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半径1メートルだけの最強。  作者: さよなきどり
第九節 〜遷(うつり)・彼是(あれこれ)〜
112/129

112 クソエロガッパの出来損ない 4

109 110 111 112 は“ひと綴りの物語”です。

クソエロガッパは必死こいて戦っています。

  《その4》

ご笑覧いただければ幸いです。

※注

白い◇は場面展開、間が空いた印です。

 すいあせん、魔法陣を見たので盗み(コピり)ました。似非が。



 それを見て黒い棒を打撃から切断を重視した(ソード)形状へと変化させた。目を見張る。刃先に集約された斥力は僕のそれとは比べ物にならないほどの剪断力だ。あれを食らっていたら脳みそがパカンとなっていただろう。ルルと供に。


 流石先達者、練度が違うか。ただ観ると変化に若干の時間(ラグ)が掛かったようだ。込める魔力の桁が違うからか、それで先程は助かったようだ。咄嗟(とっさ)には盾から棒状にしか変化させられなかったのだろう。

 今度は確実に“トドメ”が必要ない過剰殺傷能力(オーバーキル)な刀(ソード)形状という訳かな。


 時を置かずに両者が飛び込み互いに高速移動と瞬殺の剣と刀を振るう。鍔迫り合いや刃を撃ち合う行為は両者が弾かれ互いに決定的な隙を作ることを恐れ出来ない。

 相手の肉体を狙い斬る必殺の刃が入り乱れる。


 剣技は間違いなく相手が上、僕は素人。苦肉の策で拳銃型M/R(七インチ)を左手に、捨て弾をばら撒いて隙を突く、って謂うよりも自分の隙を埋める事で何とか戦線を維持する。それでも、皮肉な事に下の階で不殺の不利を承知での立ち回りが無ければこんなに戦えなかったと、思う。


 女男爵(バロネス)の盛大な炎弾が目の前に広がる。左手を突き出しテルミットで相殺する。握っていた拳銃型M/R(七インチ)が一瞬で溶解する。豆鉄砲では相殺できないから。ヤバい。目眩ましか? イイように誘導された?

 斜め下、膨大な炎が入り乱れ舞うその陰に潜っていた女男爵(バロネス)が突然ぬっと表れ、黒い剣が僕の頬を掠めてすれ違う。

 血が飛ぶ、結構深い。咀嚼筋が切断され顎が落ちる。


 徐々に押され始める。僕の傷が増える。明らかに相手より傷の量が多く深い。治癒が間に合わない。戦闘技術の練度もさることながら、決定的なのはその移動スピードだ。

 互いに“万有間構成力(グラヴィテイション)制御魔技法(・フィネス)・中級”を駆使し、床はもとより天井壁を足場に跳ね回り互いに斬り合う。しかしながらそこに決定的な速度の差が生じ始めていた。


 僕が蹴り上げる足場は足型に陥没するほどで、返りの衝撃がもろに足に来る。圧潰しないよう、圧潰しても治癒が高速戦闘に間に合うようにセーブしている。その分遅れる。

 女男爵(バロネス)にはそれがない。足場を陥没させないし自分の足も潰さない。何故(なぜ)だ!


 足場を陥没させるのは余計な処に力が逃げている証拠か、その点女男爵(バロネス)は全ての力を反発する斥力、それも自分自身にだけ働くように変えている? 窓硝子をも足場に出来るほどに。

 僕がそんな事をすれば間違いなく突き抜け外に飛び出る。二十五メートルの片面の壁全面に硝子窓が嵌め込まれ連なっており、僕の機動範囲は大きく損なわれ、益々追い込まれる。


 経験と練度の差が徐々に頭を(もた)げてくる。


 〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

本当にあのコスプレ服は驚愕に値します。自慢したくなるはずです。基本威力は中級ですが、制御には上級が組み込まれているようです。斥力を百パーセント活かす能力です。盗み(コピー)には成功しましたが、複雑過ぎて今直ぐの再現は不可能です。


 足が圧潰しないカラクリも分かりました。やはりコスプレ服です。ジェットパイロットの耐Gスーツは圧を掛け血液の偏りを軽減する装置ですが、それをより高度に魔法的な仕組みでオートマチックに肉体を保護しているようです。仕組みは完コピしましたが、オートマチック機構がネックでやはり今直ぐの再現は不可能です。

 と結論 ∮〉


 『不』多くね? 出来るのは……不完全でも(なんちゃって)耐Gスーツかな。“糸”で再現できるか……。

 諦めずにこの危険から逃れるた為より観察する。

 やはり斥力を発生する時に足を中心に全身の至る所が太くなったり、片側だけ細くなったりと流動的にかつ高速に、まるで得体のしれない生物が服の下で蠢いているような動きで補正しているようだ。不定形の筋肉保護というよりは増強といったところか。正直その動きにはゾワゾワしてちょっと引くが、再現は出来そうだ。


