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【第2部開始】エレ レジストル〜最強悪魔と旅する生き残り少女の冒険録〜  作者: 月森 かれん
第2部 敗北者達の復讐編

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第65録 アンナの右腕

文字数約4300字です。

いつもより1500字程多くなっています。

 協議が終わり、参加者達は安堵しながら会議室を後にした。

 エリスはアンナと話をするために、用意された自室でくつろいでいるところだ。


 「アンナさん達も大変でしたね」


 「そうなんだよ。まさか母上が父上を監禁してたなんて。

 兄上が行動を起こすまでわからなかったんだ――痛ッ⁉」


 突然眉をしかめて右腕を抑えたアンナに、エリスが心配そうに近づく。


 「腕、痛むんですか?」

 

 「決戦が終わった辺りから、今みたいに時々痛みだすようになったんだ。

アザもできてるし……」


 「見せてもらっても?」

 

 「ああ……」


 アンナが袖を捲ると、赤黒いアザが腕に巻き付くように浮き出ていた。

その不気味さにエリスは思わず口元を覆う。


 「こ、これは……」


 「ラング王の触手に巻き付かれたからかな。

ははは、参ったよ」


 「笑い事じゃねぇぞ」


 低い声がしたかと思うとアンナの隣にベルゼブブが姿を現した。

いつものように腕を組んでアンナを見下ろしている。


 「知ってるの?」


 「ああ。ベリアルの触手だろ。アイツのは呪いがかかるようになっている。詳しい効果は知らんが、早く消さないとマズい」


 「で、でもこれといって……あ、時々痺れるぐらいしか」


 「けっこう進行してるみてぇだな。部下1号に頼むか……」


 「ヒーラー……プリーストやセージじゃダメなのか?」


 「普通の呪いならソイツ等でも良いだろうが、悪魔の呪いだぞ?

そもそも悪魔を知ってるのか?」


 アンナが黙り込む。

 そもそも悪魔や天使、神といったものは架空とされており、

実際に会った等の経験がなければ、まず信じてはもらえない。


 「いや、知らないだろう。悪魔と言っても信じてくれるかどうかもわからない。これはそんなに危険なのか?」


 「さすがに命までは奪わねぇとは思うが、現に右腕に支障が出てるんだろ?

放っておくのは危険だと思うぜ」


 「そうか……。

と、ところで、部下1号とは……片目を髪で隠した緑のローブを着た男の事か?」


 「ああ」


 部下1号とはその名の通りベルゼブブの部下だ。

彼もベルゼブブの事を「タイチョー」と呼んで慕っている。

 悪魔で実験オタクな彼は、素材集めの為に各地を走り廻っている。

 アンナは彼と先の決戦で邂逅していた。

 

 「そ、そうか。い、いや、なんて事はないぞ!

少し気になってるぐらいだからな!」


 「あっそう……」

 

 ベルゼブブは明らかに興味がなさそうな返事をする。

 エリスは眉をひそめるとベルゼブブの袖を軽く引っ張った。


 「なんだよ!?」 


 「あまりそんな態度とらない方がいいと思う」

  

