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半径1メートルだけの最強。  作者: さよなきどり
第三節 〜サガンの街〜
30/129

030 冒険者ギルドに行って

いよいよギルド内に侵入します。


ご笑覧いただければ幸いです。


※注

黒い◆が人物の視点の変更の印です。

白い◇は場面展開、間が空いた印です。

 街から全ての人間の姿が消し去ると、同時に一切の音さえも掻き消える事を知った。西の傾き初めた斜めの太陽光がつくる長い影が縁取る無人の街は、何処か死にいく虚無に覆われる。


 いや、時たま微細に揺れる風音の隙間に忍び込む僅かな雑音が聞こえる。人を不快にさせる酷く高い波長の蜻蛉モドキの金属的な羽音が。

 サチはさっきから下を向き爪を噛みブツブツ言ってる。ハナは蜻蛉モドキから一切視線を外さない。


「もしかして、“(うつり)”って、あの“蜻蛉モドキ”が空から来襲するスタンピートの事なのか?」と僕。


「……そうだ、あの蜻蛉モドキはスピピデムーマ。名前は可愛いが凶暴だ。単体では大した事はないが、あれが何百と群れて、この街へ襲い掛かってくる。聞いた話では空が真っ暗になるらしい」


「それはまた……」


「今年の最初の一匹ってことだろう。斥候か、先触れか、遊びか、あの一匹から九日後にそれは始まるって話だ」


 うむうむ、それは剛毅なことだ。

 黙り込み、今は小さな点にしか見えない西の空を眺める僕ら。

 誰も居なくなった街の真ん中で。


「……オーライ」と僕。

「まだ九日間もある。取り敢えず動こうじゃないか。この街から逃げるにしても留まるにしても、軍資金が必要だって事だよな。予定通り冒険者ギルドに行って魔晶石を売って冒険者証(タグ)を造ってもらおうぜ」


「ダメだ! さっき言っただろう。あそこにはオバ……お姉様がいるんだぞ。殺される」


「でもさサッちゃん、サッちゃんの言う通り諸々悪事がバレてるならさっき見つかって声掛けられた時点で御用となってなくちゃ可笑しくない? 大丈夫だよ、さっきも言ったと思うけど、口裏なら幾らでも合わせて挙げるし、嘘だってドンとオーライだよ」


「エリエルさま〜」


「なあサチ、オバ……お姉さんって偉いんだろう? ラノベ知識で悪いんだけど、偉い人はカウンターに座って受付とか魔晶石の買取とかしないだろ? それともギルドはそんなに人がいないのか?」


「いや、“溜まりの深森”が近くに控え、汽車の駅があるこの街にある支部が小さい訳がない。多分この街の領主が抱える兵団より数も兵力も高いはずだ。なによりオバ……お姉様が自分の勢力を拡大していないはずがない」


「ならさ、ウツリだかツワリだか知らんけど、それが始まる前にさっさとヤルこと済ませて逃げようぜ」


「ねえ、ちょっと聞いていい? さっきからお姉さんの前に“オバ”って付けて一拍言い淀むのは何故?」


「「えッ」」


 ◇


 冒険者ギルドを見つけるのは苦労した。

 すぐ其処(そこ)にあったのに。高架軌道の城門前駅舎広場の直ぐ近くだった。っていうか、一角を占めていた。異世界モノ“お決まり”のスイングドアを押し開いて建物に入るとそこは受付と酒場が同居していて荒くれ者がガハハハと呑んだくれている訳では決してなく、なんというか、外観から違ってた。


 広さが桁違いだった。

 なにしろ駅舎広場右側面は言うに及ばずそこから真っ直ぐメインストリート沿いにずっと続いていた。

 最初に駅舎を出て歩いた時はなんの壁なのか、必要以上に無粋で厳ついなと思っていた。景観最悪ってハナが。それが冒険者ギルドの敷地を囲む塀だなんて、思いもしなかった。


 灰色の全てを拒むが如く高い堅牢が四方を囲む。入口は駅舎広場の中央部にあった。だから三人は回れ右して駅舎まで戻ってきた格好になった。そしてその入口ときたら、質量マックスな鋼鉄製のデカすぎる両開きの門扉が眼前に迫り、聳えていた。上下左右に伸び過ぎで、最初はそれが入口なんて気づきもしなかったのだ。


