幼馴染は髪を結う ~清楚系美少女の転校生は俺の前でボクっ娘に変身する~
「快清。今日転校生が来るらしいぞ? 」
「あっそ」
興味津々と言った雰囲気で男子高校生が机の上に突っ伏す俺に声かけた。
友人は俺の素っ気ない返事を気にせず話を続ける。
「何でも......女子らしい」
顔を近づけ囁くように彼は言う。
少しだけ顔を上げてすぐに顔を元に戻した。
起きたらそこに野郎の顔があるなんてどんな地獄だ。一部女子には需要があるかもしれないが、少なくとも俺にはその気はない。
俺の反応に「なんだよ。つれないな」と呟きながら椅子に体を戻すが、転校生が女子というだけで心躍る俺ではない。
「……そんなんだからもてないんだよ」
「んだよ快清。彼女いない歴イコール年齢のお前が言うか? 」
「それを言われると悲しいが、少なくともその組み合わせに特殊性を感じない。そもそも女子ならこの学校に半数以上いるだろ? 」
「そうは言うがよ。転校生で女子っていったら恋愛の始まりだろ? 」
「現実に夢を反映させるな。ロマンチスト」
「俺はロマンチストではない。二次元に生きる冒険者だ」
わけがわからん、とだけ言い更に顔を沈める。
彼が悪いわけでは無い。その趣味も認めよう。しかし俺に押し付けるようなことはやめてほしい。
ゲームやアニメや小説が嫌いなわけでは無い。むしろ好きな方だ。
だけれどそれを教室の中で、しかも大きな声で堂々と言うのは些か眉を顰めざるをえない訳で。
加えて俺もその巻き添えを喰らっているわけで。
彼のその堂々とした振る舞いはある意味見習うべきだろうが、そのおかげで俺は学校の中でアニオタに分類されていた。
確かに好きだが、オタクという程ではない。嗜む程度だ。俺程度の知識でオタクに分類されると本物のオタクに失礼だ。
出来るのならば周りの誤解を解きたいところだがその噂が流れて早一年。もうどうしようもない。
なので周りの痛い目線から逃れるべくこうして机に頭を沈めていた。
友人の演説が長々と続く中どんどんと教室が賑やかになってくる。
朝練を終えた運動部員の駆け込む音に今を生きる女子高生達の黄色い声。
チャイムが鳴り、顔を上げると扉が開かれ教員が入って来る。
朝の挨拶をすると教員が言う。
「あ~、連絡事項、というか転校生が来た」
頭を掻きけだるそうに言うが、そこは「来た」ではなく「紹介する」じゃないのか?
しかし疑問に思ったのは俺だけらしく、ぐるりと周りをみると好奇の目線が教員に向いていた。
それを受けて溜息をつくがある男子が「女子ですか! 女子ですよね! 女子と言ってください! 」と声を上げた。
物凄い自己主張だがこれもし男子だった場合彼はどうするのだろうか。
絶望に打ちひしがれて今日一日使い物にならなくなるかもしれない。
いやもしかしたら最近流行っている「男の娘」というやつで彼は腐の道へのフラグを立てた所かもしれない。
彼には今後強く生きて欲しい。
......こんなことを考えるようになったことを考えると彼の影響力のすごさを思い知らされる。
「入ってこい」
俺が考えていると教員が扉に向かって声をかけた。
ガラガラガラと音を立てゆっくりと扉が開く。
入って来たのか「おお! 」という声が周りから上がる。それにつられるように俺も顔を向けると紺色のブレザーを着た、黒髪ロングの清楚系美少女が一歩一歩踏みしめるようにゆっくりと歩いている。
その清楚さに気圧されたのか最初の歓喜にも似た声は静まり返る。
逆に彼女の学校指定のスニーカーが床を踏みしめる音が部屋に響く。
そして教員の隣に着くと九十度反転し全体を見た。
(? )
全体を見た一瞬、俺の方をみて目を見開いた気がした。
彼女が知り合いならば創作物で言う所の「久しぶりに会ってドッキリ」みたいな流れになるのだろうが、生憎俺に清楚系美少女の知り合いはいない。
加えるのならば朝ラブコメハプニングも起こしていない。
よって俺は彼女と知り合いではないはずなのだが……、俺の気にしすぎか。
「じゃぁ自己紹介をしろ」
そう言いながら教員は名前を書くために黒のマーカーを手に取りホワイトボードに向いた。
一拍置いて彼女が自己紹介を始める。
