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半径1メートルだけの最強。  作者: さよなきどり
第四節 〜ギルド、さまざまないろ〜
57/129

057 アラクネのお姉サマ達

働く姉御アネゴなキレイなお姉さんって好きなんです。

ご笑覧いただければ幸いです。

※注

白い◇は場面展開、間が空いた印です。


◆主人公の視点に戻ります。

「僕が考えるに、故事の文献の通りにこれは“防衛戦”ではなく、獲物を効率よく捕らえる為の“狩猟”でしか無かったのだと思うよ。ギルドの本来の目的『特異生物産資源収集』に沿った正当なね」


「はいはい、わかったわかった。偉い偉い。だから私達はこんなに忙しいんですよね。ハムさんはもうココはいいですから次に行って下さい。すぐにお手伝い出来る様にしますから。……ああ、二万四千三百七十二番ノ〇五五の回路基板(サーキット)の再調整やり直しだ……」


「ああもう、うるさい! また間違えたじゃない!

 ちょっと黙ってて下さいますか‼ 自慢してる暇があったらほんと、手を動かして下さい! それが嫌ならどっか行ってて下さいよ。ほんとイライラする」


 イライラするって……誰も褒めてくれないからちょっと自分で自画自賛してみただけじゃんか。ちょっとリスペクトが足りないんじゃないのかなあ。なんて言えるはずもなく、僕はすごすごと次の作業に向かう。


「あの、皆さん頑張って下さい」


 25人のアラクネ族のお姉サマ達の背中は振り返ることもなく、黙々と作業に没頭している。と見せかけて“舌打ち”で御返事されなくてもイイんじゃないでしょうか。それも連打って……そんな嫌わんでも、そんなに悪い事したかなぁ。したなぁ。わりと……。



 ギリシア神話ではアテネが癇癪を起こして蜘蛛のバケモノに変えられたってなってたが、異世界(こっち)ではアラクネのお姉サマ達の顔や身体に蜘蛛的な要素は皆無。腕が八本とか下半身がソレとか糸をお尻から出すとかはなく、他の種族に比べてもすごく人っぽい。元々人だけど。

 落国の民(アッシュ)の特徴として頭に角が生えているのはご愛嬌。それもとても小さくて髪毛に隠れるぐらい。


 そうなんだけど、変な話だけど異世界(こっち)でも彼女達は“蜘蛛女”或いは“蜘蛛使い”と呼ばれている。

 それには理由があって、千年の昔から常に“花魁蜘蛛(クイーン)”と共にあるから。共存関係ってやつ。“生”の『過激』なヤツから蜘蛛の糸を紡ぐ事が出来る唯一の種族として(ある程度の意思の疎通ができ、何故か糸が粘着せず、加工も可能)。


 何時の頃からか、紡ぐだけではなく服やタペストリー織りなどの蜘蛛の糸に関わる第二産業まで手掛けるようになっている。

 この街サガンの工房では数多くのアラクネの女達が働き、この街を支えている(アラクネの男もいるが、女性に比べて数が少なく“髪結の亭主”的な立ち位置らしい。実に羨ましい)。


 加えて彼女達は手先が非常に器用なのはギリシャ神話通りなんだけど、潜在的な“自個保有特異魔系技能(ユニーク・スキル)”として魔法陣を出現させ、魔導具に刻み込む事が出来る【表象印契】の因子を秘めていた。新たな魔導具の創造に必要不可欠な技能だったりする。


 既に覚醒に至る女性(男には元々スキルも因子もなし。哀れ)25人の中には居なかったが、それでもあまねくその片鱗は見せており、正しい知識の取得と、経験、何よりも、より良い指導者さえ居れば、今すぐにでも覚醒者に至ることは明白だった。

 今はまだ、簡単な修理技能程度しか持ち合わせていないが。


 僕の目の前、背中で不満を爆発させている彼女達(アラクネ)25人はギルドの正式職員として魔道兵器や最も重要な“尊遺物(レリクト)”のメンテナンス及び修理に長年従事している。覚醒者ではが、類な稀な自個保有魔系技能(スキル)持ちとして。


 ただ、彼女たちは自分が未だ中途半端な修理工止まりであり、上位の覚醒者ではないことに忸怩(じくじ)たる思いを募らせている事は間違いなかったが、逆に諦めてもいた。

 その所為って訳じゃないけど……、その所為かやっぱ、僕らの出会いは最悪で、酷く嫌われる結果となってしまった。


 委員長系ギル長から強請された対“(うつり)”施策として僕は、彼女たちアラクネのお姉サマたち全員を、【表象印契】の覚醒者にすることから始めようと思った。

 だけど嫌々だよ、ほんとイヤイヤ。

 でもほら、僕って“より良い指導者”っぽくない?


