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第41録 集落からの脱出

 ドワーフの集落へ辿り着いたエリスは急いで中央の鍛冶場へ向かい、物々交換の相手である陽気なドワーフを探した。幸い、彼はすぐに見つかり急いで薬を手渡す。


 「早かったなぁ。ん?でも少し少ないか?」


 「すみません。足りない分は後日ロイトさんが持ってくるので」


 「そうか。まぁ急だったしなぁ。お前さんもありがとうよ。

 物々交換だったな。何が欲しいんだ?」


 「えっと……」


 エリスが迷っていると、立派な髭を生やしたドワーフ――ガドーが小走りでやってきた。元々から険しい顔つきだが、今は眉間にシワまで寄っている。


 「あんた達、ここにいたか。ちょいとこっちへ来てくんな」


 「ガドーさん、この子はまだ俺と――」


 「悪ぃ、急なんだ!終わってからにしてくれ!」


 「あ、ああ……わかった」


 「すまねぇな」


 ガドーは陽気なドワーフに謝るとエリス達の先導を始める。

エリスは不安でベルゼブブを見たが、彼は無言で正面を見ているだけだった。

 ガドーが2人をイレーネの家の前まで連れて行くと、イレーネが驚いた様子で駆け寄ってくる。


 「おじ様!と、エスさん達!どうなさったのですか?」


 「ちょっと厄介なことになっちまった。今、入口に明らかに身分の高そうな

ヤツが来たんだ。何か怪しくてな、集落を仲間を真剣に眺めてんだよ。まるで誰を探しているように。仲間に頼んで引き止めてもらってんだが」


 「はっ!?もしかして私の暗殺!?」


 「違います……」


 エリスはイレーネをなだめると、改めて真剣な顔つきで口を開いた。


 「すみません、その人達は私を追って来たのだと思います」


 「ああ……。姫さんから話は聞いたんだが、アンタ重要人物なんだってな。で、姫さんと一緒に一度国に帰らなきゃならねぇ、と。

 だが、ここは出入り口があの1箇所しかねぇんだ。それにこのままだと姫さんにまで被害が及んじまう」


 「じゃあ、集落を囲っている柵を1つ退かしてそこから出るのはどうでしょうか?」


 イレーネが集落を囲んでいる頑丈な木柵を指さしながら言う。


 「いいとは思うんだがよ、俺達の銃倍もある高い柵なんか退かしてる最中に感づかれちまう――いや、待てよ」


 ガドーは真剣な表情で柵に顔を向ける。木柵をぐるりと凝視して、ふと呟いた。


 「作業場の真裏にあるやつなら滑車や家の陰になって見えねぇな。

ただ、時間がかかっちまうぞ。それまでに引き止めが効くか?」


 「短気な人がいるので難しいと思います」 


 「えぇっ!?引き止めてくれている方々、ケガしませんよね?」


 「まぁ少しぐらいのケガなら大丈夫だ。俺達は頑丈だからな。

それにしても、お前さんの話し方だとまるで相手が複数いるようだな」


 「え?2人ではないのですか?」


 驚いて聞き返すエリスを見ると、ガドーは不思議そうに瞬きをしてから首を左右に振った。


 「いや、1人だ。金髪で水色の目。で、目つきは鋭い」


 「思っているより時間はないかもしれませんね……」


 特徴からグラドだと確信したエリスは唇を噛んだ。感情に任せてドワーフ達を攻撃する可能性が高いからだ。

 とはいえ、誰も他に脱出する案が思い浮かばず、時間だけが刻々と過ぎてゆく。グラドの足止めにも限界があるだろう。

 ガドーが大きなため息を吐いた時だった。


 「親方ぁ〜」


 マイペースなドワーフがヒョコヒョコとガドーの隣にやってきて、漂っている重い雰囲気をものともせずに口を開いた。


 「何だよ!俺は今忙しいんだ!」


 「そろそろ採掘の時間っす」


 「採掘……?それだ!!」


 突然、目をつり上げて叫んだガドーをエリス達は呆然と眺めている。


 「お、おじ様?何か思いついたのですね?」


 「ああ!採掘には荷車が付き物。それに紛れ込め!」


 採掘は短くても半日はかかる作業。ドワーフ達は道具や食料等を運ぶためにいつも荷車を使っていた。

 窮屈な思いをすることになると悟ったベルゼブブはエリスに耳打ちする。


 「オレ様は地下に行くからな」


 「え?う、うん……」


 エリスが言い終わる前にベルゼブブは音も立てずに姿を消した。

 ガドーが改めて紛れ込ませる人数を確認し始める。

 