「今日からこのクラスでお世話になります、桃瀬優心と言います。至らない所は多いと思いますが、よしなに」
ゆっくりと、しかしはっきりと言う。
きゅっ、きゅっと音が鳴る中ペコリと彼女はお辞儀した。
その動作に遅れて周りが騒がしくなる中俺は「まさか」と驚いた。
ニコリと笑みを作る彼女は小学校の頃転校した俺の――幼馴染だ。
★
「同姓同名じゃね? 」
「夢も希望もないな」
「いやだってリアル幼馴染再会イベントなんて現実にあり得るか? 」
「さっきの当てつけか? 」
「はは。悪く思うなよ小僧」
「お前も小僧だろうが」
はぁ、と溜息をつきながら女子達に群がられ質問責めに合っている桃瀬優心に顔を向けた。
面影はあるが印象が全く異なる。
俺の知っている優心は元気溌剌ボーイッシュ。今の彼女とは対極的な存在だ。
同姓同名と言われた方が確かにしっくりくる。
しかし俺を見て驚いたようなあの目線。
自意識過剰と言われればそこまでだが、気になるものは気になってしまう。
「お。こっち見た」
友人の声が聞こえたと同時に俺に優心の黒い瞳が向けられた。
大勢に囲まれているせいかその瞳は少し困惑が混じっている。
どこか「助けて」と叫んでいる気がするのはきっと俺の気のせいではないだろう。
少なくとも知り合いでなければ出来ない意思疎通。
それで俺は彼女が、俺が知っている桃瀬優心だと確信した。
「ま。良いだろ」
「なにがだ? 」
「幼馴染だとしても俺達の学校生活は変わらない」
「妄想乙」
眉を顰めながら友人に「この野郎」と毒づく。
ま、違ったとしたら本当の赤っ恥だから何もしないのが正解なのかもしれない。
クラスの中心になりかけている彼女に俺が話掛けても邪魔になるだけだろう。
ここはひとつ無関心を通しやり過ごすことを考えていると「快清君、ですよね」と声が聞こえて来た。
透き通るような声が聞こえてくる。
突然の事で心臓が飛び跳ねる。
反射的に声の方を向くと、やはりというべきか声の主である桃瀬優心がそこにいた。
「ひ、久しぶり」
顔が引き攣るのを感じながらも言葉を絞り出す。
俺の反応を見て僅かに顔を緩めてこちらに向かう。
「お久しぶりです、快清君。私の思い違いではなかったのですね。覚えていてくれて嬉しく思います」
優心はコテリと首を少し横にしながらニコリと笑みを作った。
それに当てられ周りの男子が息を飲むのも一瞬、すぐに俺に殺気を送ってきた。
リアル転校生幼馴染と聞いて嫉妬するのも不思議ではないが、俺と優心は奴らが考えているような関係ではない。
理不尽に殺気を送られても困ると思いながらも溜息をつき優心に顔を向け何用か聞く。
「この学校を案内して欲しいのですが」
その言葉に更に殺気が多くなる。
正直面倒事の予感がして断りたくなるが、久しぶりに会った優心の申し出を断るには気が引ける。
男子からの殺気に女子からの好奇の目線。そして優心の少し潤んだ黒曜のような瞳。
はぁと溜息をつき優心に向いた。
「放課後で良いのなら」
「ありがとうございます」
ニコリと笑顔を咲かせて礼を言い、そして女子グループへ戻って行った。
「リアル女子ってこぇな」
「本当にな」
この時だけは友人と同意見だった。
★
「こっちが図書室だ」
「ありがとうございます」
放課後優心を連れて校内を歩く。チラリと横を見下ろすと学校指定紺色ブレザーを着た小さな彼女がそこにいた。
事前準備は万端なのか、覗く白いシャツも学校で販売されているもの。
その白いシャツと紺色のブレザーを僅かに押し上げているものに少しドキリとし、顔を逸らす。
「何か不純な事を考えていませんか? 」
「……そんなことはない」
「本当に? 」
「本当だ。にしても驚いたよ。あの優心がこんな変貌を遂げていたなんて」
「あの、というのが気になりますが私も成長するのです。お淑やかになったでしょ? 」
「別人に思えるほどにな」
清楚系美少女に育った彼女に照れくさくなり頬を掻く。
くすりと笑う声が聞こえたが振り向かない。
成長した優心と未だに成長しない俺。
それが急激に恥ずかしくなり、気を紛らわすように校内を案内していく。
案内した校舎内が終わると玄関まで行き靴箱を開ける。
靴を履き替え、運動場をなぞるように移動する。
