118 なるほど、それが貴方達のやり方なんですね 1
118 119 120 は“ひと綴りの物語”です。
《 その1 》
戦後処理? 的な?。
愚者エルフ見参!
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
どうぞお気楽に『サトリ』とお呼び下さい。
お察しの通り転生者です。年齢を数えるのを止めたのが何時かさえ忘れるくらいには長く生きています。魔王が滅んだ直後に生まれたと教えられた記憶が御座いますから、たぶん二千年歳弱と言ったところでしょうか。甚だ曖昧な話で恐縮です。
彼女を知ったのは前世です。同じ郷土なんですよ。田舎でしてね、ほとんどが顔見知りなんですが、三軒隣の高校生の少女が死にました。それが彼女です。
別に事件に巻き込まれる、トラックに撥ねられる等の凝った演出も定番も無かったですね。言い方は悪いですが、ありふれた少女の死です。
私が八歳のころです。年齢が離れていましたから親しいとは言えませんでしたが、恥ずかしながら憧れのお姉さんといった具合です。でも、それだけでした。亡くなった時は悲しかったですが、それだけです。
私が死んで異世界に転生したのは十七歳の頃です。やっぱり変な演出もない有り触れた死です。前世の記憶は生まれて直ぐに思い出しました。二千年前のことです。不思議ですが、彼女が記憶を取り戻したのは五年前、彼女が二十五歳の時です。当初は自分の生い立ちと境遇、特に現世での死亡時と、この世界での今の年齢のギャップに相当苦しんだようです。その頃じゃないですか、彼女がおかしくなったのは」
と、サチに向かって問いかける。サチは僕の治療を受けていたが、壁に持たれ項垂れている女男爵に視線を向けそうになるのを意志の力で拒み、彼方を見るような眼をそっと伏せると、そのまま沈黙を守った。
「彼女は覚醒から一年後に“コウイチ君”にナンパされたと言っていました。ギルドを裏切り脱出した後は王都に登り、“コウイチ君”のハーレムに加わりました。序列は入った順で五位で、既にハーレムナンバーワンには“御たる誰か”が君臨していました。転生者だそうです。
そのナンバーワンとの確執に負け、この街の領主として追いやられた、それが三年前です。
彼女は負け犬で、この街での役割は傀儡、そして捨駒です。
当然に実権はなく、“遷”での前回、今回も含めての領主として有るまじき非道の数々には一切関与しておりません。残念ながらその証拠は有りませんが。
彼女は最終的には“遷”の混乱に乗じての逃亡を考えていたようです。終われば粛清が待っていますからね。悟られないよう、目立った行動は取らず、貴女達への接触も極力控えていたそうです。
では何故に逃亡を図っていたはずの彼女が貴方達を迎え撃つような真似をしたのか。非道な領主を傀儡とは言え努めていた事も含め、一切の罪が無いとは言えませんが、彼女も一面では被害者でした。彼女に拒否権はなかった。操られていたと言っていい。
私は早いうちからエルフの里を出ました。刺激的な日本の記憶を持つ転生者の私には里は退屈過ぎた。その後は世界を放浪しました。まだ大陸は魔王が倒れて間もなく、混沌とし、魔物は強く数も多かった。国々も勃興したてで王様なんて山賊に毛が生えた程度で、小国同士が覇権を争い競い合っていた。何もかもが新鮮で魅力的でした。でも直ぐに飽きましたけれどね。
それが千五百年前の事ですかね。今ではその殆どを覚えていませんが、楽しかった感覚だけは残っています。今思えばその頃に死んでおけばよかったと思うこともあります。罪ですよね、エルフの長生きも。
彼女を見つけたのは偶然です。三年前、前回の“遷”の一年前、彼女が領主として赴任してきた時に、たまたま私もこの街に訪れていたのです。見た瞬間に彼女だと分かりました。その瞬間に私は囚われました。執着したのです。愛だとか恋だとか、況してや肉欲では有りません。そのようなものは既に無くして久しい。
そして自分でも驚くべき事実に驚愕したのです。それは私が彼女の記憶を持っている事をです。
彼女だけではなく、前世の記憶の全てを。もうエルフの里のことも、里を出た本当の理由も、その後の楽しかっただろう辛かったであろう出来事、友人であっただろう人々との記憶の数々さえも既に忘れているというのに。
私は二千年の内、前半の千年は完全に、三百年は酷く曖昧です。脳の記憶容量はいくら長寿のエルフでも限界が在るのかと考えます。
それなのに、転生前の記憶だけは細部に渡る汎ゆる事を覚えています。音も匂いも、私が死ぬまでの十七年間の一日一日一時間一時間を、その最初、産道を潜った際の感覚からずっと。前世では絶対に覚えているはずがない記憶までを。
それは記憶の継承というよりは、丸ごとごっそり抜き出し、改めて新たな媒体である今の脳に強引に焼き付けられた、まるでパソコンを新たに買い替えてのデータの更新。そんな感じです。実際、その通りなのでしょう。