 八の字に人一人分だけ開いた厚さ三十センチほどの鉄扉の隙間からは広い運動場と、機能重視な丸屋根平家の灰色の建物が幾つか連なって建っているのが見えた。

 刑務所的な纏ってる雰囲気が厳しすぎるが、一番近いのは出撃前夜の駐屯地、正しく戦闘要塞だった。


 そうかぁ、戦ってるのかぁ。ご苦労さまです。南無。


 総鋼鉄製門扉正門の両脇には軽鎧の槍を斜め携えた警邏門番が二人、背筋を伸ばし立っている。街から人が消えた時から初めて見る人だ。流石に逃げ出したりしていなかったようで、でも何処か落ち着かず、西の空にチラホラ視線を向けていた。


 サチが首から下げたギルドの身分証(タグ)を門番に見せる。

 門番は顔とタグ、何故か左手甲の刺青(タトゥー)を何度も見比べ、幾つかの同じ質問を繰り返して問いかけてきた。念入りと言うよりも、慣れていない。そんな感じだった。門番はひどく若いし、相変わらず西の空にチラホラ視線を向けていたし、落ち着かない。


 急にモドキの羽音が大きくなる。急降下して遊んでいるのだろう。

 途端に全身をビクつかせる門番兵。その度に手が止まる。

 そして、いい加減長くて苛立ち始めるサチと、それを察したのか、慌てて一行を中へ通してくれる。ペコペコとお辞儀しながら。街に入る際の検問者とのギャップが酷い。色んな意味で。

「街への出入りの検問は領主の専権事項よ」


 厳つい門扉の向こうには、街で一人も見なかった冒険者(?)達が結構な数で居り、訓練をしていた。何故か皆若い。最上でも三十歳に届いてないんじゃないかと思える程に。そして大部分が幼さがまだまだ残る二十歳前後、いやもっと下か? 流石に今の自分の見た目年齢より幼い者はいなかったが、同い年程度の者は若干数見られた。


 ため息が出る。それはこのギルドが相当逼迫した状況であることを指し示しているのではないだろうか。少年兵って、何処(どこ)ぞのゲリラだよ。兵員数とその練度についても然り。何がこのギルドに起こったのだろうか。


 運動場なのか鍛錬所なのか、結構な広さのそこで揃いの重鎧をフル装備し、左手に大楯、右手にバスターソードを構える若者(若干女性)達が、大きすぎる鎧にワタワタし、タイミングが合わないドタバタ隊列行進のその横で、標的に炎の魔法を連続で打ち込む練習をしているが、威力も精度も速度も最初に出会った頃のハナよりは若干マシっていう練度だった。

 軽鎧の集団は三人ひと組での槍突きの連携練習を繰り返し行っていたが、言わんがな。

 

 なんだか高校野球の県大会を見学している気分だな。まあ二回戦で十五対十三のいい勝負って言えば良い勝負って感じなんだけど、親戚の子が出ていなければ勘弁な、って、そんな感じ。


 なにより、上空の蜻蛉モドキに気もそぞろで、いたずらであろう急降下のその度に、甲高い悲鳴のような羽音に肩を窄め身体を強張らしている。その度に鍛錬が一時停止する。


 それでも、此処(ここ)は僕がラノベ知識で知っているお気楽で和気あいあいな和み系巨乳orツンデレエルフ受付お姉さんの冒険者ギルドとは完全に異なる。

 もろ軍隊じゃん。集団戦闘力保持組織じゃん。軍閥ですよねコレ。


「なんだあれは、練度が酷すぎるぞ」とサチ。


「あれは訓練生とかのビギナークラスなんじゃないの?」とハナ。


「……それにしたって……士気の高低が妙にチグハグだ。士官は何をしているのか。……兵曹クラスがいない? どういう事だ、なんで下級兵(ガキ)ばかりなんだ」


 士気ね。そうなのだ、よく見ると鼻息荒く目を血走らせたハッスル君と、明らかに目が死んだダラダラなフニャタコちゃんと、両極端に別れている。1対3ってとこか。モドキにビビってるのは全員だけど。

