数の回転するローラーを生み出し弾き飛ばしている。空中で随時、何度も。だから前・後、直角にも垂直にも、三百六十度自由に瞬時に急転させる。それも三本同時に。ビームは出さないが、正しくファンネルだ。
それには莫大な演算量を要し、五つ以上の並列疑似脳が必要だと似非が言っていた。
声もそうだ。何故かオッサンの声は大きいが他には聞こえない。超がつく指向性を持ち、特定の相手の耳に直接届けているらしい。それも大多数の者の耳に。これは音波を直接イジっているのではなく、音波の廻りを回転する空気で覆っているに過ぎない。チューブを通して個々に伝えるテキな。
弱点は自分では聞こえづらいらしく、自然と出す声がデカく成る。相手は耳元で怒鳴られ程にうるさい。
この魔法は戦場で適切かつ確実に命令を伝える為にいつの間にか出来るようになっていたらしい。
『後ろから見ていると戦場がよく見える。そこはアブねぇとか。前もって教えてやろうと声を掛けてたら、ある日逆にうるせえって怒鳴り返された』
自在に曲がるチューブを進行方向への回転に変え、声の代わりに針やナイフを飛ばしてみた。上手く行った。
彼は精密な業を操る技巧派だが、論理は全く理解していなかった。極小規模に空気を回転させて収束や軌道急変を行っていたのを『俺そんな事してたのかよ』全く知らなかった。
僕の(似非の)解読解説を聞いて、半信半疑な顔をしていた。地味な小太り中年のくせに感覚派の超天才だった。
『だからよ、魔法をぶっ放すのは趣味だ。魔法を小手先で使うのは仕事で仕方なくだ。大剣を振り回すのはストレス発散の趣味と実益を兼ねてだ』そうだ。
「時間だ。そろそろ始めようか、付いてこい野郎ども!」
「お前が言うな小僧! 殺すぞ!」
腹が立ったからカッコいいセルフを掻っ攫ってやった。
お読み頂き、誠にありがとうございます。
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