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半径1メートルだけの最強。  作者: さよなきどり
第三節 〜サガンの街〜
36/129

036 いいじゃん。やろうよ。構わないさ

本人は至極冷静のつもりですが、所詮……です。

ものは試しと、ご笑覧いただければ幸いです



(ねえ、聞いてますご主人)



 一時的にどこぞかに監禁されるとか閉じ込められるとかなら夜を待って、なぁんて思ってたんだけど。

 その間は安全に寝てられるし、ゴハンだって出るかもしれない。ゴハン! 魔物(クサレ)肉以外の。イイね。“溜まりの深森”から出れたんだからさ、わかるでしょ? マトモなお食事、期待してたんだけどなぁ。


 こいつら勤勉すぎだろ。

 直ぐに始めるつもりらしく、その場で何処からか運んできた椅子に三人仲良く座らせられている。


 如何(どう)すんのかね、っと様子見を決め込んでいたら、兵士の一人が隠し武器の有無を確認するために衣服を改め始めたのだが、陰に隠れてサチの胸を撫で回し始めた。まあロリやショタでハナや僕をターゲットにしないだけマシって言えばマシだけれども、そんな薄いもんにって思わない訳ではないけど、人の性癖(シュミ)に文句は言わないけど、でもね。ハァ、牢屋に入って一眠りしたかった。ハナも起こさないとな。

 さて、しょうがない。やるか。


 と、僕が動く前に『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』が空中で旋回二回の回転回し蹴りでサチのないけどを揉んでいた兵士の頭を吹っ飛ばした。

 兵士は先程蹴られていたハナとは比べ物にならないほどの勢いで横っ飛びし、頭が壁にめり込み串刺しの状態で縫い付けられていた。マンガかよ。人の成せる技じゃない。双方とも。


「無作法な真似は許さないと言っていたはずだが。常々言い聞かせていたはよな、冒険者ギルド直轄の上級部隊の矜持を持てと。そして」

 と、僕を見て。

「起きているんだろう、小僧」


 ここでも小僧呼びかよ。異世界(こっち)はどんだけボキャブラリーがねーんだよ。まったく。


「ハムだ」と、僕。


 ゆっくりと立ち上がり、肩口についた埃を払う。

 オバサンの右顳顬がヒクつく。

 そのまま僕は歩いてサチに近づき、その肩に軽く触れ、“生体再生修復魔技能”で傷を完治させる。


 サチへの治癒にはハナのそれに比べて時間が掛かる。基本は自身の細胞増殖に基づく自然治癒をブーストドーピングさせているに過ぎないから。僕の魔力(アルカヌム)の効き具合に依存する部分が大きい。と、似非賢者様は語る。ハナとはパスが通じてるらしく親和性が高いが、サチへはそうじゃない。

 それでも受けた損傷自体はやはり小さかったらしく、問題なく瞬時に治癒完了した。


「ハナもサチもすまないが起きてくれ」

 後ろ手で戒められた二人の鎖を解いていく。指で摘まみ、“万有間構成力(グラヴィテイション)制御魔技法(・フィネス)・初級上【増幅及び斥力付加】”にて押し潰して切っていく。

 “溜まりの深森”で初級から初級上に上がり、『微』が取れて、こんな事も出来るようになっていた。此処(ここ)まで至る道程はめちゃくちゃ辛かったけど。

 そして今、平気な顔をしているけども、めちゃくちゃ指が痛てぇ。手首裏の腱がピキッとなった。もうカッコつけるのは止めようと心に誓う。


 僕の動きが自然すぎたのか、固まっていた兵隊たちが慌てたように僕らを取り囲み一斉に矛先を向ける。幾重のゆらゆら揺れる穂先がヌメる様に黒く反射して光る。

 おっ、なんか最初に異世界(こっち)に来た時を思い出す。黒フード男さんは元気かしら。ハナ拐かしが失敗した責任で責められてはいないだろうか。思い切り責められていたらいいな。それにしても。


 ハナは最初こそ目をパチパチさせて呆然としていたが今は腰を落とし、腕を伸ばし、口の端をクイっと上げて、太々しく何時でも魔法は撃てますけど何かって姿勢を保つ。

 慌てて打ちまくる愚を冒さない冷静さを以って。


火縄銃型の魔杖(アルカナ・ロッド)”がなくったって元々魔法は問題なく使えていたんだし、でもハナは解っているのだろうか。今の彼女が、“魔法の杖(コントロール)”の魔導具を持たずに魔法を放つって事の意味を。


 ハナが愛用する“火縄銃モドキ(魔法の杖)”の性能面での特徴は二つ。遠距離特化の精密射撃と、対物破壊威力の強弱コントロールの仕組み、それだけだ。

 単に攻撃魔法としての威力はハナ自身の力量に依存している。

 

 射撃について、威力のなかった昔し(対フワ金さん戦時)はそれなりに当たっていたものの、僕から供給される魔力(アルカヌム)量が急増加し、その大きな力に振り回される様になるともうダメだった。そして当てるのを諦めた。


 “溜まりの深森”で逃げ回ってたら、そりゃ遠くに居るうちに済ませたいって思うのは当たり前だし正しいんだけど、当たったら、のお話し。

『大丈夫、いっぱい大きいのをじゃんじゃん撃ってたらそのうち当たるから』

 じゃんじゃん撃ねーじゃん。


 素のハナは威力至上主義(バカ)に他ならない。

 威力のある一発はそれだけ燃費が悪く連射が出来ない。外したらそれまで。魔物等(ヤツラ)ったら中にはメチャ速いヤツもいて、急速に接近され……それで何度死にかけたか……。


