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半径1メートルだけの最強。  作者: さよなきどり
第十節 〜十字路(クロスロード)〜
123/129

123 夢見た在りし日の幻想のように 3

121 122 123 は“ひと綴りの物語”です。

っていうか、ひとりごと?

 《その3》

ご笑覧いただければ幸いです。

※注

黒い◆が人物の視点の変更の印です。

白い◇は場面展開、間が空いた印です。


 ◆ (『引き続き、賢老エルフ サトリ』の視点です)

 それであるならば早めに潰そう。全てを奪って。新たな力を得る為に。



 “(うつり)”が始まるまで小僧の動きは地味だった。

 それに比べ、【 ボクの女王様は素晴らしかったな。ボクを導いてくれた。愛してくれた。今直ぐにでも跪き足の甲に接吻を捧げたい。人が誰も居なければ、ううん、チャンスが有れば絶対ヤッてやる 】


 残念ながらワタシは小僧の指導する班に組み込まれてしまった。そこは魔人魔女を寄りすぐって集めていた。決して悟られないようにスキルを消し、レベルを下げておいたのに、小僧にあっさりと見破られてしまった。その時、何もかも見通すように嫌らしく笑った顔を忘れない。


【 殺す 】


 小僧はワタシが観えたのか? 隠した内側までを。ワタシの“解読解析”では奴は全く観えなかったのに。観えたものは真っ白く聳える壁一面だった。観るべきものがまるで無いかの如く。そう考えると納得できたが……。

 小僧の指導については言うことはない。殺す。


 短い時間でアラクネの技術と“尊遺物(レリクト)”の武器を復活させた事には少し感嘆したが、やはり“表象印契”など演算領域を無駄に消費する効率の悪い魔技法はハーレムの人員に習得させたほうが危険を回避出来るのにと思った。許容量オーバーで廃人になりたくなければ。


 それとも相当の容量を持っているとでも言うのか。それでも限度が在る。アラクネとは違うのだ。

 本人は楽しんでいるようだが損得の損得貸借の計算もできない愚か者としか思えなかった。

 


 侮っていたのだろうか。

 そうなんだろう、たぶんワタシは小僧を侮っていた。

 下らない矮小な小物と蔑んでもいた。



 ワタシの計画は単純だ。ひとりで出来る事は少なく、私個人の武力を以て小僧を捻り潰す。それこそ楽しみだ。“(うつり)”の混乱の中でなら最初に攫って甚振ることも出来るだろう。命乞いをしてヒーヒーと泣き叫ぶ様が目に映り少しだけ下半身を濡らす。肉欲を失って久しい自らの肉体の変調に更に興奮した。

 快楽の素晴らしさを、生きる喜びを再確認できた。すまないな小僧。


 “(うつり)”一日目、小僧は当初こそ参戦したが、後は治療室と呼ばれる指令櫓の下の建物に籠もったまま出てこなかった。治療室はポーションの在庫倉庫を兼ねており、特殊なポーションも揃えているのか、重症者を運び込むことになっている。それとも得意の幻術で生きているように見せ掛けて、兵たちの戦意の低下でも防ぐか? 意味のない愚行だ。


 本当に何をしているのか。ただ、小僧の戦闘力ではこのカトンボの襲撃には耐えられないだろう。当然だが、このまま籠られると此方(こちら)からは手が出せない。まあいい、そもそも決行は二日目と考えていた。


 明日、ギルドに忍ばせていた公爵次男の手の者が現場指揮を務める副ギルド長を後ろから刺し殺す事になっている。前回でも同じ手を使っており、直接的なギルド崩壊の原因だった。副ギルド長は脳筋馬鹿だが戦力の要だ。それが早々の退場では前線は崩壊するだろう。

 公爵次男も姑息だが、ローコストで戦略的確実性に実に有効な手段だ。それを未然に防げないのはギルドの懈怠だ。戦争は非情だ。何なら殺られる前にギルドも領主館を殺ればいい。


 それでも、観ている限り一日目を無事に超えられるとは到底思えない。ギルド兵は殆どが新兵であり数が絶対的に少ない。良く訓練されているがこれが初実戦だろう。圧倒的に経験値が少なく、何処(どこ)かが(ほころ)べばそこから一気に瓦解するだろう。


 今日一日を超えられれば経験と自信となり、三日目を終わらせる事も可能だと思われるが……それも無理であろう。新たな装備と確かな訓練に裏付けされた緻密な連携、それだけでは超えられないのが実戦だ。

 小僧が新たな秘策を用意できなければ詰む。そして小僧には無理だ。


 小僧は小僧なりに良くやったと思う。所詮は一週間やそこらでは実現不可能な話しなのだ。ワタシでも無理だ。

 それはそれでワタシは実行を早めるだけだ。

 同室のジンクには可愛そうだが、彼は生き残れないだろう。たぶん逃げないから。哀れだと思う。



 手の震えが止まらない。

 冗談ではない。ワタシの脊髄やジンクの目玉を再生するどころではない。生命を、創りやがった。


 運び込まれてきた兵士は既に死んでいた。胸が陥没していた。興味本位で“解読解析”で覗いてみても、脳に壊死が進んでいないだけで蘇生のタイムリミットを大きく超えていた。……それを。