そしてもう一つ、脳みそに刻み込まれ、そのインデックスから検索すれば、忘れたはずの周辺記憶さえも様々と読み出すことが出来る、二百年毎に繰り広げられたコウ・シリーズと呼ばれる名前の頭にコウを冠する転移者達の覇権争いを。
『“御たる誰か”を総べる“祝たる従者”とその従者たち』が織り成す物語。
一般的な言い方をするならば『勇者と聖女、そのハーレムパーティー』の成り上がり物語、です。こちらの方が通りはいいですかね。
私は何故か各年代のコウ・シリーズに不思議と縁があり、少なからず関わり合いを持ってきました。ただしそれは傍観者としての立場であり、その闘争に直接関わるものでは無かった。まるで記録者のように。
私の自個保有魔系技能“解読解析”により。
前回までは。
初めてなのですよ。前世での知人が勇者のハーレムパーティーに加わっており、窮地に陥っている。
その知人に私は何故か執着している。何故か気になって仕方ない。そして前世での『憧れの女性』の今の現状を哀れに思い、助けてあげたいと切に願うように成った。そんな私を私自身が驚愕しました。本当に初めてなのですよ。ただの傍観者でしか無かった私が。
ですが非力な私に出来ることは少ない。ですので私はギルドに籍を置き、この三年間、側で見守っていたのです。
そんな悲観に暮れる私に幸運が舞い込んだのです。私は出会ったのです。貴女たちと。
貴女たちはコウ・シリーズなのかもしれない、と。ただ、傍観者であったからこそ判る。たとえそうだとしても酷く歪な存在だと。
失礼しました。不快に思われたなら謝罪いたします。私は非難している訳では決してないのです。逆に称賛しているつもりなのです。
貴女は素晴らしい。歴代の“御たる誰か”の中でも異質だ。その崇高なる気質は既に女王のそれでしょう。
私は確信したのです。貴女達なら“コウイチ”を打破し、彼女を救って下さると。
そして運命をも感じた。これは偶然なのだろうかと。二つの出逢いが傍観者でしか無く、漫然と過ごしてきた私のこの心情に変化をもたらした。
何故いま、この時に変化が起きたのか。二千年前に生まれ、コウ・シリーズを漫然と観続ける事しか出来なかった私の永すぎる人生、役割とは何だったのであろうか、その“理由”が知りたくなった。
ですので___ 」
「ちょっと待ってくれ」
とハナ。「サチ、コートを羽織れ。その、ちょっと露出し過ぎだ。ハム君もサチのお腹に手を当てる時間が長くないか。
それと、二人でワチャワチャしてないで、こっちの話にも注視してくれ。ハム君、君のことでもあるんだ」
チッ、マイクロビキニって、女の子座りしてると『安心して下さい、はいてますよ』状態で堪能してたのに。それに手を当ててる時間が長いのは気の所為だよ。絶対に気の所為だよ。
だいたい話が長げーんだもん。それにワチャワチャなんてしてない。真剣な顔して話に聞き入るサチを揶揄っていただけさ。ダメだよこんな話し、与太話として斜で聞き飛ばさなくっちゃ。ハナもさ。
「まあ、知り合いを救ってほしいってのは本当なのかもしれないけどさ……。
要するにさ、ただ単にアンタが見てるだけに飽きて、もっと楽しみたい、刺激が欲しーって、ワクテカワッショイしてるだけじゃねーの? ね、エルフのおじーちゃん、まだまだ若いね。
それに、まだ出会ってねーし」
僕はハナとエルフ老人サトリの間を通って、女男爵の元に向かい、しゃがみ込むとその胸に手を当て、治癒を始める。めんどいので大量放出でチョッパヤで終わらす。腐っても敵だから。
女男爵、いや、もう唯のオルツィでいいのかな、発音が舌噛みそうだからオツルで。なんか時代劇っぽい感じでイイけど、頭に“御”が付いてるのはなんか違う気がする。なので“ツル”で。その“ツルさん”の体から逃げ水のようなオーラが勢い良く立ち昇る。
よし、順調。なんだか途中からオーラの量が急に増えた気がしたが、早く終る分には問題ない。ちゃっちゃと終わらそう。魔力だけは無尽蔵なのだ。
なにげに治癒の魔法が一番習熟してるかも。今まで使い過ぎてきた結果だな。色々と痛い目にあってきました。本日も。よし、今後はあまり使わない方向で……無理ですね。わかっております。
なお、ハナの手もパス路を通じて完治済み。
「よろしいのですか。まだ条件等は確認されておりませんが」
「最初に助けるつもりだって言ったろ。話長げーんだもん、もうサチが心配しすぎて限界っぽいし、構わないよね、ハナ?」
「ああ、そのまま頼む。でもハム君、治癒の為に胸に手を添えるのは致し方ないが、何故に胸の中心から横へ移動した、何故にワシワシしている。死にたいのか」
「……な、なに? 新しく再生した手が勝手に! まずいか!」
「約得とか、考えてないだろうな。殺すぞ」
「……すいません」
「……話しを戻しても、よろしいでしょうか」
と、タイミング的にナイスなエルフ。許す。
お読み頂き、誠にありがとうございます。
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