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半径1メートルだけの最強。  作者: さよなきどり
第十節 〜十字路(クロスロード)〜
124/129

124 僕たちは再び“溜まりの深森”に分け入る 1

124 127 126 127 128は“ひと綴りの物語”です。

(うつり)”二日目から次の冒険に出発するまでのお話し。

 《その1》

ご笑覧いただければ幸いです。

※注

白い◇は場面展開、間が空いた印です


 夢の国の“灰かぶり姫”的な領主館の尖塔を頂点とし、五芒星の城塁の五つの端まで“花魁蜘蛛(クイーン)の糸”を張り巡らした。

 巨大な五枚のヒダが複雑に波打つ円錐型の蜘蛛の巣が出来上がっていた。夢のお城改めホーンデットマンションにジョブチェンジ。って言うよりも新しいアトラクションって感じかな。まあ、似たようなもんだし。

 朝日の最初の光りを受けて薄く黄金に輝く様は美しい。


 元々の案では委員長系ギル長の超絶幻術(ルナマジック)で囮(魔導具化して複数)を配し、カトンボを呼び込み文字通り巣に絡め取り、数多く在るであろう塔の狭間や敷地の塹壕から傭兵が槍や弓で魔晶石を狙って仕留め、泡に変える作戦だった。

 魔晶石は収穫できないが仕方がない。動員数が少なく、手一杯になる事を予想し、その対策で僕とハナが外に出て蜘蛛の巣の上を走り廻りながらカバーしていく予定だった。


 思った通り、尖塔内部は空洞で回廊式に成っており、外から見えない様に数多くの狭間が設けられていた。雨漏りが心配になるぐらいに。

 敷地の塹壕も床も壁もレンガを敷き詰め、まるで迷路のように幾何学的に堀り巡らせてあった。やっぱりアトラクション。人気は(すこぶ)る悪そうだけど。


 やはりと言うか、元々がその為にこの尖塔を設計し、建てたのだそうだ。コウイチの指示で。たぶんギルドが崩壊した後の“(うつり)”対策で、より効率的にカトンボを排除するために。


 ただそれはそうあったらいいネ、的な架空の話だと思っていた。本当にそのままの意図で建てられていてビックリ。

 何故(なぜ)か? 先ず“花魁蜘蛛(クイーン)の糸”の量が絶対的に用意できない。ギルドの擁壁内で水平に張るだけで二年間の生産量の約半分が必要だった。今回のように領主館外周全部を網羅するには二年分では無理だろう。三年、いや下手したら四年分はまるまる必要になるかも知れない。


 やはり最終形態は領主館のように高い塔等を利用した“ハエ取り紙”の罠方式に至るはずだが、過去のギルドはコストの問題で断念し、現況の擁壁方式に変更し、不足分を兵隊の犠牲でチャラにしようとしたのだろうか? 最低ですね。

 だいたい、空中飛翔襲来型のスタンピードに対してギルドの擁壁形状で底に落とすって最初から無理があるだろ。最初に考えたヤツは何を考えているのかって思う。まさかと思うが“虫取り網”をイメージしたのかな? 大概だろう。


 『蜘蛛糸が足りない問題』に気づく前は、単純に狭間や中空でスカスカな高層建築物を建てる技術がなかったのかと思ったが、“堅牢”の魔法が掛けられた擁壁や高架軌道が造れるなら容易だろうと、お思い直した。


 因みに今の領主館の尖塔に“堅牢”の魔法は掛ていない。全て物理的な建築様式で力学的に建てられている。コウイチが設計したらしい。

 中世欧州の尖塔の構造も解析は出来ているが、実際に建てるとなるとロストテクノロジーに片足突っ込んでいると思うのだけれど。ちなみに外見のゴテゴテ乙女チック装飾は今は亡き赤鎧公爵三男の趣味らしい。凄いな。


 今回使用した蜘蛛糸はギルド擁壁組では二年間で溜め込んだ自前で、ここ領主館組は僕とパスが通ったルルたち眷属の花魁蜘蛛(クイーン)が僕からバンバンドバドバ魔力(アルカヌム)を吸い上げ、あっという間に造り上げてくれた。流石に疲れたが、疲れたのは意思疎通で指示を出した頭だけで、魔力(アルカナム)的には全然問題はなかった。

 

 最初、ルル達が眷属になる前は“蜘蛛の巣”は“無し”で考えていたが、非常に甘かったと痛感している。魔物を眷属にするに当たって躊躇していたが、あそこで決断できていなければ今の僕らは無かった。眷属になってもらっていたから行動に出られたと言っていい。


 その点、コウイチはどう考えていたのか。機能満載の上物(ウワモノ)は大金を投じて建てたのだから、対策がない訳ではないと思うのだが。『耽溺(たんでき)』は魔物には効果がないと言っていたが。

 ツルさん曰く。

『今回が終われば手に入る』

 とのことだが、詳細は知らされていない。


 ◇


 “(うつり)”が終わり、一日を挟んで早々に僕らは街を出た。誰にも知らせず黙って。それはそうだ。僕らは追われる身だから。僕が転移させられ、始まりの街でハナと出会った時からずっと。理由は分からないが。