 その所為って訳じゃないけど……、その所為かやっぱ、僕らの出会いは最悪で、酷く嫌われる結果となってしまった。



 ある意味、この街もギルドもが、今現在まで存続出来ている奇跡は全て、アラクネのおかげであると言っていい。正当な評価として。

 でも彼女達は複雑な思いも抱いていた。このギルドに残された実働に耐える“尊遺物(レリクト)”の武器も防具も片手で数えるほどに減ってしまった贖罪の気持ちと、逆に長い歴史の中で今まで存続させてきた一族の自信と誇りと、そして、今……。


 アラクネのお姉サさま達が前回の“(うつり)”から一人も欠けることなく無傷で生き残っていられた理由は、前のギルド長の指示だったらしい。後方支援部隊“兵站担当整備兵”としてのその必要性を根気よく解き、ガチ戦闘兵でもあった彼女達を半ば強制的に前線に出る事を禁じた。


 街の産業の『生活基盤』の担い手としての貴重性も含め、彼女たちは充分承知していた。していたが、結果ギルドは崩壊し、街はお終いに向かっている。

 ギルドも街も無くなれば、自分たちの価値もなくなる。ならあの時どうすればよかった。今、どうすればいい。もっと自分に戦う力が有ったらと。


 千年の昔から手に職を持ち、家庭の稼ぎ頭として子供を、夫を養ってきた姉御(アネゴ)な気質は伊達ではなく、どうせ今回で終わりならと、期してもおかしくない程に彼女達の内は激しい。

 何より、前回の“(うつり)”で街が()()しなかったのは彼女らの夫や恋人、父、男兄弟達の尋常ならざる死闘があったからこそであった。


 普段は“髪結いの亭主”気取りで縁台を出して昼間から酒を飲み、ベ(シャ)くっていた男どもは傭兵が逃げ、領兵がただ傍観する中で、戦い、守り、文字通り死んでいった。

 彼等は何も言わず、自分の使命を全うした。今、街にアラクネ族の十七歳以上の男は一人もいない。



「だから直るって言ってんじゃん。まだ使えるって、まだ行けるよって言ってんじゃんかよ。だからそういう複雑で面倒くさい()()()()で、人に八つ当たりしないでください」


「気持ちは理解(わか)りますけど、僕はキミらの先生よ、指導者よ。お助けマンよ。そうは見えないけど。やり方がアレだったけど。小僧だけど。信用はできそうもないですけれども、やっぱり信用できないですか。そうですか」


「まあ、そうですよね。反省はしています。でもですね。僕にもですね。ハイすいません以後気をつけます」

 その最初でアウトだったですもんね。


 それにしても、『()()()に絶対無理』ってあんた。


 ◇


 最初の夜。僕は委員長系ギル長に連れられて地下施設最下層の宝物庫と呼ばれる兵器倉庫に来ていた。

 例の修理ウンヌンの強制的なお約束と言う名の強要によって。

「だから誰も出来るって言ってないじゃんか」



“飛竜落し”などと御大層(厨ニ)な二つ名から神殿っぽい感じの場所で、それっぽく奉られているのかと思いきや、高度に整えられた実にシステマティックな近代的な武器保管庫だった。

 修理やメンテナンスに最適な作業スペースさえ併設されていた。そっちがメインかと思えるほど広々とした、華やかし頃のお洒落なITオフィスっぽいのは何で?

 因みに神殿形式からシステマティック且つおシャに改善したのは前のギルド長だったりする。


 程度具合が記されたラベルを見ながら魔道具の棚を見て回る。

 素晴らしく確認しやすい。確認しやすいからすぐに分かった。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告

 機器の性能の評価は別にして、物自体の維持保管状況に問題は有りません。ですが、これは酷い。肝心の魔法陣の刻印章の補修・修理が雑すぎます。これなどは補修のせいで本格的に修理不可能な程に壊れてしまっています。あれも、これも。

 修理では無くただ壊している、或いは損傷範囲を広げていると言えます。

 と結論 ∮〉


「修理が下手すぎるってことか?」と僕。

 似非が指摘した刻まれた魔法陣を見ても僕には何処が壊れているのかが分からなかった。直径三センチ程の良くある複雑でカッチョいい、お馴染みの、“神聖幾何学(ジオメトリー)”ッポイのを複層階に全て重ね、逆に明確にした様な魔法陣そのままで、傷とか一部が削れてるとかは見えない。


 物理的な破損や魔法陣自体が目に見えて傷ついてる個体ではなく、似非が指摘したのは一見してどこも壊れていない、だけど不可動品に対してのみだ。それはつまりこの武器保管庫に収められているほぼ全ての“尊遺物(レリクト)”って事だけど。

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお読み頂ければ幸いです。


毎日更新しています。

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