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第48録 コントロール不能

 一方、正気を失っているエリスは次々とエベロス兵一掃していた。

相手が逃げ惑い悲鳴を上げる度に、ゾッとするような微笑みを浮かべている。 

そんな彼女の後ろをジョルジュは複雑な表情でついて行っていた。


 なす術もなく吹き飛ばされてゆく敵兵を心を痛めているような目で見送っている。しかし見ていられなくなってついに尋ねた。


 「テオドール……それが君の本性なのかい?」


 「本性かどうかまでは知らないけど、一部なのは確かよ。そんなにおかしいかしら?」


 「あまりにも変わりすぎているんだ。

君は簡単に命を奪うような性格ではなかったはず……」


 「あなた達が望んだことでしょう?エベロスを蹴散らせって。今更殺すな、なんて言わないわよね?

犠牲の出ない戦争なんて戦争じゃないのよ!《氷結の刃(フローズンブレード)》!!」


 エリスはジョルジュに見せつけるように前方にいるエベロスの一塊に氷剣を飛ばす。しかし彼等に当たる直前、横から火球が乱入し剣を音もなく溶かした。

 エリスと彼等の間に黒い影が降り立ち道を塞ぐ。その隙にエベロス兵は撤退し始めた。


 「……どこかで会ったかしら?」


 攻撃を阻まれた怒りで睨みつけながらエリスが言う。黒い影――ベルゼブブはエリスの全身を舐めるように観察すると、ニンマリと笑った。


 「ああ。嫌という程な。

それにしても髪色戻したのか。そっちの方が強者感が出て、いいと思うぜ」


 「……《炎波(ブレイズウェーブ)》!!」


 「《水波(アクアウェーブ)》!!」


 エリスの指先から放たれた炎の渦をベルゼブブは水魔法で相殺した。また相殺され、皮肉を込めてエリスが呟く。


 「思ったよりやるのね」


 「フン、オレ様を誰だと思ってんだよ」

 

 「知るわけないじゃない」


 強気に答えるエリスの背後からジョルジュが顔を覗かせた。 


 「来ると思っていたよ、使い魔君」


 「やっぱりお前がかけたか、爽やかヤロウ……にしては気が弱ぇな。

予想外のことでも起こったか?」


 「君には関係ないよ……」


 「あっそう。てめえに恨みはないが、痛い目にあってもらうぜ?」


 会話を黙って聞いていたエリスはふとジョルジュに振り返るとニヤリと笑う。


 「……それにしても、あなた邪魔ね」


 「え……」


 今までエベロス軍に見せていた表情を自分に向けられ、思わずジョルジュは後ずさった。ベルゼブブもエリスの意外な発言に目を見開く。


 「理由は知らないけど、私の監視でも任されているのでしょう?

だけど鬱陶しいわ」


 「くっ……《戦いに集中しろ》!!」


 「嫌よ!!《水嵐(アクアストーム)》!!」


 エリスの手から放たれた水流は避ける余裕などなかったジョルジュに直撃した。体が高く打ち上げられ、そのまま地面に叩きつけられた。

 ベルゼブブは表情を変えないままエリスに問いかける。


 「お、お前、まさか……コントロール魔法にかかっていないのか?」


 「何それ?魔法をかけられた覚えなんてないわ」

 

 「嘘だろ……」


 ベルゼブブは開いた口が塞がらなかった。たまに耐性があり、かからない人間がいるが、エリスはそれに該当していない。以前、アザゼルのコントロール魔法にもかかっていたではないか。