 それは厳密に言うと蘇生ではない。あれは人族でも亜人種でもない、新たな種族だ。より魔物に近い。

 奴は死んだ肉体に魔晶石埋め込み核とし、(ゲート)を無理やり定着させ自分と魔力のパス路を繋げ、新たな生命を創生した。

 奴のパス路構築を初めて見た。漏れ出る来光は通常の魔力とは違う何かを感じた。


 里の長老様達から聞かされた(いにしえ)の“(はふり)たる従者”、魔王そのものではないか。

『魔王は全ての魔物の祖であり創造主である』


 そんな事は断じて許さない。


 奴はワタシの想定以上に強かった。ワタシより。

 生じるはずの綻びが、全て瓦解する前に奴は残らず潰した。

 全てを溶解する太陽の如き剣を携え、蜘蛛の従者を從わせ、擁壁の上を、壁を縦横無尽に駆け、時には飛び、あり得ない軌道を描き無双した。好きだったアニメの主人公のように。夢見た在りし日の幻想のように。


 その日の夜、奴は領主の館を強襲した。


 まだ諦めた訳ではない。此方(こちら)にはまだオルツィがいる。コウイチのハーレム内では個人戦闘特化型の強者が。

 そして彼女も規格外な強さを見せつけた。


 何故コウイチは彼女を放出した? 莫迦なのか? 裏に隠すとは言え、表で使えば他のコウ・シリーズを容易に威嚇できるだろう。いや、威嚇だけには収まらない。あの小僧を完全に圧倒せしめているのだから。

 本来なら喜ばしい誤算ではあるが。


 オルツィは本来のコウ・シリーズの力を遺憾(いかん)なく発揮した。あれ程見事に“万有間構成力(グラヴィテイション)制御魔技法(・フィネス)”を使いこなす者など見たことがない。当然に“1m定限(ルール)”に縛られながら。

 全ての“コウ”が、半径1メートルの外の世界を恐れ、引き籠もっているのを嘲笑うかのように。


 そして何処(どこ)まで彼女をコーディネートし調教したコウイチの手腕に改めて脅威を感じた。最弱などとんでもない。改めてハーレムを総べる“(はふり)たる従者”の勇者らしい力を感じた。今後の脅威として認める程に。


 そのオルツィを打ち負かし、コウイチが最後に仕掛けた自爆テロも掻い潜り、小僧が勝利した……あり得ない。


【 ボクの女王様に膝枕までしてもらっている。殺す 】



 一計を案じる。小僧とコウイチとを敵対させる。双方倒れるも良し、片方が倒れるも良し。何方にしても疲弊は間違いなく、その隙に女王を掠め取る。時間が稼げれば此方(こちら)も戦力の態勢を整えられる。その後にゆっくりと潰す。双方共に。


 改めてコウイチがオルツィをサガの街に派遣した意図に思い至る。彼もまた、この地の伝説の真実を探り、新たな力を得ようとしているのではないのか。新たな魔王として即位する為に。(いわん)やこの地を実質的にも征したならば、他のコウ・シリーズより抜きん出ることは確実だ。


 小僧は強い。コウイチも(あなど)りがたい。ただどちらも少数構成だ。何が公爵だ。そんな物は数の脅威には敵わない。ワタシには数十万の兵力と膨大な資金がある。物量が全てだ。最終的に勝てばいい。



 まずはオルツィに小僧のパス路を構築させる。『耽溺(たんでき)』を使わせる。知らなければ教えてやる。現在の主が誰か判るマーカーを付けた特別製を。そのまま領主を続けさせれば、自爆したと思いこんでいたコウイチはまだ彼女が生きている事を知り、確かめに来るだろう。サガンの街の領主職は公爵の独占利権だ。ハーレムナンバーワンの令嬢も確かめない訳にはいかない。そこで誰に『乗っ取り(ネトリ)』を使われたか判る。

 誰がこの街サガンを征したのかが判るだろう。


 それなのに……。



【 強さだけならオルツィの方が勝っていた。狡猾さではコウイチに敵わない。総合力ならボクのほうが上だ。それでも生き残ったのは奴だ 】



 ただ運がいいだけなのか。

 異端者(イレギュラー)だけではもう、済まされないのかも知れない。


【 心の底からアイツを憎んだ 】


 わかっている。ただ憎んだだけではない。在る感情がワタシを戸惑わせ、苛つかせる。ああ、わかっている。()の感情の名前は知っていたが、二千年を通して初めて覺え、身を震わせる迄それが“嫉妬”であるとは思わなかった。

 改めて決心する。小僧を殺し、【 ボクの女王を必ず奪い返すと 】


 同時に意味を知る。

 何故(なぜ)に全てを支配し、使役する側の“(はふり)”を冠する者が“従者”なのか。たかがハーレムナンバーワンなだけの者が“(おほみ)”を賜るのか。

 知ったが、()の訳を理解する事は出来なかった。



【 ボクの名前は加賀美(カガミ)公名生(キミナオ)

 小原悟利(サトリ)とは元世界(あっち)で最後に殺した友人の名前だ。偶然にもボクが美味しくいただいた女性の兄だったか、恋人だったか。気持ちの良い誰にでも優しい男だったが仕方なかった。だから敬意を払って名乗っている。というのは嘘で咄嗟に浮かんだのが彼の名で、洒落が効いているのでそのまま使い続けている。

 曾てのエルフの名前は忘れてしまったから。確かめようにも里の者は千年前に全て殺してしまっているから、知る者はもういない。

 軽率であったと後悔は、あまりしていないかな。


 そしてボクはコウ・シリーズで、たぶんファーストエディション 】

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお読み頂ければ幸いです。

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