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第50録 正気と混乱の狭間で

 ベルゼブブはエリスを縛っている鎖を解除しながら驚いたように言う。 


 「ただいま……ってことは覚えてるのか?」


 「体が勝手に動く感覚と、魔法を放っている感覚はあった。

それで……今、体に力が入らなくて……動けないの……」 


 徐々に顔を青くするエリスを見てベルゼブブとアザゼルは盛大に突っ込んだ。


 「体に影響出てんじゃねぇか!」

  

 「マジかよ!?裏の子、どんだけタフだったんスか!?」


 人格が戻る前のエリスも魔力枯渇をしたものの、息切れや吐血等の症状はなかった。本人が認識していなかったのかもしれないが、それでも強靭さは確かだった。


 「幸い吐血まではいってねぇか……。部下1号!なんとかならねぇか!?まだ戦争は終わってねぇ!」


 「難しいッスねぇ。魔力枯渇か。一時的に魔力を増幅させる薬とかあったか?」


 アザゼルは口を曲げながら懐を漁ったが、すぐに肩をすくめる。


 「残念、今は持ち合わせていないッス」


 「作れって言ったら作れるか……?」


 「作れる。エリスの魔力分析は終わってるんでね」


 「いつ、やったの?」

 

 不思議そうに尋ねるエリスを見てアザゼルはニンマリと笑った。


 「血液があれば可能。単なる趣味で血液要求してるわけじゃないんスよ」


 「頼めるか、部下1号」


 「もちろんッス。今から超特急で作ってくるが……終わったら血液3倍寄越しなぁ!」


 アザゼルは珍しく目をギラつかせるとあっという間に地下へ消えていった。

その姿を見送ったベルゼブブの表情は複雑で、呆れと不安が混ざっている。


 「変な薬持ってくるんじゃねぇぞ、実験オタクめ……」 


 「あの人怖い……」


 「オタクモードに入りかけてたな、アレ。

 ところで、お前は今からは何するんだよ?」


 「もちろん戦争を止める。でも情報が少ないわ。ジョルジュさんは私が倒してしまったみたいだけど……」


 うつ伏せでピクリとも動かないジョルジュをエリスは心配そうに見ながら言った。ベルゼブブは鼻で笑うと口を開く。


 「ソイツは放っておけよ。生きてるからその内目覚めるだろ」


 「そ、そうね……。起き上がられて攻撃されても嫌だし」


 そう言ってエリスは立ち上がろうとしたが、すぐに崩れ落ちた。


 「私、動けないんだった……」


 「はぁ……仕方がねぇ、オレ様が特別に運んでやるよ」


 「それは恥ずかしいから、薬ができるまで待ってる」


 「止まってる暇があると思うか!?」


 「あなたに運ばれるぐらいなら待つ方がいいわ!」


 2人が言い争いを始めた時、砂利を踏み分ける音がした。銀色の鎧を身に着けた集団のようで、驚いたように2人を見つめていたが、すぐに兵の1人がエリスを指差す。


 「オ、オレンジ色の髪と瞳……!?」


 「テオドールだぁ!!撤退ー!!撤退ー!!」


 一目散に背中を向けて去ろうとしている彼等をエリスは精一杯呼び止める。


 「ま、待ってください!もうあなた方を傷つけません!」


 「騙されるな!油断させておいて我々を攻撃するつもりなんだ!」


 エベロス兵達はエリスの呼びかけにも応えようとせず、慌てふためいて遠ざかってゆく。

 声が届かずにうなだれるエリスを見てベルゼブブはため息をついた。


 「見てらんねぇ……《拘束する鎖(バインドチェーン)》!!」


 鎖は大きく広がり、ガシャンと音を立ててエベロス兵達を絡め取った。ベルゼブブは手元の鎖を引っ張って近くに引き寄せる、彼等はますます取り乱した。


 「ぎゃあぁ!?どうか!どうかっ!命だけは……っ!!」


 「バカ!!命乞いしても無駄だ!覚悟を決めろ!」


 「あの……私、魔力枯渇で動けないんです」


 「へ?」


 エリスの告白にエベロス兵達は目を丸くした。「出会ったらすぐに逃げろ」と言われていたテオドールがそんなことを言うのだろうか、と。


 「私は正気を失っていて、手当たり次第に暴れてしまったようです。

謝っても済むことではありませんが、申し訳ございませんでした」


 座ったままではあるが深々と頭を下げるエリスを見て、彼等は顔を見合わせボソボソと話し合う。聞いていた話と違うからだ。


 「噂と違うぞ?容赦なく命を奪うんじゃないのか?」


 「そういえば、攻撃されてない……」


 「魔力が枯渇?……とか言ってたよな」


 「……少し話を聞かせてもらえないだろうか?」


 そう言いながら他の兵とは一風違う騎士が1歩前に出てきた。 


 「私はこの集団の隊長を任されているイングベルトだ。

  今言った通り、話を聞かせてほしい」


 エリスが要点を話すとイングベルトは複雑な表情で唸る。信用するかどうか迷っているようだ。


 「つまり、あなたは正気を取り戻したと。我々を傷つけるつもりもないと言うのだな」


 「はい。この戦争を終わらせたいのですが、状況がわかりません。なので、あなた方の陣営に連れていっていただけないでしょうか?」


 兵達からどよめきの声が上がる。まだ完全に信用できない相手を陣営に連れて行くのは抵抗があるようだ。

 するとイングベルトが一喝した。


 「静まれ!テオドールの言っていることが信用できないのなら先に戻れ!」


 「い、いえ、隊長を残して帰るわけにはっ!」


 「ならばうだうだ騒ぐな!

  失礼、お見苦しい姿をお見せした。

  承知した。テオドール、あなたをエベロスの陣営に案内しよう」


 「ありがとうございます……!」

  

 エリスは再び深々と頭を下げた。終始黙っていたベルゼブブは鎖を消すと彼女を肩に担ぎ上げる。その様子を見ていたイングベルトは戸惑いながら尋ねた。


 「そ、それで移動するのかね?」


 「ああ」


 「せ、せめて背負って!恥ずかしいから!」


 顔を赤くして叫ぶエリスを、イングベルトを含めエベロスの兵達はポカンと口を開けて眺めていた。

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