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半径1メートルだけの最強。  作者: さよなきどり
第三節 〜サガンの街〜
33/129

033 ハロー、随分遅かったのね。待ちくたびれちゃった

 冒険者登録と言えば例のアレですよね。測定器が壊れるヤツ系のアレです。

もちろん踏襲します。もはや様式美ですので。お約束ですね。壊れないけど。


ご笑覧いただければ幸いです。



 スイングドアを押し開き建物内に入る。


 そこは笑い声と喧騒、猥雑な空気に満ちた酒場的な雑多な空間だった。

 元々酒場だったのをギルド業務を副業としている的な?

 ラノベ的正当様式美。


 でもさ、今まで歩いてきた街の、高く聳え立つ壁に囲まれたギルド内の緊張でピキピキなギルド兵たちの、蜻蛉の化け物に怯え、シンなる開戦前夜的な駐屯地チックな今までのアレやコレはどうしたらいいの?

 今まで散々外して来た癖に、此処(ここ)にきてベッタベタの異世界モノ定番設定ストレートのぶち込みかよ。

 嫌いじゃないよ。その雑なヤッツケ感。


 幾つもの小さなテーブルを立ったまま囲んで、いい匂いのする美味そうなタパスやカナッペ風の小皿料理を並べて、取手付き深椀陶器(ジョッキ)を傾けて談笑しあっている雰囲気は、むしろ好き。まるで元世界(あっち)で姉さんが入り浸っていた裏街の“バル”にそっくりだった。


 でもね。

 飲み食いしている客? が揃って胸筋モリモリゴリゴリで肉厚で重そうなバスターソードや酷悪でトゲトゲなハルバードなどゴツい武器を脇に携え、赤黒い飛沫のシミが消えない革鎧を身につけていなければ。

 これが異世界(こっち)の冒険者ギルド改め“特異生物産資源買取その他業務委託会社”って事?


 そして正直、裏設定とかゴツいおっさん達は如何でもよかった。

 手にして今まさに口に運ぼうとしているカナッペ風食物に僕らは釘つけだった。

 だってそれって絶対に魔物(クサレ)肉じゃ無いし。だって匂いが違うし。なんの肉か知らんけど、彷徨える飢餓な三人には如何でもよく、ヨダレをジュルジュル垂れ流し、今まさにおっさんの口の中に消えゆく絶対美味しいヤツを充血したギンギンの目で追って、少なく無い殺気(ビーム)を放っている今現在(ココ)


 それをフンヌと無視してムシャムシャ旨そうに咀嚼する胸筋モリモリおっさん。

 モシャモシャ髭にクラッカーのクズがくっ付いてるぞ。クソが。


「それ、すっごく美味しいですよ。でもダメですよ食べちゃ」


 と、最奥のカウンターで肘を突いて両手の掌で顎を支えた、胸部をボインと載せる風のデザインな例の凶悪な黒エプロンドレスを身につけた女性が悪戯っぽく笑い「わたしのギルドの私の兵隊達専用だからね」とチャーミングに宣った。そして、


「ハロー、随分遅かったのね。待ちくたびれちゃった。と、もう一度言ってみる」


 サチはハナを守るように前に出て体で隠しながら。

「何故オマエがここにいる?」


 守られている筈のハナは頬を染め、よく見えるようにサチを脇に押しやり、若干頬をポーッとさせながら。

「綺麗なお姉さん再び。そしてギルド受付嬢はやはり定番なボイン・オブ・バインなのか。許すまじ」


 僕は如何(どう)見ても綺麗系のお姉さんな、でも絶対に妙齢(オ……)な人物にウンザリしながら「お手柔らかにお願いしますね」と小さく呟いておいた。


 オバさ……お姉さんはサチに向かい。ハナにはちょっと引き気味に軽く無視し。

「あら、随分じゃないかサマンサ。オマエ、何時(いつ)からこの私にそのような口を利けるようになった。それに此処(ここ)は私のギルドだ、私のギルドに私が居て何の不思議がある」


 オバさ……お姉さんは『飲んで騒いで』の“バル”な店内の片隅の、なんでこんな処に銀行出張窓口が? 的な妙にカッチリした造りのカウンター内に、ちっとも優しそうでは無いのに実際は優しそうに見える笑みを浮かべて頬杖を突き(のたま)う。


オバさ……お姉さんギルド長……、ああもう面倒くさい。略して『(自称)お姉さんなギル長』全然略してないし逆に長くなっちゃったけど色々自制した結果です。

『(自称)お姉さんなギル長』とサチは互いに火花を散らす視線をぶつけ合っていた。


 ギルド用の実務カウンター内にも、飲食スペース内にも今まで胸筋おっさん達に目がいって気づかなかったが、黒ゴス白エプロンドレス姿の事務仕事中や給仕中の、こちらは純生なキレイ系お姉さん達が忙しげに働いていた。

 もっとも耳が尖ったスレンダー美人なエルフさんだったりバインな兎耳バニーな獣人さん達だったけど。うむうむ、僕的にはグッドで眼福である。って、痛いっす! ハナに足を踏まれた。


 ハナとわちゃわちゃやっている脇でサチと『(自称)お姉さんなギル長』は未だバチバチとやり合っている。やれやれ、もっとヤレ。


 ふと思ったのだが、定番の依頼票が貼ってあるであろう例の大型ボードはどこを見廻しても存在していなかった。システムが違うのかな? ラノベ定番通りにはいかないよね。ん? なんか今、視界がブレた、様な。


 と、一人でキョロキョロしていたらハナがやっぱり食物に引かれてフラフラと小皿料理が並ぶカウンター方向へ。侯爵深窓の令嬢の見る影もない凋落ぶり。哀れ元悪役令嬢。でも今はやめて、トラブルはイヤですから。慌ててハナの腕を取り止める。ウン? なんだ、僅かな違和感が


