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第47録 アザゼルの取り引き

 「た、倒した、のか……?」


 座り込んで一部始終を傍観していたアンナはようやく声を絞り出した。何度も対峙し決着をつけられなかった相手があっという間に見知らぬ男に負けてしまったのだ。

 ふと、アザゼルが自分に向き直ったのを見て体を強張らせる。グラドが倒れたのだから次は自分しかいない。


 「くっ……」


 アンナが咄嗟に剣を構えるとアザゼルは立ち止まった。生気のなさそうな赤い目でしばらく彼女を眺めたあと口を開く。


 「1つ確認ッスけど、お嬢さんはエベロス?」


 「あ、ああ……。アンナ・エベロスだ」


 「そうッスか。お嬢さんもオレと戦うか?」


 「え?」


 アンナは緑色の目を丸くすると少しだけ剣を下げた。てっきり自分も戦うことになると思っており、まるで戦わなくていいような言い方をされるとは思っていなかったからだ。


 「いや、あんまり時間くってる場合じゃないんでね。できれば面倒事は避けたい」


 「な、ならこのまま帰ればいいじゃないか」


 「そういうわけにもいかないんスよ。なんで、取引しないッスか?」


 「取引だと?」


 アンナの顔が引きつり声が鋭くなった。

しかしアザゼルは気に留める様子もなく話を続ける。


 「ああ。オレが言うものをお嬢さんが提供してくれれば、このまま帰ろう」


 「もし提供できなかったらどうするんだ?」


 「絶対提供できるんでね。悪いが、無理矢理にでも貰って帰る」


 そう言うとアザゼルはニヤリと口角を上げた。アンナは困惑と拒絶が混ざった表情で彼を睨んでいる。要求される物次第では取引は流れるだろう。

 アザゼルはアンナに近づいて目線を合わせると手のひらを差し出した。何を言われるのか想像がつかないアンナは思わず唾をゴクリと飲み込む。


 「お嬢さんの血液チョーダイ?」


 「へ、血液?」 


 アンナの声が裏返った。聞き間違えたとでも思っているようで、瞬きを繰り返している。


 「手や足持っていっていいんならそっち持って行くッスけど」


 「いや、血液にしてくれ!少し待ってほしい!」


 慌てて右手の篭手を外しにかかる。しかし焦りながらも表情は安堵していた。


 「こ、これでいいのか?」


 「ああ。じゃあ、ちょっと失礼」


 アザゼルはアンナの手首をとると、いつの間にか用意していた注射器で採血を始めた。

 アンナは恥ずかしさからなのか少し顔を赤くし、落ち着かない様子で目を泳がせている。しかし何度目かアザゼルの姿を目に映した時、何かに気づいて目を見開いた。


 「も、もしかして、あなたは――」


 「動かないでもらえると助かる」


 「す、すまない……。なら、このまま聞いてもらえないだろうか?」


 「ああ。何スか?」


 「その濃い緑色のローブフードと長い左前髪。テオドールの手配書をくれた者だな?」


 アンナは以前部下からエリスの手配書を預かっており、それをくれた人物を探していた。


 『その人物、濃い緑色のローブを纏い、前髪で左目が隠れておりまして……』


アザゼルが聞いていた特徴と一致し、尋ねずにはいられなかったのだ。


 「……ああ」


 「何故だ?第3者と言うのならばあなたにとっては何の関係もない筈だろう?」


 「関係はあるってさっき言ったッス。それに不公平なのは嫌なんでね。お嬢さん達にも教えただけッスよ。

  ……はい、終了。これでしばらく抑えてな」


 「わ、わかった……」


 アンナは止血草を受け取るとさっそく採血された部分に当てて抑える。それから確認するようにアザゼルに声をかけた。


 「こ、これだけで本当に――」


 「帰るッスよ。言ったじゃないスか。

  ついでにアレキサンドルのも貰って帰るか」


 そう呟くとアザゼルはグラドの所に行き、同じように血を採った。小瓶に採った血液を眺めながらニンマリと笑う。


 「クククッ、連続でレアモノ手に入れるなんて明日にでも死ぬかもしれないッスね」


 「ソイツ、生きてるのか?」


 「最初に言ったじゃないッスか。倒すつもりはないって」


 「確かにそう言ったが……」


 「オレは嘘はつかないッスよ。《魔法解除(ディスペル)》」


 唱えた直後、周囲を覆っていた黒い霧が晴れ、魔法や剣撃の飛び交う戦場に戻された。 


 「あ……」


 「衝突の激しい位置から離れた場所にはいる。これから後は考えな」


 アザゼルは言い終わると宙を蹴って姿を消した。取り残されたアンナは瞬きを繰り返していたが、ハッと声を上げると立ち上がる。 


 「私もモタモタしてる場合じゃなかった!1度皆の所に戻らないと。兄上も来てるかもしれないしな」


 奮い立たせるように拳を握るとその場を後にした。 

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