 蜘蛛糸を即席で自分の全身に幾重にも巻き付け、“表象印契”にて何百もの魔法陣を印刻して機能を再現させる。オートマチック制御は余っている疑似脳とリンクさせて対応させる。

 ちょっとぎこちなく性能も女男爵バロネスのよりは劣るが、それでも自分の足が壊れる心配をせずに“引力と斥力”の能力を使える。


 もちろん能力を百パーセント使い熟す彼女とはいまだ埋めることの出来ない差として残っている。速さにおいてだけではなく、硝子連窓をまだまだ足場に出来ない未熟さ露呈しているが、この絶対負け確定の状況を、(くつがえ)す切っ掛けに繋がる糸口に僕は歓喜し、感謝する。まだ出来ることはある。


 懸念は、全身白いタイツ男が誕生してしまったことだ。黒ならまだショッカー隊員で押し通せていたものの、真正紳士じゃねーんだから。

 変更は戦闘中では無理。戦隊モノとかのコスプレ物じゃなくて、ふつうのカジュアルな感じで、何時か。生き残れたら。


 〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。

 それでも、撃破の確率を三パーセント底上げできただけです。それほどスピードの差は決定的です。


 コスプレ服は魔導具であり魔晶石なりの供給魔力枯渇を狙う持久戦を考えていましたが、今までの消費魔力量を考えますと、おそらく魔力の供給源はパス路を通して“コウイチ君”から供給されていると思われます。


 出来ることは、魔導具の最大の弱点である基本魔法陣が刻まれた集中コアを破壊することです。丁度心臓の上に巧妙に隠されています。ただし、彼女の戦い方を分析しますと、その弱点をカバーする動きを念頭に戦われていると思われます。流石です。

 それを突破する方法はスピードで彼女を凌駕するしか有りません。斥力ロスをゼロにする魔法陣解析まで五分を要します。耐えて下さい。

 と結論 ∮〉


 五分って永遠じゃね。

 気持ちが一瞬ブレる。耳の半分が切り飛ばされる。似非もまた余計な。刀を交えあってまだ一分も経っていない。高速交戦中なんだから尚更。先ず五分という時間の長さを意識の外に追い出す。

 深呼吸を一つ。靭性金剛石(ダイヤモンド)の層を籠手(ガントレット)脛当(グリーブ)胸当(アーマー)と各形状に合わせて発現し装着する。左手の最後の拳銃型M/R(七インチ)を捨て、右手の黒刀を後ろに引き姿勢を低くする。剣技に集中する。“後の先”を摂る。

 研ぎ澄ます。


 あまり飛び跳ねず、動きを最小限に、明白(あからさま)なフェイントではなく、流れの中で連動したものに、虚実を織り込むように。

 纏った防具に(ワザ)と切り込ませ流れを此方(こちら)に引き寄せる。纏った魔力(アルカヌム)の防具は一撃で破壊されるが、切られる事が判っていれば再発現は瞬時で対応できた。何という事はない。やはり下の階での、不殺の不利を承知での多人数との戦い方と全く同じだ。難解度は桁違いであったが。


 それでもスピードの差は嫌になる程に歴然で、徐々に追い込まれることに変わりなく。


 っと、女男爵(バロネス)決める(殺す)為の研ぎ澄まされた一撃が今、放たれる。


 助かったのは、察知し、その直前の離脱に何とか成功したのは、鍔迫り合いともいえない程に軽く刃と刃を合わせることが出来たから。


 “万有間構成力(グラヴィテイション)制御魔技法(・フィネス)”同士の反発で大きく両者が弾かれ離れる。そこで幸いしたのは、弾く力は僕のほうが勝っていたこと。

 両者が大きく体制を崩し隙を作るが、女男爵(バロネス)の方がより多く崩れる。その間を突いて一気に形勢を覆すとまでは行かないが、それでも僕は女男爵(バロネス)の命を両断する一撃を避け得、次に繋げられた。


 そこからもう一度仕切り直しで戦い始める。まるで約束組稽古のように。

 幾重の刀と剣との差し合いと、噴き出る血の乱舞を経て彼女の“止メ”の一刀を紙一重で察知し弾き飛ばし、そこから改めて両者は戦い始める。それを何度何度も繰り返す。



 少しずつ斬り合う時間が長くなる。僕の飛び跳ねる距離が短くなり、最小限の動きに集約され始める。躱す動作が小さくなる。大きなフェイントが減り、ただ肩を、目線を、足先を僅かに動かすだけとなる。全てが繋がり連動する。刀の振りが、足の運びが全てが一体となる。流す血の量が逆転し始める。

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお読み頂ければ幸いです。

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