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第25録 村長の素性

 エリスと村長を両脇に抱えてベルゼブブは宙を蹴って進んでいた。しかし負傷しているエリスを気遣ってかスピードは遅い。

 ようやく村長が口を開く。

 

 「お、お嬢さん、大丈夫かい?」


 「はい……」


 そう答えたエリスは肩で息をしており、顔色が悪い。軽度ではあるが傷を負ったのと魔力消費が激しかったからだ。


 「ワシらの為に戻って来なくても……」


 「私のせいですから。それに村長さん達にはたくさん助けてもらいました。見過ごすことなんてできません……。

あと、村長さんを村に降ろしたら、別の場所に移動して」


 「ああ」


 短く答えたベルゼブブに村長が目を見開く。


 「ま、待ちなされ。お嬢さんは傷を負っておるし万全とは言えん状態ではないか。快復するまで村で休んでいきなさい」


 「これ以上、迷惑をかけるわけにはいきませんので……」


 拒否するエリスを見て村長は悲しげに目を伏せる。 

すると2人の頭上でベルゼブブが大きなため息をついた。


 「おとなしくジイさんの言う事聞いとけ。お前の気持ちもわからなくはねぇ

けどよ。なら、どこで休む?その間に騎士共に襲われたらどうする?迎撃できねぇだろ?」


 「でも……」

 

 「ひとまず今日は世話になっとけ」 


 エリスは反論しようとしたが他に案が思い浮かばずに諦めて顔を下げた。

すると村長が思い出したようにベルゼブブの方にに顔を向ける。


 「それはそうと、お前さんは?お嬢さんの身内かの?」


 「……そんなところだ」


 短く答えるとベルゼブブが前を向いたため、話を続けようとした村長は察して口を閉じる。村につくまで誰も口を開かなかった。


 


 ベルゼブブはイカナ村の入口に足を着ける。わざと大きな音を立てたため、村人たちが何事かと集まってきた。人々の声を聞きながらベルゼブブがソっと村長を地面に降ろす。


 「そ、村長!」


 「よかった!無事だったんだねぇ!」


 村長の姿を見て敵ではないと認識した村人たちは歓喜してベルゼブブの近くに寄る。そんな彼らをベルゼブブは少し距離をとってから嫌そうな目で眺めた。


 「それにエリスちゃんじゃないか!」


 そう声を上げたのはジョセフィーヌだった。まだ状況がのみこめていない

ようで瞬きを繰り返している。


 「フードの人、村長を助けてくれてありがとうね」


 「礼はいい。悪いがまた少し世話になる。

コイツを休ませないといけねぇ」


 ベルゼブブが抱えたままのエリスを横目で見ながら言った。エリスは目を閉じて苦しそうに息をしており、それを見たジョセフィーヌがハッと目を見開く、


 「怪我してるじゃないか!もちろんさ、休んでいきな!」


 「助かる。コイツが意識取り戻したら出ていくからな。

長居はしねぇ」


 「ゆっくりで構わんのじゃが……」


 「コイツが使ってた家借りるぞ」


 戸惑っている村人たちを気にもせずベルゼブブはその家の方に向かい始めた。

村長は村人たちに向き直るとゆっくりと話し出す。 


 「心配をかけたの、ワシは無傷じゃから安心してほしい。

彼等に少し話さないといけないことがあるから、ワシも行ってくる。

皆は戻りなさい」


 「で、でも……」


 「彼等は国の都合で追われておる。何か罪を犯したわけではない。

せめてお嬢さんが快復するまで休ませてやってくれんか」


 「アタシもそうしたいんだけどねえ、その間に騎士様やグラド様が来ちまったらどうするんだい?さすがに言い逃れはできないだろう?」


 ジョセフィーヌの言葉に村長は目を閉じた。しかしすぐに開くと口を開く。


 「言い訳はできる。ワシを連れて戻ってすぐに出ていったと言えばいい」


 「簡単に納得してくれるとは思わないけどねぇ」


 「また強制的に捜索されるよ」


 ボソボソと心配そうに話し合う村人たちを見て村長は小さく息をつくと深々と頭を下げた。驚いた彼らは慌てて止めに入る。


 「村長⁉何も頭を下げることないじゃないか⁉」


 「2日。その期間だけ我慢して貰えんか。ワシのわがままじゃからな」


 「いや、俺たちも協力したいんです!ただアレキサンドルが……」


 そう言ったのはイルザだった。村の数少ない若者の1人で、以前1度だけ同年齢のデールと共にエリスがいることを密告したことがあった。しかし懲りて村の発展のために日々努力している。


 「確かにバレたら大変だしねぇ……」


 「少し時間をください。何かいい案がないかデールと考えます」


 「すまんの、2人とも。来ないことが1番じゃがな」


 2人はさっそく家に向かって行った。それに便乗して他の人たちも散り散りになっていく。村長はもう1度頭を下げてその場を後にした。




 村長がベルゼブブのところへ向かうとエリスがベッドで浅い寝息を立てていた。イスに座ると心配そうに横目で見ながら口を開く。

 