その時チラリと優心が運動場を見て、すぐに俺の方に向き直した。
「……三年生は別校舎」
「一二年生とは別れているのですね」
「特に進学校じゃないけど、騒がしい一二年生と一緒にすると受験勉強の邪魔になるとかなんとか」
別校舎の前まで行きある時教員から漏れ出た愚痴で補足した。
なるほど、と優心は頷き柔らかい表情で気怠い俺を見る。
「快清君は……」
「ん? 」
「変わりませんね」
「……まぁな」
「小学校の時の様に動き回る感じではないようですが、その気怠そうな垂れ目はあの時のままです」
「喧嘩売ってんのか? 」
「ふふっ。冗談ですよ。さ、帰りましょう」
そう言いながら優心は校舎に駆けて行き、俺もそれについて行った。
校舎に戻り鞄を持つ。
荷物の置忘れが無いか確認し、寂しくなった教室を後にする。
正門を出て、家に向かう。
そしてふと思う。
「そう言えばどこに住んでるんだ? 」
「気になりますか? 」
「気になるというか、俺はともかく優心の帰る方向はこっちで良いのかと」
それを聞くと理解したかのように頷いて俺を見上げる。
丸く大きな瞳を向けるとぷりっとした唇をゆっくりと開けた。
「私の家はお父さんの実家になります」
「あ~、だからこの方向か」
優心の父の実家、つまり俺の近所というわけだ。
優心は小さな頃からの付き合いだった。親の仕事の関係で離ればなれになった時の寂しさは今も忘れない。
どこか喪失感を覚えながらの中学、そして高校だったから彼女が戻って来て少し安心感を覚えている自分がいる。
「またご近所よろしく」
「こちらこそ」
そう言いながら彼女は長く黒い髪を少し弄った。
クルクルさせているが、これは……。
「何か無理してない? 」
「! 」
俺の言葉に優心はピタリと立ち止まる。
優心が何か誤魔化す時や緊張している時、無理をしている時こうしてよく髪を弄っていたのを覚えている。
まぁ当時髪は短かったが。
「……どうしてそう思うのですか? 」
「いや癖」
俺の言葉に優心ははっとし、すぐに髪から手を放した。
図星か。
俺がジト目を送っていると少し顔を赤くして目を右に左にキョロキョロさせる。
何を無理しているのかわからない。
指摘したは良いもののこれ以上踏み込んで良いものかと俺は少し悩む。
これからまたご近所さん。出来ればストレスの無い関係を築きたい。
俺の前で何か無理を強いるのは、俺にとって本意ではない。
考えているとふと気付いた。
「もしかして清楚系ムーブ、あれ作ってる? 」
グサリ、という音が聞こえた気がする。
優心は胸を抑えて下を向いた。
まるで大ダメージを負ったかのように、パンストで覆われた黒い足はプルプルと震えていた。
「ど、どうしてわかったのですか」
「いや昔を知っている側からすれば不自然この上ないから」
俺が言うと「ふぅ」と大きく深呼吸して優心は背筋を伸ばした。
一回、そしてもう一回口をパクパクさせ、閉じ、そして言い放った。
「バレてしまったかぁ~。せっかく取り繕っていたのにぃ」
「やっぱりそっちが素か」
「カイ君にはいつかバレるかと思ってたけど、まさか初日でバレるとは」
「演技下手すぎ」
「でもクラスの皆はわからなかったでしょ? 」
少しどやりながら優心はスカートのポケットに手を突っ込んだ。
取り出した髪留めを使って髪を結って、所謂ポニーテールに仕上げた。
「ポニーテールの意味」
「これはボクなりの切り替え術だよ」
「口調変わり過ぎ。てか一人称」
「良いじゃん。カイ君の前だし、カイ君の前でしかこれで話すつもりないし」
「さよか」
ぷいっと前を向き優心は前を向き歩き出す。それに遅れて俺も歩き出す。
雰囲気に口調に髪型に、色々と変化したが特に何も感じなかった。
彼女からすれば大変身なのかもしれないが、俺からすれば小学校の頃に戻った感じがし懐かしい。
しかし逆に腑に落ちない。
彼女の隣まで足を進めて聞いてみる。
「なんでそんなめんどくさいことしてるんだ? 」
「大人っぽく見えるでしょ? 」
「本当にそれだけか? 」
身長のわりに長いポニーテールを揺らしながら俺の方を見る。
さっきまでとはうって変わってどこか暗い。
俺は「何か地雷踏んだか? 」と内心冷や汗を出しながら彼女の黒い瞳を見つめ返した。