 「言葉に対して体が勝手に動くとかなかったのか!?」


 「なかったわ」 


 「演技だったっていうのかよ……」


 「気づいたらよくわからない場所にいたの。そしたらあの人が命令してきたから大人しく従っていただけよ。聞かなかったら面倒なことになりそうだったし」


 「………………。なら、お前は誰だ?少なくともオレ様が知っているエリス・テオドールとは違う」


 「私もよくわからないのよ。ただ……人を殺すのは楽しいわね。フフッ」


 皮肉そうに笑うエリスにベルゼブブは焦燥感を覚えた。

 記憶や人格を取り戻した時、無意識とはいえ自分が大量に人を殺してしまったと知って心が持つとは思えなかったからだ。


 「1つだけ確かなことがある。今のお前を野放しにはできねぇってことだ!」   


 「あら、どうして?」


 「後でお前自身が困るんだよ!」


 「………………」


 ベルゼブブの訴えにエリスは口を曲げながらも手を下ろした。


 「何故かしらね。あなたの言葉、妙に納得するの。それに腹が立つことに、あなたを攻撃するのを体が拒否してるわ」


 「なるほど、記憶はなくても体が覚えているのか。……フン」


 「鼻で笑われると腹立つわ」


 「そりゃあ今まで何回も笑ってきたからなぁ」


 とは言ったもののベルゼブブは悩んでいた。エリスがコントロール魔法にかかっていれば躊躇なく攻撃することができたからだ。

しかもいつ元の人格に戻るのかもわからない今、むやみに傷を負わせることはできない。


 「あ」


 ベルゼブブは何かを思い出したように呟いた。


 「そういや、アイツの父親が人格について何か言ってたな……。

クソッ!何だったか。思い出せ、オレ様!」


 「何をブツブツ言っているのかしら、!《雷撃波(ライトニングウェーブ)》!!」


 エリスの放った雷撃がベルゼブブに襲いかかる。

しかし、歯切れが悪く届く手前で消滅した。それを見たエリスは肩をすくめる。


 「理解できないわ」


 「……オレ様を攻撃することを拒絶しているとはな。なら、動きだけでも封じるか!《拘束する鎖(バインドチェーン)》!!」


 地面からいくつもの黒い鎖が飛び出し、エリスに巻き付いた。ギリギリと絞め上げてくる鎖をエリスは破壊しようとする。


 「っ、この程度の鎖……!?」


 しかし、次の瞬間動きを止めた。まるで幻覚でも見たかのようにオレンジ色の目を大きく開いている。


 「おいおいどうした?抵抗をやめるのか?」

 

 「魔法が……出ない……?」


 エリスの焦り声を聞いたベルゼブブは間を空けて盛大に笑いだした。


 「ハハハハッ!!そりゃあお前、魔力が枯渇してるんだ。魔法を放ちすぎたな?」


 言いながらベルゼブブは鎖の絞めつけを弱めた。魔法が放てないのなら破壊される心配もなく、負わせる傷を減らせるからだ。

 エリスは気まずそうに顔を背けて呟く。


 「そんなの知らない……」


 「だが、その割にはダメージはねぇな。普通だったら息切れしたり吐血したりするんだが」


 「聞いてない……」


 そう答えるエリスの声は弱々しかった。理解が追いついていないためだ。


 「フン、最高一家なのに知らないこと多すぎなんだよ、お前!」


 ベルゼブブは指摘を入れながらも次をどうするか考えていた。エリスの魔力枯渇は一時的なものであり、調子を取り戻せばまた放てるようになる。その前に人格を引き戻さなければならない。


 「クソッ……全くわからねぇ。なんでコントロールされてねぇんだよ」


 ベルゼブブが苦々しく呟く。精神に関することは苦手だからだ。

 その時、上から風をきる音が聞こえ、見上げたベルゼブブは爛々と目を輝かせる。


 「タイチョー、ここにいたか……ってエリス?」


 「いいところに来た!部下1号!

アイツ、コントロール魔法にかかってねぇんだよ!」


 「は……?何スかそれ」


 アザゼルが困惑顔でベルゼブブの隣に立った。


 「オレ様もわからん!だが、テオドールは「人格に難あり」でな。魔力の関係で人格が割れる!」


 「何だそりゃ!?そういうの、先に教えておいて欲しかったッス」


 「オレ様もたった今思い出したんだよ!」


 「あー、そうスか。これは予想外。コントロール魔法にかかってないなら専門外だが――」


 「ちょっと、あまり大声で騒がないでもらえる?耳障りだわ」


 初めて豹変したエリスの声を聞いたアザゼルは驚いて少しの間彼女を眺めていた。しかし、短く笑うとニヤリと口角を上げる。


 「随分変わったんスねぇ。本当にコントロールされてないんスか?」


 「されていないわ。あなたも尋ねるの?しつこい」


 「ふ~ん。人格に難あり、ねぇ。これは面白くなりそうッス」


 強気で尋ねたにもかかわらずテンポを崩さないアザゼルに初めてエリスの瞳に恐怖が浮かび上がる。


 「あ、あなた……何をする気……?」


 「さぁて、何ッスかねぇ?なかなかこういう現象には遭遇しないんで、ワクワクしてきた」

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