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【第2部開始】エレ レジストル〜最強悪魔と旅する生き残り少女の冒険録〜  作者: 月森 かれん
第2部 敗北者達の復讐編

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第69録 マーレ港での騒ぎ

 ミーナと別れたエリスは、アンスタン大陸の東に位置するリヤン大陸、その北にあるマーレ港を訪れていた。

 すぐ近くの市場では店主たちの客寄せ声が響き渡っている。

 エリスは彼等の声と浪の音に耳と澄ませながら呟いた。


 「いつ来ても賑やかね」

 

 「フン。

今までのんびり散策したことなかったくせに、よく言うぜ」


 「追われている間でも雰囲気は感じ取ってたわ」


 ベルゼブブの悪態にエリスはムッとした様子で答えた。

 それで彼は鼻で笑う。


 「雰囲気だけだろうが。

町のやつの声とか浪の音とか聞き取る余裕なかったくせによ」


 「もう、そう思っておいてもらっていいわ……」


 エリスは反論するのも諦めてため息を1つ吐いた。

そして思い出したように小さく声を上げる。


 「あ、そういえばロイトさんの所に寄らないと……」

 

 「は?あの薬売り屋ぁ?」


 「いざこざが終わったら一緒に薬作ろうって約束してたし。

何か不満?」


 明らかに不満そうな声を上げたベルゼブブにエリスは淡々と返した。


 「不満に決まってるだろ!オレ様を使い魔君呼びしやがるしよ!」 


 「それだけ……?」


 「充分な理由だろうが!」


 「でも、約束を破るわけにはいかないもの」


 「チッ……真面目が……。行くなら行けよ」


 そう吐き捨てるとベルゼブブは黙り込んでしまう。


 エリスは「契約」も約束も似たようなものなのに、なぜ約束を守ろうとすることにこんなに反対されるのかがわからなかった。




 2人がロイトの所へ向かおうとしたその時、急に後方が騒がしくなった。

振り向くと人々が両側に横1列になってお辞儀をしており、その真ん中を宝石をちりばめた服をまとった金髪の男が優雅に歩いているところだった。

歩くたびに宝石がジャラジャラと鳴り、ふくよかな腹が揺れている。

 その男の周りにいる取り巻きが偉そうに声を上げた。


 「庶民ども、控えろ!

このお方は100年続くグレゴワール家の嫡男、

サヘラン・ド・グレゴワール様であるぞ!」


 エリスは慌ててベルゼブブのローブの袖を引っ張って、わきにそれる。

ベルゼブブは明らかに不快感を示してエリスに詰め寄った。


 「何しやがる」


 「見たらわかるでしょう⁉貴族が通るから私達は動きを止めて頭を下げなきゃいけないの!」


 エリスは小声で言いながらチラリと後方を見る。 

 頭を下げている人々の体は、よく見ると小さく震えていた。

急にこのようなことをしなくてはならないことに怒りを覚えているのだろう。

さらに列の奥では、母親が幼い子どもを落ち着かせるように抱きしめていた。


 「やなこった。なんで人間に頭下げなきゃなんねぇんだよ」


 ベルゼブブはそう吐き捨てるとエリスの手を弾き、

つまらなそうに歩きだした。

エリスは慌ててベルゼブブの袖を掴む。


 「ちょっと!お願いだから今回だけ――」


 「そこのローブの2人!何をしている!」


 鋭い声が飛んできた瞬間、エリスは片手で顔を覆った。

眉間にシワを寄せて近づいてきた側近に深く頭を下げると、事情を説明する。


 「すみません、相方が世間知らずなもので……」


 「世間知らずだと!?常識ぐらいしっかり叩き込んでおけ!」


 「……申し訳ございませんでした……」


 側近の高圧的な言い方に、エリスは怒りで震える体を抑えて謝罪した。

側近は見下すように鼻を鳴らしてエリスから離れてゆく。

 周囲の人々は安心したように胸をなで下ろした。


 しかし、このままでは終わらなかった。

 サヘランに目をつけられてしまったのだ。


 「んん?そこはいったい何を揉めているのかね?」


 「サヘラン様っ!?

い、いえ、この2人が頭を下げていなかったものですから……」


 「ほう、この2人かね」


 サヘランはジャラジャラと音を立てながらエリス達の正面に立つと、

品物でも見定めるような目でジロジロと眺めた。


 「……女の方はなかなかに美人ではないか。

よし、私の妻になるなら今回のことは目を瞑ってあげよう!!」


 「へ……?」


 突然の発言にエリスは目が点になり、周囲の人々はポカンと口を開けた。

 その間にサヘランはジリジリと逃げ場を奪うように、エリスとの距離を詰める。


 「さて、どうするね?私が君の立場なら迷わず承諾す――」


 「とっとと離れやがれ、ブタ野郎」


 すかさずベルゼブブが金色の目を鋭くしながら、サヘランの肩を掴んで強引に引き離した。

 サヘランは自分の倍の背丈があるベルゼブブに見下されて一瞬怯んたが、

すぐに楯突かれたことを思い出して、震える指でベルゼブブを差し示す。


 「き、貴様っ!気安く振れるな!

誰に向かってそのような態度をとっておる!!

 私は100年続くグレゴワール家の嫡男、サヘラン・ド・グレ――」


 「黙れブタ野郎。テメェの声は耳障りだ」


 全く引けをとらないベルゼブブと再び浴びせられた下劣な言葉に、サヘランは怒りで顔を真っ赤にして全身を小刻みに震わせた。

 取り巻きが慌てたようにサヘランの前に出る。


 「サヘラン様!?

貴様、よくも下賤な言葉を!貴族に楯突いた罪で罰してやる!我々についてこい!」


 「誰がノコノコついていくか!

吹き荒れる暴風(テンペスト)》!!」


 ベルゼブブは魔法で風を起こした。

目も開けていられないほどの強風に貴族達はどよめき、ジリジリと後退する。

その間にベルゼブブは呆然としているエリスを抱えて港を飛び出した。

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