 「しかし、そんなに傷は深くないのに、どうしてこんなに辛そうなんじゃ?」


 「コイツは普段から魔力を使おうとしない。それで、今回一気に使いすぎて体がついていけてねぇんだ。休んだら治るとは思うがな」


 「そうか……。ワシは魔法についてはサッパリなのじゃが、一瞬で騎士様たちを無力化したのはすごかったのお。

 もう1つ疑問なのじゃが、何故ワシが連れて行かれておるのがわかった?」


 「アレキサンドルから聞いたんだよ。捜索は抜きで個人的に話しに

来やがった」


 村長は納得したように何度も頷きながら話を続けた。


 「となると、ジョルジュ様の方か。何かの間違いでもなければグラド様が

言うはずないからのぉ。……失礼。

 そ、それで1度この大陸から離れておったのに戻ってきたのか、お嬢さんたちは」


 「ああ。コイツは自分のせいでこうなった言ってたしな」


 「それは違う。お嬢さんが追われていると知りながらワシらは匿った。ワシらの自業自得じゃ」


 「なんだよ、やっぱりそうじゃねぇか」


 不満げに言うベルゼブブを村長が不思議そうに眺める。


 「なにがなんでも助けに行くってきかないから、同じことをコイツに言ったんだ。結局こうなっちまったけどな」


 「そ、そうじゃったか……」


 村長の言葉を最後に場が静寂に包まれる。ベルゼブブは床を睨んでいたが、ふと顔を上げると村長に視線を向けた。


 「そういえばジイさん、あんた何者だ?」


 「ワシ?ただの村長じゃよ」


 「ウソつけ。ただの村長にしては頭の回転が速い。それに他のジイさんバアさんに比べたら体格がシッカリしすぎてんだよ。

格闘でもやってたのか?」


 ベルゼブブは村長を抱えたときに違和感を覚えていた。

背丈や肌のシワは年相応だが、それにしては体格がよく、

食事を引いたとしてもガッシリしすぎている。 

村長は小さく笑ったあと、ゆっくりと立ち上がった。支えにした物もなかったのに動きがスムーズだったため、ベルゼブブはますます眉をしかめる。


 「そこまで見抜かれておるのなら話そう。だから怖い顔をやめてくれんか。ただし内密に頼むよ。誰にも言ってないからな。

 ワシはオルド・フミック。ご存知かな?」


 フミック家はテオドールと同じ最高一家ではあるが、拠点大陸が違うのと拳闘家であることが幸いして、アンスタン大陸ではそこまで話題にあがっていなかった。


 「なんでまたそんな一家が」


 「ワシは跡継ぎ争いを嫌った父に連れられてここに来たのじゃ。異論はなかった。考えも一致しとったしの。

それでこの村に流れ着いて、居心地がよかったから住まわせてもらったのじゃ。

この大陸にもワシ以外にフミックはおる。そう簡単には名乗らんじゃろうがの」


 「なら、ジイさん、その気になれば騎士共をやっつけられるってことか?」


 「2人ぐらいならの。それ以上はムリじゃ。身体能力もずいぶん落ちとるし。毎日隠れて鍛錬はしておるが、それでも

薪割りぐらいしかできんわい」


 ベルゼブブが軽く唸る。思わず遠回しに褒めそうになったが、自分の面目が潰れるため抑えたのだった。


 「もしお嬢さんが起きたら、いつも通りに動けるようになるまで休んでいけとワシが言っておったと伝えてくださらんかの?これからもまだ追われるのじゃろう?」


 「ジイさんの言うことはありがたいがな、コイツは聞かねぇよ。それにオレ様も同感だ。ジイさんはよくても他のヤツらはどうなんだ?コイツを置いておくことをよく思ってない

ヤツもいるんだろ?」


 ベルゼブブの言葉を聞くと村長は目を見開いてから少し俯いた。


 「気づいておったのか……。そう、先ほどジョセフィーヌが休めと言ったときに複数人表情を曇らせた」


 「ジイさんが申し訳無さそうな顔すんなよ。追われ者を匿うんだから村のヤツらの反応が正しい。それに実際にジイさんが連行されたしな。

よく思わねぇのは当然だろ」


 「よく思ってないのではなく不安だと思うがの。また今回のようなことが起こるかもしれんし。

 ひとまず今日と明日は休んでいきなさい」 


 そう言うと村長は家を出ていき、会話を打ち切られたベルゼブブは今日何度目かの大きなため息をついた。


 「クッソ、調子狂うぜ。コイツやジイさんたちを見てると放っておけなくなる。オレ様は魔王だぞ?たかだか人間味を

感じたぐらいで……。

 とにかく、コイツがいつも通りにならねぇとどうもできねぇな。

久しぶりに魔法使ったぐらいで寝込むなんて弱すぎんだろ。

まったく、世話が焼けるぜ」


 ベルゼブブは腕を組むと眠っているエリスを見下ろした。

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