 「オレ様が知るかよ!他のヤツに気を遣う気なんざねぇ!」


 2人の言い合いをアンナは不思議そうな顔で眺めていた。




 エリスはアンナに同行してもらう許可をもらうため、エベロス家の待機部屋を訪れていた。

 アンナがレイン達に要点を話す。


 「……と言うことで、その人に会うまでエリスについていきたいんだ」


 「ワシは良いけど……」


 「絶・対・に・ダ・メ・だ‼」


 レインが険しい表情で言い放った。すかさずエリスが口を開く。


 「何故でしょうか?モンスターと遭遇はするので安全とは言えませんけど」


 「いや、戦闘能力を心配しているんじゃない。

俺はお前を警戒しているんだ!」


 そう言いながら、レインはエリス達の後ろに居るベルゼブブを指さした。

ベルゼブブは呆れ果てた顔でため息を吐く。


 「……どうせちょっかいを出すとか言い出すんだろ?」


 「そうだ‼よくわかってるじゃないか‼」


 「…………………。

 おい、外に出ようぜエベロス。1回殴り合うぞ」


 会うたびに突っかかられて、さすがのベルゼブブも不快感を示した。


 「よし!望むところだ!悪いが叩き伏せ――」


 「だから兄上は心配し過ぎなんだー‼」 


 そう言いながらアンナがレインの頭にゲンコツをくらわせた。

レインが涙目になりながら訴える。とても母親を追放した人物とは思えない。


 「に、兄ちゃんはアンナの事が心配で心配で……」


 「私はもうお守りをされるような年じゃない!」


 「いや、年なんて関係ないぞ!俺にとってアンナはいつまでも可愛い妹――」


 「それをエリスの前で言うなぁっ!!」


 アンナが顔を赤くしながら、再びレインにゲンコツを振り下ろす。

 マティスは2人の様子を心配そうに見たあと、アンナに遠慮がちに尋ねた。


 「ねえねえ、その呪いとかに詳しそうな人ってその人じゃないとダメなの?」


 「特殊な呪いみたいなんだ。プリーストやセージじゃ治せないかもしれなくて」


 「ソイツに来てもらえばいいじゃないか」


 先程のやり取りが嘘のようにレインが真剣な表情で口を挟んだ。


 「あ、その人……定住していなくて自由に動き回ってるんです。

それで、私が何かと会う回数が多いので一緒に居た方が良いかと……」


 「そうー。

じゃあワシとレインはアンナが戻ってくるまでここに留まっとくねー」


 「いや、それはダメだ、父上!」


 「えー、何でー?」


 すぐさま反論したレインにマティスが口を曲げる。


 「王族が不在なんだぞ!万が一反乱とか起こったらどうするつもりだ!」


 「そこは、騎士隊長とかが上手くやってくれるでしょー」


 もはやマティスの方が子供に見える。

エリスとベルゼブブは思わず顔を見合わせた。


 「監禁された理由がわかる気がする……」


 「よくそれで皇帝が務まるな……」


 ベルゼブブの言葉は聞き取っていたようでマティスは彼の方を向いた。


 「ワシは早く退位したいんだけどねー。

「1年も経ってないのにコロコロ代わったら国民が混乱するだろう‼」って許してくれないのよー」


 「事実じゃないか!」


 「だよね……」


 レインに鋭く指摘されてマティスは肩をすくめた。

それからアンナに向き直ると少し真剣な顔になって口を開く。

 

 「アンナ、テオドールさんについていくは良いけど、

何か最近モンスターが凶暴になっているらしいから気をつけてねー」


 「ああ」


 「凶暴になってるんですか?」


 エリスの問いにアンナが頷いた。


 「この辺りはまだそうでもないみたいだが、エベロスの周辺はヒドくてな。おかげで商人達から売りに来れないと不満が出ているんだ。

 つい最近の話なんだけどな」


 「そうなんですね。なら、気をつけて行きましょう」


 「アンナ、とテオドール!できたらソイツを連れてきてくれ!」


 「兄上……この呪いがその場で治せるモノだったら連れては来ないぞ」


 「いや、その場で治せる場合でも連れてこい!

 1度会っておく必要がある!なんなら俺も一緒に行くぞ!」


 「それは困るわー。ワシ1人じゃ帰れないしー。

弱すぎて」


 マティスの発言に場が冷たくなった。

皆、呆れ顔で彼を眺めている。


 「ち、父上、それを人前で言うのか?」


 「事実だし。ワシ、レインとアンナに勝てる自信ないもん〜」 


 「それでも人前で言うことじゃないぞ!父上!

