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【第2部開始】エレ レジストル〜最強悪魔と旅する生き残り少女の冒険録〜  作者: 月森 かれん
第2章

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第33録 ドワーフとエベロス家

 エリス達はドワーフ達の集落に辿り着いていた。

 中央にドーム状の鉄筋の建物があり、そこから金属を打つ音が響いている。どうやら工房のようだ。

 集落といっても技術は発達しており滑車等のマーレ港では見られなかった装置が忙しく稼働している。

 エリス達に気づいたようで、顎から立派な髭を生やしたドワーフが近づいてきた。背丈は低く頭がちょうどエリスの腹の位置にくる。


 「おう、いらっしゃい。観光か?」


 「いや……ロイトさんからのお使いで薬を持ってきたんだが……」


 「なんだ、お前さんロイトの兄ちゃんとこの人か。

  ん?でも初めて会うよな?」


 「期間限定のお手伝いで……」


 「ほぉー」


 相変わらずぎこちない口調で話すエリスを見ても、ドワーフは気に留めず話を続ける。エリスの背後にいるベルゼブブは呆れて鼻を鳴らした。


 「じゃ、薬を貰おうか」

 

 袋を受け取ったドワーフは中身を確認すると満足そうに頷く。 


 「バッチリだ。しかも要求より多く入れてくれてる。さすがロイトの兄ちゃんだ。はっはっはっ!

  お前さんもありがとな。街道にはモンスターは出ないとはいえ歩いて来んの大変だっただろ?」

  

 「モンスターが出ない?」


 「なんだ、知らねぇのか?街道にはエルフ達がモンスター避けのバリア張ってくれててよ。そのおかげで安全に移動できるんだ」


 首を傾げているエリスを見てドワーフが胸を張って答えた。

 リヤン大陸はアンスタン大陸よりもモンスターの被害が大きいため、人間、ドワーフ、エルフ、コロポックルの4種族で協定を結び、日々駆除にあたっている。

 ドワーフの説明を聞いたエリスは関心して声を漏らした。


 「ところで、もう帰るのか?」


 「いや、せっかく来たから見て回ろうかと」

 

 「そうしなそうしな。何もない所だがゆっくりしていけ。

ああ、中央の作業場には近づかないでくんな。火傷するからよ」


 「あ、ああ」


 まくしたてるように言うとドワーフは片手を上げながら去っていった。

その後ろ姿を見送るとエリスは背後のベルゼブブに声をかける。


 「歓迎はされているのよね?」


 「見た限りじゃな」


 「じゃあ、見て回る」


 「……好きにしろ」 


 少し目を輝かせて言うエリスを見てベルゼブブは大きなため息をついた。

 何年も前の話ではあるが、人間と他の種族は仲が良くなく、緊張した空気が流れていた。互いに深く干渉しない点は現在でも名残があるものの、出会い頭に悪口が飛び交うことはない。

 そのことを母から聞いていたエリスは心配してベルゼブブに尋ねたのだった。



 エリス達が集落を見て回っていると、金属製の容器を運んでいる紫髪の少女に出会った。緊張しているようで何度も瞬きをしている。


 「あ、こ、こんにちは。か、観光ですか?」


 「薬を届けに来たついでに。……貴女は?」


 「ああ、このお方はエベロス家第2王女、イレーネ様だ」


 エリス達の背後から先程のドワーフが口を挟んだ。驚いた2人が素早く振り返るとバツが悪そうに頭を掻く。


 「ああ、悪い。忘れ物思い出してよ。これをロイトの兄ちゃんに渡してくれねぇか。俺達がよく行く鉱山にしか生えていない薬草でよ。いつもお礼に渡してるんだ」


 「わ、わかった……」


 エリスは薬草が入った袋を受け取ると訝しげにイレーネと呼ばれた少女を見つめる。


 「それで、なぜエベロス家がここに?」


 「なんだ、エベロス家のこと知ってんのか?

  契約みたいなもんだ。破ったからって罰があるわけじゃないんだが。昔からの馴染みでよ。

  王家の子の修行を見る代わりに、俺達の武器を使ってもらってるんだ」


  「そうなのか……」


興味深そうに相づちを打つエリスを見て、ドワーフは少し鼻をこすって話を続けた。


 「8歳になったら俺達が預かるんだ。それで武器の使い方や手入れの仕方を教えて、修行して、ある程度強くなったら試練を受ける」


 「その試練をクリアできれば一人前と認められて国に帰れるんです」


 イレーネが嬉しそうに口を挟む。その様子を見てドワーフはため息をついた。


 「姫さんはやっと土台ができたところだけどな。エベロス家にしちゃ優しすぎんだよ。今まで見てきた者はどんどんチャレンジしてメキメキ強くなったてのによ」


 「で、でも私、最近やっと……ヒートスライムを斬れるようになったんです!」


 自信満々に言うイレーネにその場の空気が白ける。

しばらくその空気が続くかと思われたが、すかさずエリスが話を繋げた。

 

 「それは強いモンスター?」


 「いいや……。姫さん、何度も言うがヒートスライムはこの辺りで()()()()モンスターだからな」


 「はい!分かってます!」


 開き直っているようなイレーネに彼女を除いた皆が哀れむような表情をする。ドワーフがポツリと呟いた。


 「姫さんは今12歳なんだが、ここまで長く預かってるのは初めてだ」 


 「ご、ごめんなさい……」


 「まぁ、ちょっとでも成長してるからいい――」


 「親方ァ、ヘルプっす!」


 「今行くから待ってなァ!……ってことだ。

 姫さんに失礼のないようにな!」


 ドワーフはエリス達に念を押すと駆け足で作業場に向かった。

 イレーネは手を振ったあと、おそるおそるエリスに近づいて話しかけようとした時、作業場の方から声が飛んでくる。


 「イレーネちゃーん、水ー!」


 「あ、は、はい!すぐに持って行きます!で、ではまたっ!」


イレーネはドワーフ達に飲み物を運んでいる途中だったらしい。エリス達に軽く頭を下げると慌てて作業場に向かっていった。


 「あれは……待ってないといけないよね?」


 エリスはまたベルゼブブに尋ねたが、彼は鼻を鳴らしただけだった。

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