〈∮検索及び検証考察結果を報告

現況……。


「ウロウロするなと言っただろう小僧」


 僕じゃなくてハナね、ウロウロしてたの。まあいいけど。久々の似非賢者様の検証考察結果は『(自称)お姉さんなギル長』さんの横からの介入で聴く事はできなかった。まぁいいんだけどね。


「ところで、何しに来たサマンサ? この()()に、この()()に態々」

 と、サチに視線を戻し、片頬をクイっと上げてすっごく上目線で。


「……たまたま通りかかっただけだ。意図していた訳ではない。私の従者二人の冒険者登録が済めば直ぐに出て行く」


「たまたまな……。まあいい、それより、嘗ての(A)の若き才女白金(1級)の“雷電の厄災”様が“(C)”に落ちて最初の部下か。さぞかし優秀なのだろうな」


(C)(A)の下では無い。それに私は今でも(A)白金(1級)資格を保有している。今は(C)に誇りをもって勤しんでいるだけだ」


「そうなんだ、でももう戦えないから鞍替え、なんでしょ。知ってるよ。カワイそう」

 完全に小馬鹿にした笑いを含んだ、僕らを品定めする上からの粘っこい視線。拳を握り込むサチ。


「てへっ。おばんでやんす。ちょいと失礼しやす」

 と、完全に長いものには巻かれちゃおう。な、僕は愛想よく且つ、ド上品なご挨拶で面倒くさいこの場をサッサと脇にどけ、懸念である最重要事案を処理する事にする。

「なあ、サチ、小銭ぐらいあるだろ、あの小皿料理を買ってくれよ」


「お願いサッちゃん。私はあの生ハムっぽいのが乗ったのがいいわ」

 そっちかー。僕はトマトとチーズのがいいかな。


「……なるほどそうか、わかった」

 少しの苛立ちを滲ませて『(自称)お姉さんなギル長』様。

「構わないぞ。鑑定が済んだ後ならな」


 え? いいじゃん。食ってからで。ほら、ハナも頬膨らませてブーブー言ってるし。何だよ、何でそんな怖い顔してんだよサチ。いいじゃん。ユウズウがきかないなあ、もう。


 傍らのズッキュンバッキュン的なエロフ、いやエルフなお姉さんに顎を釈って指示を出し、裏から何やら贈呈のクッキー缶程度の大きさの、上板に手の平の絵が書かれたブツを、空いている丸テーブルの上に置かせた。


「冒険者に登録する際には最低限の魔力量が求められる。それを測る器具だ。その上に掌を(かざ)すだけでいい」

 とサチが説明してくれた。


 おおー、これはあれか、お約束のアレか。魔力量でピカーってなるヤ

ツか。あるんだーそう言うの。初めて見た。なんか感動。


「まずはお嬢さん、アンタからだ」


 ハナはクイっと顎を上げ、恐れもなく測定器に近づき、躊躇なく掌を器具の上部に『ズバン』と活きよく突き出す。途端に測定器天板から純白なオーラ状の光の帯が幾重に噴き上がり、四方を覆い隠す様に放たれ、全ての色を奪う。光は物質的な圧まで伴うのか、頬の皮膚を後ろに押しやる。おお、すっげげー。すっげげー。


 ハナが手を離すと光の奔流も止まった。カッケーぞハナ。

 当の本人のハナも、どうよ! と言わんばかりに鼻の穴をおっぴろげ「屋敷にも似た様なものあったし、慣れたものよ」

 でも若干笑顔が引き攣っているゲ、なのが不思議?


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 ハナ様は公彦とパスが通じており、魔力の供給を受けております。元々高い魔力量を持つハナ様でも、想定以上の力の放出に戸惑ったのでしょう。

 と結論 ∮〉


 ちょっとだけバカカワイイ(残念な)ハナであった。


「コレは、想定以上か……さすが侯爵家の血は伊達では無いか。いや、それとも……」

 誰にも聞こえないであろう声で、思わず小さく呟いてしまったっと謂う感じの『(自称)お姉さんなギル長』。聴力の感度が“忌溜まりの深森”以来、一般的な生活レベルにいまいち下方調整(ダウンサイジング)できていない僕の耳に届いてしまう。


 まいったなぁ、侯爵令嬢って知ってるのね。なんでだろうね。やだなぁもう。僕は依頼票の貼られた大掲示板を眺めながら、マジ如何(どう)しようか暫し思案する。


「すごいですエリエル様‼︎」


「まあ、この器具では正確な数量は測れないが……規格外ではあるな」


 やめて、ハナの背が反り返って折れそうだから。変に褒めると後が大変だから。と、『(自称)お姉さんなギル長』は僕を見て「次は小僧。お前だ」


 僕はゴクリと喉を鳴らし、いざ!クッキー缶に手を翳す。(かざ)す。かざす。かざす。カザス。カザ……ス?

 ピカっとしませんけど。ちっとも。ウンとかスンとか言えよ。

 ……ちょっとぐらいイイじゃんかよ。……ケチ。


「魔力量ゼロだな」

 と『(自称)お姉さんなギル長』様。

 す、すいません、スイッチ入ってますか? ああ、入っているのね。故障でもない。そうですか。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 あのですね、何度も言いますが、公彦の魔力とこの世界との魔力は同質であるものの、両極端、反発するものです。ですので、この魔力量を測るこの器具ですと、当然ながら結果はゼロとなります。

 と結論 ∮〉


 そーーーだと、思った!

お読み頂き、誠にありがとうございます。


よろしければ次話もお読み頂ければ幸いです。

毎日更新しています。

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