第45録 乱入者
「道をあけろおぉ!!」
アンナは騎乗で叫びながら剣で敵を薙ぎ払っていた。
行く手を阻んでくる武器や魔法を見事な手綱さばきで避けてゆく。それに驚いたのは魔法部隊だった。防がれたり相殺されたりすることはあっても避けられることはほぼないからだ。
「馬鹿な!?いとも簡単に避けられるなど……」
「うろたえるな!!相手も人間なんだぞ!ミスを誘え!」
魔法部隊はヤケになって次々と魔法を放つが、間を縫うように避けられ明らかに動揺していた。
「くっ!バケモノか!?この女っ!?」
「はははっ、魔法を避けるのは楽しいなぁ!」
アンナが笑いながら言う。彼女はわざわざ自軍の魔法部隊の協力を得て避ける訓練をしていたのだ。魔法部隊は額に汗を浮かべながら攻撃を続けるが、一向に彼女には当たらない。
「退けよ!役立たず共!《電撃》!!」
鋭い声が響いたと同時に雷撃がアンナに襲いかかる。
アンナは馬を操りジャンプして雷撃を避けると、素早く下馬して攻撃してきた相手を凝視する。
視線の先には目的であるグラドがいた。
「ああ、やっと会えた。探したよ」
「探すんじゃねぇよ!毎回毎回オレの前に立ちやがって!」
グラドが嫌悪感を示しながら答える。毎回アンナに邪魔され、思うように戦果を挙げられないからだ。
「今回は随分大振りのようだな。テオドールがいるからか?」
「テメェには関係ねぇだろ!今日で終わりにしてやる!」
グラドは言い終わると同時に自分の顔の大きさほどの火球を生み出すとアンナに向けて放った。
アンナはそれをすかさず剣で空の彼方へ弾き飛ばした。
「おっと、危ない危ない」
「その余裕ぶったツラ見てるとムカついてくるんだよ!」
「ああ、そうかい」
グラドはアンナを睨んでいたが、ふと思い出したように目を開いて魔法部隊を指差した。
「おい、お前ら俺の邪魔すんなよ!別の場所に行け!」
「し、しかし、我々はここで――」
「どっか行けっつってんだろ!!お前らから潰してやろうか!?」
「ヒッ!?か、かしこまりましたっ!!」
魔法部隊は慌ててその場から離れてゆく。自分達の命の危機を感じたのと、グラドの過去の残虐な行為を思い出し恐怖に駆られたからだ。
その様子を見ていたアンナは不快感を示していた。
「髄分酷い言いようだな。仲間は大切にしないと」
「あんな奴ら仲間じゃねぇよ!!」
「そうか……。つくづく思っていたがお前とは価値観が合わないらしい」
「合わせたくもねえ!とっとと俺の前から消えろ!」
グラドが魔法を放とうとした瞬間、辺りが黒い霧に覆われた。2人は思わず戦いの手を止める。
「何だよこれ!?エベロス、テメェの仕業か!?」
「違う。お前じゃないのか?」
「見りゃ分かんだろ!?クソッ!誰だよこんな時に――」
「邪魔してすみませんねぇ」
霧の奥から微かに笑みを浮かべながらアザゼルが姿を現した。