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第31録 アレキサンドルの後ろ盾

 翌朝、エリスは朝食を済ませるとさっそく出かける準備に取り掛かった。とはいえ、いつも持ち歩いている顔ほどの大きさの革袋を腰に結びつけるだけなので5分もかからずに終わる。タイミングを見計らってロイトが超声をかけた。


 「そういえば封印魔法はかけなくて大丈夫?帰ってきたら解くよ?」


 「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 封印魔法はその名の通りかけられた対象者の魔力を一定まで封じる。エリスがかけてもらえば平均より少し高いぐらいまで抑えることができるのだが、威力も抑えられたままになってしまう。その状態でジョルジュたちと遭遇してしまうことを恐れて、エリスは断ったのだった。

 ロイトは少しだけ眉を下げると話を続ける。


 「そう……。じゃあ、よろしくね。

 もし身の危険を感じたら、薬を届けていなくても戻ってきていいから!」


 「わかりました」 


 エリスが外に出たのを見届けるとロイトはカウンターで肩をすくめた。


 


 マーレ港を出たエリスは教えてもらったとおり街道沿いを歩いていた。雲1つない青空が広がっていて徒歩で移動するにはちょうど良い天候だ。アンスタン大陸と比べても特段変わっているところはない。

 エリスは何度か地面とベルゼブブを交互に見て遠慮がちに口を開く。


 「ねえ、どう思う?」


 「何がだよ?薬屋のことか?」


 「今の生活全般」


 「まだ2日目だろうが⁉それにオレ様に聞くことじゃねぇだろ」


 ベルゼブブは横目でチラリとエリスを見てから大きなため息をついた。


 「強いて言うなら、かなり恵まれてるな。

そんなに心配なら薬屋に断って自分でどうにかしろ」


 「心配とかじゃなくて……」


 「じゃあ何だよ?」


 「………………」


 「言い返せないならそれは心配だ!

  まぁ、どうするか考えて――」


 そこまで言ってベルゼブブは言葉を区切ると歩幅を大きくしてエリスの前に出た。直後、2人の前にアザゼルが降り立ち、眉をつり上げているベルゼブブを見ると少し口を曲げる。


 「そんな警戒しなくてもよくないスか?タイチョー?」


 「部下1号、そんなにコイツが欲しいか?」


 「欲しいか欲しくないかで言われたら欲しいが、横取りなんてしないッスよ。それにオレがそういうの嫌いなことはタイチョーがよく知ってるでしょ?」


 「……不必要に近づくんじゃねぇぞ。これ言うの2回目だからな」


 睨んでいるベルゼブブにに対して、アザゼルは薄ら笑いを浮かべるとゆっくり頷いた。


 「リョーカイッス。

  ところで、どうやってここまで来たんスか?船?」


 「オレ様を運び屋にしやがった」


 先程よりもさらに眉をつり上げて低い声でベルゼブブが答える。アザゼルは少しの間固まった後、盛大に笑い出した。


 「ハハハハハッ!!タイチョーを運び屋にしたんスか⁉

スゲー度胸あるッスね」

 

 「笑いすぎだろ。それにもう2度としねぇ」


 「いや参った。やっぱアンタ只者じゃない。クククッ」


 まだ笑いの余韻が残っているアザゼルをエリスは少し警戒しながら見つめている。ベルゼブブは腕を組むとアザゼルを睨んだ。


 「笑うな。それと話すことあるなら、とっとと話せ」


 「ああ……。なら、本題に入ろうか。ここに来る前にアレキサンドルに立ち寄ったんスけど、町の様子がピリピリしててな。噂じゃ近々戦争が始まるじゃないかって言われてるらしい」


  「エベロスとの戦争?」


  「それ以外にねぇだろうよ。

  ますますお前を血眼になって探すだろうな」


  「……………………。

  でも、私を戦力に加えたところでどうするの?ジワジワ攻めるのが好きだって彼は言ってた」


 彼とはジョルジュのことで以前、捜索抜きで会って話をしておりその時にラング王の戦い方について聞いていたのだった。

 エリスの言葉を聞くとベルゼブブは呆れたように息をつく。


 「そりゃお前がいない場合だ。お前が加わったら容赦なくエベロスを蹴散らすぜ。エベロスを恨んでんだろ?」


 「そう聞いてるけど……」


 「なら、一気に攻め込む可能性は高い。アレキサンドルとエベロスの戦いなんざオレ様にとっちゃどうでもいいがな。

  で、まだ話あるのか?」


 「ああ。前に1つ言わなかったことが。今なら言ってもダイジョーブッスよね?」


 「アレキサンドルの後ろ盾か」


 ベルゼブブの言葉にアザゼルは頷いた。話についていけていないエリスは2人を交互に見る。


 「言わなかったときなんてあった?」


 「あった。明らかにヘンな間だったが、気づいていないのならそれはそれでよかったッス」

 

