第5録 襲撃
彼等の視線の先にフードを被りローブを身にまとった男が道を塞ぐようにして立っていた。
フードの下から覗く赤い目は生気を感じられないが、しっかりとエリス達に視線を向けていることから、どう見ても迷子の冒険者ではない。
騎士隊長が警戒しながら男に声をかける。
「キサマ、エベロス帝国の者か?」
「違うッス」
「ならば暗殺者か?何故我々が通る事を知っていた?」
騎士達の気迫に男は全く動じず、めんどくさそうに頭に
手を置いた。そしてゆっくりと口を開く。
「オレは帝国とは無関係ッスよ。それにアサシンでもない。強いて言うなら個人的に用がある」
そう言うと男はエリスを指差した。
「個人的に?」
「し、知り合いなのかね⁉」
「いえ……」
騎士隊長に尋ねられたエリスは困惑した表情で首を傾げる。それもそのはず目の前の男とは初対面だからだ。
男はその様子を見て一瞬口角を上げると、何事もなかったかのように騎士達に視線を戻した。
「そこのお嬢さん、こっちに渡して貰えないスかね?」
「できるわけがないだろう!誰からの依頼だ?
エベロスか?」
「だから帝国とは無関係だって言ってるでしょーよ。
個人的にッスよ」
「貴様の言う事が事実だとしてもこの娘は渡せんな!
我々の希望なのだから!」
騎士の言葉に男は大きなため息をついた。
それから早口で何かを呟く。
「あっそう、希望ねぇ……。同じ人間なのにお嬢さんのこと
まるで道具みたいな言い方するんだな。
ハ、くだらねぇ」
「キサマ何をブツブツと……」
「それよりオレばっかり見てていいんスか?」
「は……?い、いつの間にっ⁉」
周りを見た騎士の1人が声を上げる。得体のしれないモンスターに取り囲まれていたからだ。球体の者が多く翼が生えていたり、角があったりと様々な特徴を持っていて、
その数は少なくとも30は超えている。
「な、何だコイツらは!デーモン種?」
「おのれ!貴様の仕業かッ⁉」
「さあてねぇ?」
「ウケケケケケッ!!」
鳴き声のようなものを出しながらモンスター達が襲いかかる。男はとぼけたが、モンスター達が彼に襲いかからないのを見ると、連れてきたのは間違いないようだ。
「《大地の壁》‼」
すぐさま魔法使いが呪文を唱えると、硬い岩がエリスを包んだ。それを見たフード男がため息を吐く。
「やっぱ守るッスよね。そうするよなフツー。
ああ、めんどくせぇ」
「お前がこの女をどうするのかはわからないが、
狙っているのであれば守護するさ!」
「そうスか……」
男はそう言って跳躍するとエリスを覆っている岩の頂点に足をつけた。
そして魔法使いを見下ろしながらゆっくりと右手を上げる。
「クッ、《盾の障壁》ッ⁉」
攻撃に備えてバリアを張った魔法使いの顔が歪む。
範囲外である後方から彼の肩に黒いモンスターが鋭い歯を立てていた。
「いつの間にッ……グッ……」
「オレに気を取られちゃダメじゃないスか。
しばらく寝てな」
牙に眠り薬でも塗られていたようで魔法使いが地面に倒れた。
男はため息をついてからモンスターと対峙している騎士達を見据える。
彼等はどうにか倒しているものの、自分のことで精一杯のようだ。
「クソっ!数が増えてるぞ!」
「いったいどこから……ッ!」
男はその様子を見て再びため息をつくと目の前の岩に目を向けた。
「……武器さばきはお見事。魔法だけじゃなく騎士団にも力入れてるだけはあるな。だが、『希望』から目ェ離したらダメじゃないスか。《メルト》……」
岩に手を添えるとそこから広がるようにボロボロと崩れていった。
そして状況がのみこめていないエリスを小脇に抱えると呪文を唱えて宙に浮く。
「さて、これから――」
「……《火の蛇!!」
魔法使いが地面に伏せたまま炎を放った。
男は軽く避けると魔法使いを見下ろす。
「もう起きたんスか。処置が甘かったかねぇ」
「……空中でも難なく動けるとは、お前、タダモノじゃないな……」
スカイウォーク。その名の通り空を自由に動ける魔法だ。
難易度は少し高めで、ほとんどの者は浮く事まではできるのだが、歩行が難しく、慣れていないとカクカクとした動きになる。
魔法使いは空中で素早く移動した男を見てタダモノではないと判断したのだった。
「今はオレが避けたからよかったけど、もしお嬢さんを盾にしたらどうするつもりだったんスか?謝罪じゃ済まないッスよね?」
「そ、それは……」
魔法を放とうと構えた魔法使いが黙り込む。
男はその様子を見て軽く鼻で笑うと右目を閉じた。
「そんなことも考えてなかったんスか。場馴れしてないッスねぇ。
それに動揺したな?
《強制睡眠》‼」
男が目を開けると同時に赤い閃光がはしり、魔法使いに直撃する。彼は雷に打たれたように体を仰け反らせて再び地面に倒れた。右目には古代文字のような紋様が浮かんでいる。その様子を見ていたエリスが顔を引きつらせた。
「い、今のは⁉《電撃》‼」
直後、エリスの全身から電撃が放たれる。男は少しだけ動きを止めたが、
すかさずエリスの頭を掴むと上を向かせた。
「痛いじゃないスか。あんまり抵抗すると今のヤツみたいに気絶させるぞ。つーか、魔法放てたんスか」
「ま、まさか、できるなんて、思わなくて……」
男は震えながら答えるエリスの頭から手を離した。
右目の模様もいつの間にか消えている。
「偶然か……。頭掴んで悪かったッスね。
そう警戒しなくてもダイジョーブっスよ。オレはお嬢さんの味方なんで」
「でも……」
まだ警戒心を解いていないエリスを見て男はため息をついた。
「よく考えな。もしオレがお嬢さん側じゃなかったら
騎士共もろとも殺してるっスよ。
とりあえず安全な所まで移動しよう。話はそれからだ」
「…………わかった」
エリスは大人しく男の言葉に従う。
男は小さく頷くと宙を蹴って移動し始めた。