第58録 薬売りの少女、再び
2日後、アンスタン大陸では2つの話題で持ちきりになっていた。
1つ目はアレキサンドルの王代理としてジョルジュが務めることになったこと。
2つ目はエベロス帝国の女帝、リーザ・エベロスが夫、マティス・エベロスを幽閉していた罪で国外追放されたことだった。第1王子のレイン・エベロスによって明るみになったという。
アンスタン大陸、アレキサンドルから北に進んだ所にある小高い丘でエリスは薬草を採取していた。近くの木にはベルゼブブが腕を組んでつまらなそうにその様子を眺めている。
「お前、また薬売り歩くのか?」
「ええ。困っている人達を少しでも助けられるから」
エリスが立ち上がる。染めていないオレンジ色の髪が風に揺れた。
「フン、そうかよ」
ぶっきらぼうに言うベルゼブブを少しだけ睨んで、エリスが質問をぶつける。
「そういえば、ラング王って生きてるのよね?」
「ああ。「契約」結んでるベリアルが言ったんだから間違いねぇ。
だが、傷も負ってるし魔力消費も凄まじいだろうよ。すぐに行動できねぇだろ」
「そう……。動けるようになったら、またエベロスを狙うのかしら?」
「んなモン、オレ様が知るかよ。まぁ、そうなったとしたら、打ち返せばいいんじゃねえのか」
ベルゼブブの言葉にエリスは眉をひそめた。
ラング・アレキサンドルは生きている。彼がまた力を取り戻した時にどうなるか、誰も予想はできない。
「その時、私はどうしたらいいの?」
「オレ様が知るかっつってんだよ!助けに行きたけりゃ行け!」
「いいの?」
まだ不安そうに言うエリスに、ベルゼブブは眉をつり上げて詰め寄った。
「いいよ!そんぐらい!オレ様も暴れられるからな!」
「じゃあ、任せる」
恥ずかしさから少し顔を赤くしたエリスは、気まずそうに距離をとる。
だが、すぐに笑みを浮かべた。今度はベルゼブブがたじろぐ。
「な、何で笑うんだよ……。まだ洗脳解けてなかったか?」
「ううん。やっぱり頼もしいなって思って」
「フン、当たり前だろ。オレ様を誰だと思ってやがる」
自信満々に答えるベルゼブブを見て、エリスはまた笑った。
そして手にしていた薬草を革袋に詰め込むと、近くの町、パッカツへ足を向ける。
エリスの出発を応援するように、風が穏やかに吹いていった。
この話で【第1部完結】となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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続く第2部は年内の再開を予定しています。
またエリスたちの物語にお付き合いいただければ嬉しいです。