 「姫さんと嬢ちゃんと……あり?黒いフードの背の高い兄ちゃんはどこいった?」


 「か、彼は使い魔なので一時的に住処に帰りました。私達が集落から出たら戻ってくるそうですので、心配しないでください」


 「そ、そうか。あの兄ちゃん人間じゃなかったのか……」


ガドーは若干冷や汗を浮かべながら答えた。どうやらその類の話は苦手のようだ。


 集落の東にある倉庫で、採掘に出かけるドワーフ達にガドーが一通り説明すると、彼等は何度も頷いた。


 「という訳だ。紛れ込んでるからって丁寧に運ぶんじゃねぇぞ。いつも通り運べ」


 「了解っす」


 「さあ、この上でうずくまってな」


 ガドーが指し示したのは荷車の中央だった。つるはしや樽、ロープで囲まれており、布が何枚か敷かれているだけで振動も直に伝わってくるだろう。

 エリスは不安から若干眉をしかめたが、ゆっくりと項いた。


 「わ、わかりました。よろしくお願いします」


 「年季が入ってるからボロボロなのは勘弁してくれ。だが、基礎はしっかり組んであるから壊れねぇ。それにいつも布をかけて移動してるから安心しな。まぁ取られたら終わりだけどよ」


 「荷車を4人で囲んで移動している。取られないようにはするが……」


 エリス達が乗り込むのを見守りながら、両手に包帯を巻いているドワーフが言う。他の3人もうんうんと頷くと、ゆっくりと荷車を押し始めた。

 



 「どいたどいたぁ」


 先頭を任されたマイペースなドワーフがグラド達に声をかけると、引き止めていたドワーフが眉を上げる。


 「ああ、もうそんな時間なのか。悪いが兄ちゃん、そこを空けてくれねぇか」


 「ちっ、めんどくせぇな!つーか、お前らがとっとと中に入れてくれねえからだろ!」


 「悪い悪い。空けてくれてありがとうよぉ」


 マイペースなドワーフは歯を見せて笑うと、荷車を囲んている3人に声をかけてゆっくりと右に曲がっていった。

 グラドはドワーフ達と荷車を睨みつけながら舌打ちして、門番のドワーフに詰め寄る。


 「で!俺はいつになったら入れるんだよ!」


 「ああ、それについては俺が対応しよう」


 「あ?誰だお前――」


 「ガドーさん!!」


 東側からガドーがのっそりと姿を現した。明らかに他のドワーフとは違う気迫にさすがのグラドも何回か瞬きする。


 「お前が一番偉いヤツか?」


 「そうだ。随分待たせてしまったようで悪かったな」


 「全くだ!ただの観光だってのに、何を警戒してたんだよ!」


 「こちらにも基準があってな。お前さんはそれに当てはまってしまったんだ。悪く思わないでくれ」


 淡々と答えるガドーにグラドも少しずつ落ち着きを取り戻した。

そして案内をかって出たガドーに文句を垂れながら、ようやく集落へ立ち入れたのだった。




 難なく集落から出、西の海岸まで辿り着いたエリス達は安堵の息を吐いていた。

 神経を集中させて石のように固くなっていたエリスとイレーネは全身を伸ばしている。 


 「いや〜、あんなに簡単に行くもんっすね〜」


 「てっきり止められるかと思った……」


 「私達もヒヤヒヤしてましたけど、ここまで来れて良かったです!」


 イレーネが笑顏で答える。すると荷車の後ろにいたドワーフが意地悪そうに口を開いた。


 「でもまだまだこれからなんだろう?俺達はここまでだから、後は気をつけなよ」


 「どうもありがとうございました。皆さんもお気をつけて」

 

 「ありがとうございました!」


 エリスとイレーネは深々と頭を下げるとドワーフ達を見送る。

彼等の姿が見えなくなった直後、ベルゼブブがエリスの隣に姿を現した。

その様子を見たイレーネが嬉しそうに飛び跳ねる。


 「わぁ!本当に使い魔さんだったんですね!初めて見ました!」


 「あ、あの、あまり止まっている時間は無いと思いますので!」 


 使い魔と呼ばれた怒りからイレーネに詰め寄ろうとするベルゼブブのローブを必死に掴みながらエリスが言う。


 「そ、そうでしたね。これからなのですが……」


 イレーネはそう言うと海を見やる。

見渡す限りの青が広がっており、景色として見るなら素晴らしいのだが、周辺には船どころか渡り板すらない。

 エリスは手の力を緩めないまま眉を潜める。嫌な予感が湧き上がったからだ。 


 「ここからどうするんですか?まさか――」


 「そ、そのまさかです。エリスさん、協力してください!」

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