 至急的にある程度の威力をキープしながら連射可能な範囲で魔力素粒子(アルカナ)量を微妙にコントロールし、会敵即応な戦闘スタイルの確立を……なんてハナにはどだい無理。

 だって結局一発殲滅至上主義(バカ)だから。


 だから命中精度の向上と連射を可能とさせる有無も言わせぬ(バカでも出来る)工夫が必須だった。

 具体的には“火縄銃モドキ(魔法の杖)”に魔力素粒子(アルカナ)量を極小から極大までを五段階で選べる物理的な機構のセレクトレバーを組み込んだ。


 副次的に連射回転量がとんでもなくなって『極小』でトリガーを“握りっ放し”にすると機関銃並の千発/一分連射が可能となってしまった。

 威力もアサルトライフル程度をキープしてる。駅舎前広場で冷蔵庫相手に撃った(遊んだ)のは単発モードで、対人戦では使い勝手がいい。


 そんな訳で精密標準と各種調整機能装備の“火縄銃モドキ(魔杖)”無しの今の彼女には、駅前広場での冷蔵庫の酒瓶を撃ち抜いた伎倆は皆無。こんなに超近距離なのに。そして、当然魔力量出力のコントロールも出来ない。

 撃てば何処に飛ぶか分からないし、()()()()になっちゃう。

 だって素のハナは殺るなら殺るぞ至上主義(バカ)だから。


 死を振り撒き醜悪で強大な魔物を一発で死滅さしめ葬り去る“力”。それだけが深く底無しの森の中で唯一の、彼女を繋ぎ止めていた“希望”だったから。



 彼女の今の最大打撃力は元世界(あっち)でなら対戦車ライフル並はある。弾速も。それは掠っただけで人なら体の半分が霧散する。500メートル先の魔物とて一撃爆散する。


 それを超近距離で人間相手に室内でぶっ放す。壁と天井に原型を留めない人肉片と赤い血が盛大にぶち撒かれる光景が既視される。

 先程撃った様な手加減なんて出来ないって事。撃てば殺人。

 そしてそれをハナのギルド兵を見る眼光が十分に自覚していることを示し、それでも腕を伸ばすハナ。


 思えば遠くへ来たもんだ。正に逃げ廻るだけしか出来なかったのが……でも、だからこそ……。

 参ったな、背中の芯の温度がスッと下がった感じ。それでも止める気はない。たぶん、これからのこの世界で生き残り続ける為の布石となるような気がする。踏み絵か?


「オラ、ワクワクしてきたぞ」とハナ。


 その言葉に、息が止まるほど驚愕する俺。

 彼女を思わず凝視する。口元は笑っているが目を細め、細く浅い息を吐いている。手の先の誤魔化しきれないほどの震え。


 はぁ〜。


 まあ、なんだ。落ち込む。猿より深く反省する。

 何が『布石』だの『踏み絵』だよ。馬鹿じゃねーの俺。……初心に戻って逃げの一手だな。


 ハナ、オマエにはまだ早い。って感じ?

 違うな、僕等らしくない。イキってた自分がチョー恥ずかしい。ごめんハナ。

 だから……。

 俺は腕を前に伸ばし、歩を進めるべき足を踏み出そうとする。

 一メートルまで近づかないとな。


「お待ちくださいハム殿」と、サチ。

「ここは“溜まりの深森”の中ではありません。落ち着いて下さい。

 ()()()()だけは撃つのをどうか、御収めさめ下さい。目の前にいるのは魔物ではなく人です。ハナ様も、お願いいたします」


 サチが俺の事を唾棄小僧と呼ばずに“殿”をつけた名前呼びで且つ丁寧語だと? 気持ち悪くないか? それに、“人間”ってちゃんと認識しているよ。残念だけど。


「サチ、別に全て殺す訳じゃない。それに、ヤルのは俺だけだ。突破口を開いてそのまま逃げるだけだ。“魔法の鞄(荷物)”を拾え、ハナを頼む。逃げるぞ」


「小僧が、この包囲を前にして、逃げられると思うのか。例え此処(ここ)を突破しても、この数十倍の兵士が外に居るのだぞ!」


「姉様、私達は“溜まりの深森”を抜けてきました。それも最悪の“忌溜まり”です。この実績は伊達では有りません。

 この数十倍のA級魔物(ネームド)に囲まれた折に、このお二人の力だけで突破され逃げ切りました。ネームドは野生の花魁蜘蛛(クイーン)巣郡でした」


 おお、あの時な。あれはヤバかった。マジ死んじゃうと思ったな。数がッパなかった。と、一斉に兵士に動揺の気配が漂う。


「姉様、お分かりでしょう、その意味を。外の兵士もモノとはしません。

 その際は私も全力で逃走ルートを策定しご案内します。お二人は逃げると仰れば逃げ切れるし、逃げる為には容赦はしないでしょう」


「お前たちには捕縛の命令が出されている。それも王都からの特務としてだ。此処(ここ)から無事に逃げられたとしてもいずれ何処(どこ)かで捕まるぞ!」


「違うでしょ、姉様。お二人に頼みたい事がお有りなのでしょう。

(うつり)”を控え、戦力として協力してほしいのでしょ?」


「いいよサチ」と俺。

「いいじゃん。やろうよ。構わないさ。どうせ俺らお尋ね者なんでしょ? 決めたよ。『(自称)お姉さんなギル長なオバサン』も含めて此処(ここ)の奴ら全滅させれば全て無い事になるでしょ。非合法上等じゃん」


「ハム君、私もヤルよ。サッちゃん、決めて。あっち側に着くか。私達と一緒に逃げるか」


「一緒にはいけないと言った場合、私を如何(どう)しますか」

 と、サチ。

お読み頂き、誠にありがとうございます。


よろしければ次話もお読み頂ければ幸いです。

毎日更新しています。

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