 そして今はコウ・シリーズとかコウイチとか。特にエルフ爺ぃサトリはヤベー。あれは関わっちゃいけない典型だ。


 約束の情報も嘘は言っていないが全てを話している感じじゃなかった。操作された情報はコッチに何の知識もないうちは毒にしかならない。聞かないほうがマシってレベルだ。

 資金的にも身分証明的にも後ろ盾になろうと提案され、今、部下が此方(こちら)に向かっているところだとの言葉からソッコーで逃げることを決定した。まあ、いろいろ面倒だからギルドからも街からも直ぐに逃げる気ではいたのだが。


 エルフ爺ぃサトリは今はギルドの地下迷宮的な人も近づかない部屋の一室で軟禁されている。バレていないと思い込んでいるストーカーを人知れず(さら)うなど容易い。嘘。ドンって突いてバンってドア閉めただけ。


 懸念してたけど、高位貴族のくせに本当に一人だったみたいだ。セーフ。身から出た錆っていうか、注意一秒怪我一生っていうか。まあ、二千年も生きてるツワモノだし、パスを通した仲間のハーレムももうすぐ到着するらしいし、大丈夫だろう。死なない死なない。


「あの人、本当に二千年も生きてるのかな? 枯れてるって言えば枯れてるんだけどさ、それだけ長く生きてるならもうちょっと、こうさ、なんて言うの? 千年も生きたら亀だって千年生きた“亀”ってなるじゃない?」

 と、ハナ。千年は鶴、亀は万年な。でもリアルな亀も千年は生きないぞ。確か最高二百歳ぐらい? でも、そうなんだよね。確かに千年亀っぽさが全然ない。


 寿命は心拍数の速さで決まるって言うけど、エルフの場合はどうなんだろう。

 僕がエルフサトリに『爺ぃ』と付けるのは二千年の年月を揶揄してじゃない。たぶん同年代(十七才)だったとしても『じじぃ』って呼んでる。ほら、クラスに一人はいるじゃないですか、知識だけはあって妙に“老け達観”してる風を装ってる奴。ソレ。

「知識は豊富って感じだけど、でも活かし切れてないっていうか、東大法学部入れたけどそれだけって人? ベースが子供?」


 成る程。魔法的には不死って在りそうだけど、生物的にどうなんだろうって思う。頭潰せば死にそうだし、復活もなさそうだし。謎の魔法生命体って訳でもなさそうだし。


 エルフってもしかして、長寿種族ではなく、ただ単に細胞分裂の際に劣化しない。老いないってことではないだろうか。細胞のフルコピー。それなら有りうる? でもそこには当然成長はない? 唯の現状維持? あの少年の姿のままなのにも納得する。


 それは言い換えれば大人になれない。成長もしない。知識もただ溜め込むだけ。経験値が蓄積されない。

 そしてそれを処理し、活かすのは所詮十七歳で凍結された脳みそだ。

 行動基準は模倣。頭のいい大人ならソウするだろう。二千年生きた賢者ならコウするだろう。『〜だろう』だけの常識。



「小僧、少し休ませてくれ。水を飲ませたい」


 手頃な岩に腰掛けた子供にサチが水を飲ませている。チュパチュパ飲む姿は可愛い。まだ目玉は再生されていないが。サチが額の汗を拭ってやるなど甲斐甲斐しい。何故かハナが一緒に並んで座り水をチュパチュパ飲んでいる。やぱっぱりサチが額の汗を拭ってやるなど甲斐甲斐しい。ハナ、幼い子供と張り合うのは止めなさい。


 水を飲み終わった少女に今はサチが治癒魔法を掛けている。毎日少しずつ施さなければならない。

 少女は治癒魔法を掛けられながらうつらうつらと揺れ眠そうだ。流石に子供の足だと大変だろうと、背負っての行程だが、それでも疲れるんだろうな。ちなみに背負ってるのは僕。何でだ?

 もう一人の男の子は怪我も軽く完治済みで、元々がサガの街の子だったので、委員長系ギル長に頼んできた。



 『耽溺(たんでき)』をポーション化したものをコウイチの命令で二人へ与えていたらしい。何の為か解らないが。実験だろうとツルさんは言っていた。

 そんな幼児虐待。いや、暴力を何の迷いもなくオルツィは行っていた。


耽溺(たんでき)』が完全に抜けきった今では自分の行動に恐怖し、贖罪の気持ちに押し潰されそうになっていた。中毒末期だといえ、そんな二人をサチの迎撃と言う名の“お遊び”に使った事も含めて。

 いくら操られていたとは言え、ツルさんに罪はないとは言えない。ただ、やはり怖いのはコウイチだと思った。


 彼女はコウイチから送られてきたらしい。その時は既に深いところまで『耽溺(たんでき)』に浸かっていた。でもこの程度なら僕なら解除一発なのだが、それを行うと危うい感じがした。

 (おり)が薄いくせに深く奥まったところまで浸透していて、無理に取り除こうとすると激しいバックラッシュが起こりそうな気がしたのだ。感だけど、でも確信に近い。


 その為にも毎日少しずつが肝要だと思う。そしてコウイチに返すわけにも行かず、なにより少女の手がサチの手を掴んで離そうとはしなかったことから、やむなく連れて行くこととなった。

 僕は置いていこうとしたのだが、サチが強固に反対し、ハナを説得してしまった。そう言うことだ。


 女の子は自分のことを何一つ話さない。自分のことだけではなく、言葉自体を口にしない。喋れないのか喋らないかさえわからない。ただコチラの言うことには反応するし、理解も早い。聡明さも感じる。名前を聞いた時だけ寂しそうに首を振る。

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお読み頂ければ幸いです。

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