「……ボクはね。これ以上お父さんとお母さんに心配させたくないんだよ」
そう言いくるりと前を向き、家の方へ足を進める。
何を言っているのかわからない。
しかし優心が転校した先で何かあったのは確かだろう。
僅かに無言の時間が流れる。
狭い歩幅に合わせながら俺はしっかりと彼女に耳を傾けた。
「向こうの学校に行ってさ。足怪我しちゃって」
言うと、ピンと前に脚を伸ばして俺に見せる。
外からみると怪我をしていないように見えるそれをすぐに戻して足を進める。
「それが原因で陸上辞めて。その時にさ。お父さんとお母さんが物凄くショックを受けちゃって」
「走るの好きだったもんな」
小学校の頃運動場はもちろんの事山に河川敷にと一緒に走ったのを思い出す。
運動神経が良くない俺は優心について行くのが精いっぱいだったが、輝く笑顔は今でも思い出す。
「その時はボクも塞ぎ込んで、二人も「自分達が引っ越したせいで怪我をした」って思い込んじゃって」
そう言う優心の顔は暗い。
だけどすぐに否定の言葉を口にした。
「あ、怪我をしたって言っても完全に走れなくなったわけじゃないからね? 普通に走る程度なら大丈夫だから」
俺が誤解していると感じ取ったのだろう。優心は回り込み俺の正面で両手をバタバタさせて走れることを強調した。
だけど走る事が好きだった優心が全力で走る事が出来なくなった。元気な様子を見せるが本当はつらいのではと考えてしまう。
何事も全力全開で楽しむ。
これが俺の優心に対する印象だったから。
少し俯くと優心が「はい! もう過ぎたことだから! 」と言って俺の暗い雰囲気を取り払う。
「カイ君が辛い顔をするとボクも辛くなるからやめてよね」
「何で? 」
「察しろバカ」
理不尽な罵倒をされた気がする。
「で二人が心配しないよう、運動の代わり勉強に覚醒した清楚系美少女を演じているって訳」
「……なるほどね」
頷き、角を曲がり、先に進む。
彼女の「両親を心配させないために」という意気込みはよくわかった。
残念ながら両親にバレているだろうが、「優心が頑張るなら」ということで何も言わずに見守っているのかもしれない。
これは何も言わずにやり過ごすのが一番と考えながら家に就いた。
「では快清君。これで」
「なんだそれ」
「……馬鹿にしていると痛い目を見ますよ? 」
ポニーテールを解き淑女モードに入った優心が笑みを浮かべて別れの挨拶をする。
笑いそうになるのを言葉濁してやり過ごそうと思ったが、どうやら言葉の選択を間違えたらしい。
背筋に冷たいものが走るのを感じながら「また明日」と言い俺達は分かれた。
★
「遊ぶぞーーー!!! 」
「なんで俺の家にいんねん」
「なんでエセ関西弁なん? 」
「お前もやろがーい! 」
日曜日、両親が休日出勤している間に優心が一人やって来た。
今日の彼女はロングのポニーテールに短パンに黒ニーソ。上は青と白の縞々のノースリーブで彼女が家に来た時は目のやりどころに困った。
しかし何故かな。身長のせいか、他の部分のせいか小学生、頑張っても中学生くらいにしか見えない。
淑女モードと解放モードではここまで違うのかと思いながらも彼女を中に入れると早速家を物色された。
そして見つけたリモコン型のゲーム機片手にツッコミを入れる。
持ち上がった気分とゲーム機の向こう側ではソフトが再生されてオープニングが流れていた。
あれから数日が過ぎた。
未だに優心の化けの皮は剥がれていない。
その演技力に驚くべきだろうが、俺からすればいつバレるか冷や冷やものだ。
演技をしているということは俺達の間で秘密となっている。
例えクラスメイトだろうと隠し事をしていることがバレると、厄介事が起こるのが目に見えている。
彼女の容姿は控えめに言っても美少女のそれ。
そんな彼女を妬む人が現れるのもわかり切っていることで。
では彼女が仮面を被り嘘を言っていると知れ渡るとどうだろう。火種は燃え上がり、せっかく戻って来た彼女が傷つき追い出される可能性が大いにある。
だから秘密。
「やるからにはボクが勝つ! 」
「このゲーム、初めてやるんだろ? 」
幾ら運動神経が良い優心とはいえ初見で練度で勝る俺に勝てるとは思わない。