 「アレに気づいてなかったのかよ、お前。鈍すぎんだろ。

  まぁ、それは置いといてだ。アレキサンドルの後ろ盾は――」


 少しの間の後、2人は同時に口を開いた。


 「ベリアル」


 「ベリアル⁉」


 ベリアルといえば、下劣・嘘つきで有名で人間からの印象は良いとはいえない。しかし位が高く、持っている魔力もそうとうなモノなため、欲望が強かったり絶えなかったりする人間からは密かに人気があった。

 ベルゼブブとアザゼルはそれぞれジョルジュとグラドの魔力を感じ取っており、そこに若干ではあるがベリアルのを感じ取ったのだった。

 驚いて声を裏返らせたエリスを横目で見てから、ベルゼブブはため息を

ついた。


 「チッ、やっぱりか。だからクソガキはオレ様の鎖を解くことができたんだな」


 「それに船上で感じ取ったのは微量。契約者じゃない。

契約者はラング・アレキサンドルでしょーよ。子は力を分けてもらってるだけッスね」


 「元々の魔力にベリアルのが追加されてんのか。

  爽やかヤロウとクソガキの様子見る限りじゃ、ベリアルのことは知らされてねぇな」


 「フーン、そうなんスか。面白いッスねぇ。血を分けた子にすら言ってないなんて、よほど話せない事情があるんでしょーね」


 「身内にすら『契約』結んでいることを言わないヤツは多いぞ。以前オレ様が『契約』結んだヤツもそうだったからな」


 エリスは意外そうに目を開いてベルゼブブを眺めた。父親よりも前にベルゼブブを召喚し「契約」を結んだ人間がいることに驚いたからだ。

しかし今はそんなことを聞いている場合ではないので、真面目な顔つきになると口を開く。


 「ベリアルって手強い……よね?」


 「どうだろうな」


 「なんとも言えないッスね」


 「え?」


 予想外の回答にエリスは目を丸くした。2人がどう思っているかわからないとはいえ、ベリアルが手強くないはずがない。


 「強いのは確かなんだが、あまり戦おうとしないからな」 


 「そうッスね。……ああ、カオ思い出しただけで腹立ってきた」


 「仲悪いの?」


 「悪いッス。姿思い浮かべただけで捻り潰したくなるぐらいにな」


 眉間にシワを寄せて言うアザゼルを少し怯えた目で見ながら、エリスは思い出したように声をかける。


 「そういえば1つ気になってることがあるんだけど……」


 「ん?」


 「私を名前で呼ばなくなったのはどうして?」


 アザゼルは小さなため息をつくと軽く頬を掻く。自分の名前を教えた辺りからアザゼルはエリスを名前で呼ぶのを避けていたのだ。


 「あー、気づくよなフツー。はぁ……いや、こっちの事情ッス。オレを名で呼ばせていないのに、こっちは名で呼ぶのはおかしいと思ったんでね」


 「私は気にしないから」


 「そうスか。じゃ、名前で呼ばせてもらうッス。

  最後に1つ。エリス、薬飲んでから異変はないスか?人間に薬を渡したのは初めてなんでねぇ」


 「な、ない」


 さっそく名前で呼ばれたことに戸惑いながらもエリスは回答する。アザゼルはそんな彼女をどこか面白そうに眺めながら話を続けた。


 「そうスか。もし異変が起こったら言いな。処置しないといけないんでね」


 「助かるけど、どうやって言うの?町に滞在してるわけじゃないんでしょ?」


 するとアザゼルは石のような物を放り投げる。ところがエリスがキャッチする寸前でベルゼブブが割って入り、彼の手に収まった。ニヤリと勝ち誇ったように笑うとエリスを見下ろしながら懐にしまう。


 「あっ!」


 「お前だと落としそうだからオレ様が持っといてやる」


 「まぁ、持っとくのはタイチョーでもエリスでもどっちでもいいんスけどね。オレを呼ぶときはそれを思い切り握りしめな。忙しくない限りすぐに来るッスよ」


 「ああ、わかった。もしそうなったら頼むぜ、部下1号」


 ベルゼブブの返事を聞くとアザゼルはいつも通り宙を蹴って去って行った。

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