だから母上に――」


 レインの説教が始まり、話が長くなりそうだと悟ったエリス達は額に汗を浮かべながらコッソリと部屋を出た。

 その直後、エリスはベルゼブブに耳打ちする。


 「あの石、握りしめてくれる?」

 

 「言われなくてもやった。とっとと街の外に出るぞ。

じゃないと、すぐに来ちまうからな」


 あの石、とはアザゼルがエリス達に渡してくれた連絡石のことだ。

仕組みは分かっていないが、魔力に反応して距離に関係なく信号が届く不思議な石だった。


 「じゃあアンナさん、急ぎましょう」


 「急ぎましょうって……どこにいるのかわからないんだろう?」


 「それが連絡を取れる物をもらって……。今信号を送ったのですぐに来ると思います」


 「……確かに急がないと大変だな」


 アンナは呟くと早足になった。




 やがて、エリス達はアレキサンドルを出て、街道をゆっくり歩いていた。

 ベルゼブブはピクリと眉を動かすと、アンナにも聞こえる声で呟く。


 「来たか……」


 「もう!?……早過ぎないか?」


 そう言っている内にフードを被ったアザゼルが地面に降り立った。

再会した3人を見て、小さく首を傾げる。


 「タイチョーにエリス……とエベロスのお嬢さん?

どうしたんスか?」


 「えっと、アンナさんの右腕を見てもらいたくて……」


 「エベロスのお嬢さんの右腕?」


 少し眉をひそめたアザゼルに、アンナがゆっくりと右腕を上げて袖を捲って見せた。


 「コ、コレの事――」


 「失礼」


 アザゼルは目にも止まらぬ早さでアンナの側に行くと腕を取った。

真剣にアザを眺めている。


 「え、あっ……」


 「……………………」


 無言でアザを凝視しているアザゼルに、エリスがおそるおそる声をかける。


 「治せそう?」


 「……ああ。少し時間はかかるッスけど」


 「あ、あの……できれば手を離してもらえると……」


 ほんのりと顔を赤くして言うアンナを見て、アザゼルはあっさりと手を離した。


 「それは失礼。だが、このアザは……」


 「ベリアルの触手だって、ベルゼブブが」


 「チッ、腕の1本でもへし折っておけばよかった」


 エリスの言葉を聞いたアザゼルは苦虫を噛み潰したような顔をする。 

 決戦の時にアザゼルはベリアルと1戦交えていた。

 さらりとエゲツない事を言った彼を、冷や汗を浮かべながらアンナが見つめる。


 「そ、それで、コレは危険なのか?」


 アンナが戸惑いながらアザゼルに尋ねた。


 「命は落とさないッスけど、だんだん体が動かせなくなってくる。

最終的には寝たきりになるぐらいにな。

 今の症状は?」


 「時々腕が痺れるんだ……」


 「……そうか。思ったより進行はしてないッスね。

 んで、エリス、エベロスのお嬢さん預かっていいスか?

ちょっと時間かかるんでね。と言っても3日4日ほどだが」


 「私は良いけど……」


 「兄上には言わないでおこう。絶対に許してくれないからな」


 「そうですね。あ、でも連れてこいって……」


 エリス達の会話を聞いてアザゼルが面白そうに口角を上げる。


 「フーン、連れてこいねぇ……。その人、心配症だろ?」


 「私は……か、過保護の方が正しいと思ってる……」


 「なら、直談判しに行こう。

ちゃんと事情を説明して、少し預かるってな」


 「や、やめておいたほうがいい!兄上は粘るぞ!

 以前説得しようとした事があるんだが、朝から説得して夕暮れになっても考えを変えなかったんだ!」


 躍起になるアンナを見てアザゼルが口角を上げる。


 「面白いじゃないスか。オレとお兄さん、どっちが粘れるか勝負しよう」


 「なんかいつもと違う……」


 「あー、スイッチが少し動いたか。入ってはないが」

  

 めんどくさそうに呟いたベルゼブブを見て、エリスが驚きの声を上げる。

 

 「血液出てきてないのに?」


 「部下1号は相手を言い負かすのが好きなんだよ……」


 「そ、そうなの……」 


 エリスが肩をすくめてアザゼルをチラリと見る。

ところが、アザゼルが気づいて不敵にニヤリと口角を上げたため、エリスは慌てて顔を逸らした。

 一部始終を見ていたアンナは平静を装って呼びかける。


 「じ、じゃあ戻るか……」


 「はい……」


 「ククク、楽しみッス」

 

 不敵に笑うアザゼルをエリスとアンナは不安そうに眺めていた。

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