だが彼女の余裕満々な顔をみると俺の自信がどんどんと失われていく。
オープニングが終わり、スタート画面が俺の目に映る。
「さ。やろう! 」
「受けて立つ! 」
そして俺達はテニスをやった。
結果——。
「……本当はどこかで練習したとかじゃないだろうな? 」
「してないよ」
完敗だった。
初見でこれだけの点差が開くとは全く思わなかった。
この手のゲームは健康促進要素も含めるためゲーム難易度は低めに設定されている。本当のテニスをするような筋力がいらなければ、反射神経も、いらないとは言わないが、あまり必要とされない。
必要なのは僅かなリズム感。
そのリズム感さえも超えられてしまった。
「ふふふ……。ボクにスポーツで勝とうなど百年早い! 」
「死ぬまで勝てる気がしねぇ」
「何度挑戦されても負ける気はないし、勝ち逃げさせてもらうよ」
ゲーム機片手に得意げに胸を張る優心。
張れては、いないが。
「……何か不愉快なことを考えていないかい? 」
「ソンナコトハナイデスヨ」
そう言うと疑わしそうな目線で俺を見て来る。
手にしていたゲーム機をソファーに置いて俺の方へと向かってきた。
何をするんだ? と考えるも一瞬。後ろに回られ腰辺りをギュッと抱き着かれる。
「?! 」
「女性の敵め! 食らいやがれ! ジャーマンスープレックス! 」
その言葉に驚き衝撃に備える。
……。
「? 」
「この! この!!! 」
一向に体が持ち上がる気配がない。
それどころか締め付けが強くなり――。
「痛い痛い! ちょっ! あばら!!! 」
「も、持ち上がらない。てかあばら? 」
後ろから剣呑な雰囲気が流れて来る。
余計なことを言ってしまったと思うも、もう手遅れなようで。
締め付けが強かったため柔らかさよりも硬さが俺を刺激していたが、それもどんどんとやわらぎ、そして無くなっていく。
少し冷や汗を流しながら後ろを見る。
そこには冷たい目線でこちらを見る優心が少し距離を取って少し腰を降ろしていた。
「ぶっ飛ばす! 」
超常的な飛び蹴りが、俺の腹を直撃した。
★
優心が転校してきて早一か月が経つ。
彼女は上手く立ち回っているようで仮面は剥がれていない。
しかし同時に違った問題が発生していた。
「……ここに来て告白三回目」
俺の部屋で彼女は丸机に顎を乗せてだらけていた。
中身を知らなければ、単なる優しい世話好きな転校生。
転校二週間を過ぎた頃から彼女に愛の告白をする人が現れ始めたらしい。
「今回も断ったのか? 」
「そ」
「因みに誰だったんだ? 」
「ん~、他の子に聞く所によるとサッカー部のキャプテンの人」
「イケメンじゃん」
そう? と言いながら首だけを俺の方に回してくる。
サッカー部キャプテンといえば校内でも有名なイケメンだ。
彼女は知らないみたいだが、ジュニアユースに選ばれるほどの人物。
「よく断ったな」
勉強机から椅子を離して、くるりと回す。
何で断ったのか気になったので聞いてみた。
「いやだって何も知らない相手からの告白って、怖くない? 」
「確かにそうだけど……、「じゃぁお友達からで」とか言われなかったのか? 」
「言われたよ。だけど断られたからお友達って何か変じゃない? 」
「……その通りだな」
「それにタイプじゃなかったし」
優心は「ぶー」と口をとがらせながら言う。
イケメンが好みじゃないとなると優心の好きなタイプはどんなタイプなのだろうか。
「ボクの好みを知りたそうだね」
「……特に。口を挟む権利なんてないし」
「ボクがモテるからってそんな不貞腐れちゃって。ボクの好みはね――」
何か一人語り始めた。
聞いてないし、聞く気もない。
幾ら幼馴染だからと言って、それを理由に干渉できるわけでもないから。
されてはいるが。
「ボクの好みは一緒にいて安心する人。あと……」
「……」
「ボクが弄っても許してくれる人」
「いるのかそんな奴」
「気付かない所でいるものだよアンダーソン君」
「誰だよアンダーソンって」
「……ばか」
そう言う彼女の顔はどこか赤かった。
如何でしたでしょうか?
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ども。