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半径1メートルだけの最強。  作者: さよなきどり
第三節 〜サガンの街〜
38/129

038 灰色した大人の常套句で謝罪もなく

『溜まりの深森』逃避行トラウマのカルマがシドすぎるって話し。

それと赤鬼登場。


ご笑覧いただければ幸いです。



 それでもより良い性能を求めて試作は続いた。眼球を何個も銃身に沿って並べさせたり、照門の上に数個の眼球を円形に浮かべさせたり、でもなかなか上手く行かなかった。その見た目も。何度もハナは悲鳴を上げ続けた。


 最終的に目玉そのままの姿は消え、機能だけを移した綺麗な魔法陣(チョット人の眼っぽい模様が残ってるけど)が浮かぶ(リアル眼球そのまま複数浮遊系も可愛くて、最後には満足するものが出来たが実装にはハナが強烈に拒否し断念した)、現行の“人様眼球式標準器”に落ち着いた。


「わざわざ『眼球』って付けないでよ!」

「いやー、でも曖昧なネーミングは後々……」

「ワザとでしょ! 絶対ワザと! なにニヤニヤしてんのよバカハム!!」


 そうやって苦労の末に何とか“魔学式スコープ”は完成した。でもハナは使うのを結構渋る。キモいって。だから未だに命中精度が五百メートルに留まっている。


 あれ、そう考えるとちょっと不安かも。五百メートル級超遠距離射撃をやったのって何時以来だ? あれ? なんか違う。ああそうだった。実戦じゃせいぜい三百メートルだ(そもそも高低差も有り遮蔽物の多い深い森の中じゃ射線なんてなかなか通らない)。


 五百メートルは計算上の数値だった……。似非の計算で。

 不安しか無い。いやいや大丈夫でしょう。自分を信じろ。


……標的もデカイし距離はあるけどどっかには当たるだろう。でも胴体が細いな。蜻蛉だし。大丈夫か? 当たるよねハナ。ちょっとお願いします〜。


 そんな僕の心の弱さ(ブレブレ)はどうでもよく、長銃を構えたハナの姿は何よりも美しい。


 その六、コトリと落ちるように。


 銃口の先が仄かに光り、空間ごと螺旋状に巻き込み、鉛弾が気体を切り裂くソニックウエーブと共もに爆音が轟く。建物が揺らぐほどの。そばに立っていた僕の耳が暫くキーンとなって役に立たなかった。

 

 時間差で上空の蜻蛉モノドキの右の羽根一枚が突然根元から弾き跳び、いや、根本と肩が円形に消滅し、そのまま落ちて行く。

 ヒラヒラと、木の葉のように。


 得意まんまんに鼻をフンヌと膨らませるハナ。よくやった。頭をナデナデしてみる。ハナは()のちょっと吊り気味の瞳をデヘヘと緩ませ照れ笑う。


 そのまま僕ら二人は観衆に揃って向き直り、一度だけ、僕は右手を胸に、ハナはカテーシで丁寧にお辞儀して、このデモンストレーションを終える。

 如何(どう)よ!


 サチは何だか頻りに僕らを売り込もうと画策(プレゼン)してて、『お姉さんなギル長(クライアント)』は踏ん切りが付かない様子でなかなか首を縦に振ってくれない。

 そこでだ、本当はこんな真似は嫌だったけど、報酬(パンツ)の為だ。“皆殺し”も酷く面倒くさいし、これで高く買ってくれるだろ。

 如何(どう)よサチ。グッドなジョブだろ、クロージングは任せたぜ。


 サチ? 如何(どう)した。『(自称)お姉さんなギル長なバーサン』と共に呆けた顔を晒している。しっかりしろサチ、ココ一番の売り時だろうが。


 ◇

 

 結局、『(自称)お姉さんなギル長』は僕らに力を貸すように依頼してきた。依頼っていうより強要? そして当然の如く「双方に行き違いがあったようだな」と、灰色した大人の常套句で謝罪もなく、今までの攻防を有耶無耶にしようとして来た。まあ、それでもいいんだけどね。

 所詮は“口約束”。お互い様。


 だって、僕は最後まで“やる”って明言してないし。命大事。


 それにしても、舐められてはいるよね。それも壮大に。

 ()れも()れも全てサチのクロージングが下手くそだったからに他ならない。て言うか。クロージングに成っていなかった。サチに任せたのが間違いだった。


「あの、これって正式な依頼ですよね。でしたら直接の交渉はお控え下さい。まずは私を通して頂かないと。と、まあそんな訳でして(手をモミモミ)先ずは仲介料を……」


 流石にこれは不味いと思ったのか。ハナが間に入る。

「ちょっとサッちゃん、そんな事より美味しいごはんを所望って言って。あとお風呂も」

 お前ら馬鹿なのか。でも「パンツを至急に所望」と思わず食い気味に叫んでいた僕。アホなのか俺。あぁ、全て生き地獄だった“忌溜まりの深森”での逃避行トラウマのなせる業か。


 頭をガシガシさせ、息を一つ吐いてからサチの襟首には手が届かなかったから、腰のベルトを掴み力任せに脇に退け(サチがヒヤッて小さく悲鳴を上げていた)、正面に出る。舐められたら終わりだ。


「話しを進めたいから行き違いとか、意味もわからず腹を蹴られた謝罪とか慰謝料とか賠償金とかはどうでもいいと言っておく。俺らの要望は指名手配の不問とギルド発行の身分証の取得。それと」


