17年目のロッカー
*この作品は習作のために書いたものです。深い意味はないので軽い気持ちでお読みください。
私はとある土木建築会社に勤務して18年目となる。
私が入社した当時、社内には手荷物を預ける場所はなく、私物は全て自己管理するよういわれていた。
小さなスパナから大きな電気工具まで扱う私達は仕方なくその言葉通りにすべく、持ち歩けない道具は社用のトラックなどに放り込んだままにしていた。
そのせいで似たような道具を他人のものと間違えることが多々あり、時にはそれが原因となり口喧嘩から殴り合いに発展することも暫しあった。
皮肉なことだがそれは会社に対する不満を解消する手立ての一つになり得ていた。
社長はそれを見抜いていたのかは分からないが、口では言っているものの実害を被るような罰則やクビを言い渡すことは決してせず、双方がガス抜きできるのならと傍観していた。
だが、ついに一部の社員で不満が爆発してしまいその矛先が社長に向けられた時、渋々な様子でありながらもついに、我が社にもロッカーが導入されることになった。
私はその時までロッカーといえば駅や銭湯に設置してあるコインロッカーぐらいしか知らず、果たしてあの正四角の小さな箱型に長い工具などが入るのだろうかと疑問に感じていたが、いざそれが設置された
姿を目にした時、頭の中で洋画のワンシーンを思い浮かんだ。
それはティーンエイジャー達が学校に登校する場面であり、背中が全部覆ってしまうほどの大きなリュ
ックを背負ったまま自身のロッカーと向き合うというものであった。
「縦長のロッカーなんて映画の中でしか見たことねぇよ」
私と同意見だった社員が真新しいグレーの縦長ロッカーを見て感動を口にする。
高さ150cmはあるだろうかそれが、各自に用意され、それらが壁伝いに広がる光景は圧巻であった。
私のものは部屋の右側にあった。
ご丁寧に私の姓が書かれたネームプレートが貼り付けられており、さらに鍵付きであったことがさらに驚かせた。
ゆっくりと鍵を回せば軽快な音で内側のストッパーが上へと向くという単純な構造であった。
私は大人気なくも楽しくなってしまい、何度か遊んでしまった記憶がある。
開け方の方は正面の中央左に作られた引き戸取手を体のほうに引くことで片開きとなっていた。
天井より下10cmには短い突っ張り棒のようなものがあり、幾つかのエス字フックがかけられている。
反対に底より上20cmには網模様の受け皿が取り付けられており、直接地べたに置きたくないものを乗せるには好都合であった。
「社長、ありがとうございます」
遅れてやってきた社長に気づいた一人が感謝を述べる。
私含め全員が振り返り、つられるのではなく自身の気持ちから頭を下げて口々に感謝を伝えた。
立て続けに感謝を言われ続けたあの時の社長の顔は今でも忘れないほどに頬を染めて照れくさそうに頭をかいていたものだ。
あれから月日は流れ、私は今日で退職届けを出す事にしていた。
理由は社長が亡くなった事、跡継ぎの社長の息子のやり方に不満があること、別の会社からの引き抜き
が決まったこと。
様々な条件が重なり、やめるならこのタイミングだろうということで退勤時間を迎えたところでロッカールームへとやってきた。
この日のために一週間前からロッカーの中身を少しずつ減らしていき、今日で全て私物は外へと出した。
中身はもう何も入っておらず、真っ暗闇の中からは加齢臭と工事現場の土埃、それに加えて鉄臭いもの
が入り混じった臭いが充満している。
長く親しんだためか、私はロッカーの発するこの臭いに愛着が湧いていた。
ドアを開けると飛び込んでくるこの臭いに安心感さえ抱いている。
まだドアは閉めず、しばし見つめる。
私が去ってもこのロッカーはまた別の誰かに使われるだろう。
退職した先輩たちのロッカーがそうであったように、きっとそうなる。
今度は若く、清潔感のあるやつに使ってもらえるとこいつも嬉しいはずだ。
名残惜しいが退職届を新社長に渡さなければならない。
「おつかれ」
連れ添った相棒に別れの言葉を告げ、私はゆっくりとドアを閉じた。
お読みいただき、ありがとうございました。




