アリバイの扉
「交際相手のあなたが犯人としか考えられないのですよ。いったいどうやったのですか」
「さっきから何度も言わせないでくれ。俺のはずがないだろう」
先週の金曜日、東京都在住の源静香さんが殺害された。家族の留守中に、何者かに背後から首を絞められ、昏倒したところを鋭利な刃物で滅多突きにされたのだ。金品を奪われた形跡がなかったため、動機は怨恨と推測された。
「源さんのノートに、あなたに殺される。と書かれていたんですよ。それに当日、あなたによく似た人を見たという近所の証言もある」私の威圧的な態度に男は動じることもなく、
「それが何だと言うのですか。その日、私は京都にいたんですよ。あなた方も確認済みなんでしょう。その時間で、京都と東京を往復するなんてどんな手を使っても不可能ですからね」
その通りだった。この鉄壁のアリバイがある限り彼が犯人ではありえない。
もしかしたら被害者の源さんは、金曜日に男と一緒に京都にいたのではないのか。男がいた京都で殺され翌日に東京の自宅に運ばれ放置されたのではないのだろうか。その推理はなかなか的を射ているように思えたが、この間抜け面の男がそんなトリックを思いつくはずがないとも思えた。こいつはその場しのぎで、計画的に何かを成し遂げる能力など持ち合わせていない人間だ。そんなことが出来るはすがない。ではいったい・・・
「もう帰ってもいいですか。帰りが遅いとママがうるさいのでね」
証拠もない容疑者をこれ以上引きとめるわけにはいかない。捜査は明日からやり直しだ。
私は帰ろうとする男の後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
あれは何だろう・・・奴が連れてきたペットだろうか。
猫のようにも見えるが丸々と太っていて大きい。それに体全体がやけに青い。初めて見る生き物だ。
警察署を後にするとき、その眼鏡の少年はこちらを振り返り笑ったのだ。
はっきりと、勝ち誇ったように。