 ハナがピョンピョン跳ねながら僕の前に体をねじ込み「美味しいもの。甘いものを所望。あとは絶対お風呂。……あと、ビスケット?」

 サチは後ろから、その薄く僅かな胸を僕の頭の上に乗せ「私への仲介金もお忘れなく」


 二人の頭を(はた)く。黙ってろ。


 でも正面に向き直った僕の口からは「パンツを至急に熱望」


……もういいです。ごめんなさい。僕らの『溜まりの深森』逃避行トラウマの(カルマ)が深すぎる問題。


「なんというか、大変だったんだな……」

 『(自称)お姉さんなギル長なオバさん』に同情されてしまった。



 ズガタン! と盛大な音がして、そちらを見やると、まさに赤鬼って感じの大男が頭を擦りながら立っていた。そしてドアの上部が抉れるように破損していた。問題はそこじゃない。

 ドアを破損する程の音がするまで僕はこの大男の存在に気が付かなかった。対人警戒は怠ってなかった。『(自称)お姉さんなギル長』にも気づけなかった前科があり、最高レベルに上げていたって言うのに。大男の癖に。


「痛てーな、このドア小さかねえか」


 そんな事はないと思うぞ、普通だ。いや、僕が知るものよりは大きい造りになっている。2メートの身長でも余裕だと思う。そもそも異世界(こっち)の人の基準は大きいし、そのドアの上部を破損させるってどんだけだよって感じだ。


“どんだけ”の人物は赤ら顔で、モジャモジャ頭で両の顳顬部分から綺麗な円錐形の角が1本ずつ生えていた。

 左胸の部分に金属製の胸当てが有る他は上半身裸族だった。表面にコブコブ突起が無数に突き出た長物の棍棒(バット)を右手に携えていた。そのまんま体長2メートルオーバーの赤鬼だろ? 流石に虎柄パンツは履いてなかったけど。


「ここにいたのか、ギルド長。“カトンボ”を落としたのはウチか? 落とすなら落とすと最初に言ってくれ。ビビったぞ」


「ああ、すまなかったな。落ちた先で被害でも出たか?」


「いや、ウチの被害は皆無だ。ところで誰が落としたんだ。興味あるな」


「こいつらだ。新しい戦力だ」


「ほう、こいつらか。って、久いな“雷災の”、お前が落としたのか?」


「その名で呼ぶな、“赤鬼ゲート”」とサチ「落としたのは我が主だ」

(わお、本当に赤鬼って呼ばれてる。チョット面白い)


「フーン、それは……」

 と僕らに視線を廻し、僕と視線が合った。その瞬間、脊髄に電流が流れ、僕は咄嗟に右手を突き出す。“赤鬼ゲート”も後方に飛び距離を取ると金剛棍棒を振り上げる。壊れていたドアの上部が完全に抉れ破損する破裂音が響く。


 その破壊音で我にかえった『(自称)お姉さんなギル長』が叫ぶ。

「止めろゲート! 味方だ」


  殺気を、それも瞬間的ながら膨大な量を飛ばしてきやがった。クソが。

 危なかった。『(自称)お姉さんなギル長』が叫ばなければ完全にテルミッドを撃っていた。たとえ届かないと分かっていたとしても。今ある最高火力をぶち当てるしか選択肢はなかった。そう思い込んだ。咄嗟に。


「何をやっているんだゲート」

 と、『(自称)お姉さんなギル長なオバさん』。


「ああ、すまん、つい」

 と、ニヤリと口角を上げて赤鬼ゲート。


「ツイじゃない、まったくお前は」


 一連を傍観していたハナが、そこで一言「さっき、“身内(ウチ)の被害”は、って言ってたけど、その他はあるってこと?」


「何だって?」

 と、『(自称)お姉さんなギル長なオバさん』「ウチの()に、何かあるのか? ゲート」


「ああそうだな」と掌をポンと一回叩き。

「落ちた先が領兵の駐屯地の真ん中らしいぞ、丁度謁見中のゲス領主の1メトル脇に落ちてもう大パニック、ギルド長を呼んでこいって、息巻いてるぞ。なんで直撃しなかったんだろうな」


「それを早く言え!」と、何故か僕を睨む『(自称)お姉さんなギル長なオバさん』。


し、っ知らんないもんねー。明後日の方向に口笛を吹く振りをする僕とハナ。うまく音は出なかったけど。


「ったく。“(うつり)”の前に領主軍と揉めるのは不味い。私はゲス領主のところに行ってくる。まったく、余計なことを」


 ピューピュー。


「ゲート、お前がこいつらの世話をしろ。食堂で飯を食わせろ。お嬢さんにはスイーツを、小僧には新兵服でも与えてろ」


「お風呂も」


「私の仲介料は」


「そういうことだ。風呂にも入れろ。それとゲート、ドアの修理費は給料から差っ引くからな」

 

「ノーッ!!」と赤鬼が泣いてる。


「ああ、すまんゲート。その前に最下層に連れて行って例の物を小僧にに見せろ」


 途端に泣き止み赤鬼は「どう言うことだ?」


「修理してもらう。小僧は出来るそうだ」


 赤鬼は僕をじっと見詰め「出来るのか?」


 知らんがな。そんな事は一言も言っておりません。

 まあ、とりあえず、三歩進んで二歩下がるって感じだな。気分的には二歩進んで三歩下がるだけど。

 なんだ、“忌溜まりの深森”でやっていた事と変わらないじゃないか。


 やれやれだな。

 ほんと、ギルドの兵隊全てを皆殺しにしなくて済んでよかったよ。実際に()ろうとすると凄く手間だし。なにより、“赤鬼”はチョット無理かな。あれはヤバイ。絶対に勝てないな、うん。いやー、上には上がいるもんですな、最後の最後に登場ってズルくない。皆殺しは止めておいてホントによかった。

 面倒くさくなって止めた怠惰な僕グッジョブ。ヒャクパー返り討ちだったな。

お読み頂き、誠にありがとうございます。


よろしければ次話もお読み頂ければ幸いです

毎日更新しています。

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