 そして何だろう。聳える塀に囲まれたこの坩堝のような空間に漂っているこの重苦しい空気。蜻蛉モドキだけが原因って訳じゃなさそう。



「なあ、サチ。冒険者ギルドって、どこでもこんな感じなの? いや冒険者ってもっと個人主義で独自にパーティーとか組んで、わちゃわちゃしてるものじゃないのか?

 それに、これって練度はさておき見た感じ、既に軍隊だよね? モロだよね。いいの? 領主とか国とか許してくれるの? 軍閥化だよねコレって」

 と僕。


「わちゃわちゃって、意味が分からんが、独自のパーティーを組むには階級を上げないと無理だぞ。実力の無い者がいくら集まっても素人に何が出来る。ただ死ぬだけだ。

 我々、冒険者ギルドは魔晶石採取や警護、薬草採取を主な業務とした営利社団法人だ。趣味や善意で魔物と対峙し討伐を行っている訳ではない。


 確かに魔晶石は今の世の中に無くてはならない生活社会の基礎だ。その需給に答える為に我々が供給を下支している。

 だが魔物は強く、我ら人族は弱い。そして魔物は絶えることはないが、人は死ねばそれまでだ。人材は有限だ。だから我々は徒党を組み、且つ効率よく死なないように狩る技術を得て力としてきた。それを、誰に遠慮する必要がある。


 それに我々、|異生物産資源買取その他業務委託会社《冒険者ギルド》はこの大陸中のどの国より歴史が古い。国ごときに文句は言わせない」


 まあ、なんでしょう。驚き。言い換えれば、社会生活の基盤である魔晶石供給が確立されたから国が興ったらしい。

 そして、ならなんでギルド自身が国を興して王にならなかった? ギルドって大陸中に各国家から干渉されない独立団体として浸透していると言っていた。なら人任せにしないで大陸統一だって出来ただろうに。


 不思議? サチの祖母の『オババさま』は“贖罪”って言葉を使っていたそうだけど、やっぱりわからん。

 まあ、国家に干渉されない独立団体なんてそれだけで一大権力結社だ。リアル・ディープステート? 悪の枢軸、はたまたショッカーか。 痛っ、なんで殴るサチ。

 まあそれだけ強大な力を持っているって事だろう。


「そうならいいのだが……」

 と、消え入りそうな声で呟いたサチ。



 額に汗をかき訓練に勤しむ冒険者? 兵士? の横を抜け、それから随分と歩いてるけど、未だ目的の場所に着かない。やたら広く、建物は皆同じっぽくてやたら入り組んで迷路のよう。

 サチ、完全に迷ってるだろ。


「だって初めての場所だし。おっと、ここはまずいな。()()()だ。危ない。一歩でも入ったら『間違いでした』では許されないからな。クワバラくわばら」


 だから、そんなトップシークレット、シャラっとバラすなよ、ってか関係者でもない俺らに教えるな! “知ってる”って、バレたらそれだけで恐ろしい。殺す気か! バカサチ。


 しかしなぁ、自前の冒険者? 兵士? を使って直接に魔物をぶっ殺して最速安全に魔晶石を仕入れ、そのまま硬貨に造幣してしまう他を寄せ付けない独占すぎる完璧システムがエゲツない。


 ここはマトモに機能しているとは思えないけど。

お読み頂き、誠にありがとうございます。


よろしければ次話もお読み頂ければ幸いです。

毎日更新しています。


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