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第20録  一難去ってまた一難

 エリスたちは甲板で海風にあたっていた。他にも乗客が何組かいて、彼等も同じように風を満喫している。

 大きな船ではあるが、大陸間移動用であることと移動時間も短いため船室はない。

 

 「初めて乗ったけど、楽しい」


 「そりゃよかったッスね。

はぁ、乗るつもりはなかったんだが」


 隣でアザゼルが大きなため息をついた。それを見たエリスはおそるおそる彼の方を向いて小声で話しかける。

 

 「巻き込んでごめんなさい。それと、さっきはありがとう。あのままじゃ船に乗れなかったかもしれない」


 「間違いなく乗れてなかったでしょーよ。

 なんとなく嫌な予感がしたから追ってみれば、案の定ッスよ。まだタイチョー出さないんスか?」


 「大陸移動が終わってないから」


 「あっそう……。魔力調査なくてよかったッスね。

あったら詰んでたッスよ」


 「うん……」


 エリスは俯いてアザゼルから顔をそらした。

 魔力の放出を抑えるには高度な魔法を連発するか、他人に

魔力を吸収してもらうしかない。

しかし、前者だと一般人ではないことが簡単にわかってしまうし、後者は吸収してもらう相手との魔力の相性もあり、

悪ければ拒絶反応で命を落とす危険がある。

 

 「まぁ、魔道具造るのも労力かかるしな。手配書だけで

どうにかなると考えたんスかねぇ」


 小声で言いながらアザゼルはエリスの真後ろに立つと船縁に手をかけて一気に距離を詰めた。


 「なに――」


 「魔力の高いヤツが1人乗ってる」


 表情や声のトーンを全く変えずに言うアザゼルを見て

エリスは抗議しようとしたのをやめて不安な表情を

うかべる。


 「それって……」


 「アレキサンドルでしょーね。単なる偶然だといいんだが。今いる船首付近から動いてないんで、すぐにどうこうあるワケではなさそうッスけど。

 どーする?着いたら即降りれるように移動するか?」


 乗船口の向かい側にエリスたちは立っていた。今の位置

でもすぐに降りれる距離だが、相手が移動しないとも限ら

ない。見た目を変えているとはいえ魔力の高い者同士がすれ違えば普通ではないことぐらいはわかる。

 エリスは少し考えたあと、アザゼルをまっすぐ見た。


 「移動はしなくていい」


 「そうスか」


 「あと、さっきみたいに横に移動してくれると助かるん

だけど……」


 「何か不都合でも?」


 「近い」


 先程までとは一変して、少し顔を赤くしながら言うエリスを見たアザゼルはニヤリと口角を上げる。


 「ハッ、何を今さら。もともとこれぐらいの距離感だったッスよ?」


 「それでも、近い」


 「悪いが降りるまでガマンしてもらうッス。こうしてるのにもちゃんと理由があるんでね」


 バッサリと言われたエリスは諦めておとなしく体を丸めた。そして首をアザゼルの方に向けると口を開く。


 「……ついでに1つ聞いていい?」


 「なんスか」


 「ずっと気になってたんだけど、どうして私が騎士たちに

連れて行かれてるってわかったの?」


 「ああ、それスか。オレも地下に居たんでタイチョーに

会ったんスよ。それでアンタがピンチだって聞いた。

 このままじゃマズイ事になるが、自分は出れないから代わりに頼むって」


 「そう……」


 理由を聞いてもまだ表情を曇らせているエリスにアザゼルは少しだけ眉をひそめて小さくため息をついた。


 「まだ何か引っかかってそうな顔ッスね」


 「頼まれたからって初対面の相手を助けられるのが

すごいと思って」


 「みんなそうなんじゃないスか?面識ないヤツがモンスターに襲われてたら助けるだろ?」


 「だとしても――」


 「マーレ港に着いたぞー!!」


 船長の大声にエリスの声がかき消され、加えて周りがざわつき始める。もう話はできないと悟ったエリスは口を

閉じた。


 「さて降りるか、ぼっちゃん?」


 「ま、また――」


 「来な」


 アザゼルはエリスのローブの袖を掴むと浮き足立つ乗客に

混ざって素早く船を降り、町の奥へと進んでいく。


 「ちょっと⁉」


 「モタモタしてたらアレキサンドルに声かけられるッスよ。こっちに気づいてる可能性がゼロとは言えない」


 エリスは黙り込んだ。その間にも縫うように進んでいく

アザゼルを見て目を見開く。


 「この町、知ってるの?」


 「ちょくちょく来るからな。案内ぐらいはできるッス。

この辺りでいいか」


 アザゼルは人気のない路地裏で立ち止まるとエリスに

向き直った。驚いたエリスが少し身構える。


 「ひとまずタイチョー出したらどうスか?」


 「そうする。……《アンヴォカシオン》」


 いつものようにエリスが呪文を唱えると魔法陣の中から

フードを被ったベルゼブブが姿を現す。立て続けに呪文を唱えて受肉させた。

 

 「あー、待ちくたびれたぜ!それにしても受肉させるとは

なあ。どういう風の吹き回しだ?」


 「骸状態だともし何かあったときに対応できないと思う

から。とても不安だけど」


 「何も不安に思うことなんてねぇだろ⁉オレ様を誰だと

思ってんだよ⁉」


 「あなたが誰かなんて関係ない!また他人の服や靴を踏む

でしょう⁉トラブルの原因になったら――」


 「それ以上ケンカするならそれぞれ1本分もらうッスよ」


 薄い笑みを浮かべながら言ったアザゼルを見た2人は

スゴスゴと引き下がる。ベルゼブブが不快感を示しながら口を開いた。 


 「なんで嬉しそうなんだよ……」


 「少し採るのは控えようと思っていたんだが、こういうのでもらえるんならラッキーッス」


 「それはカンベンしてほしい」


 困り顔で言うエリスを横目で見たあとベルゼブブは腕を組んでアザゼルを睨む。


 「そういや1つ言おうと思ってたんだが、コイツに近づき

すぎだ。オレ様を怒らせたいのか?」


 「あれは仕方がないでしょーよ。アレキサンドルに声かけられてゴタゴタした方がよかったッスか?」


 正論を返されてベルゼブブが口を閉じた。暴虐な性格では

あるものの、なんだかんだいってエリスに危険が及ぶのを

避けているようだ。

 やり取りを聞いていたエリスが思いだしたように声を

あげる。


 「そういえば、ちゃんと理由があるって……」


 「ああ。できる限りくっついておけばアレキサンドルが個人で魔力感知の道具を持っていたとしても、オレ1人分の魔力

だと言い訳できるからッスよ。足元見ながら歩くヤツなんて、そうそういない」


 「そりゃそうだが、バレたらどうするつもりだったんだ?

まさか船上でやり合うわけにもいかねぇだろ」 


 「その時は操るッス。向こうが気づいていたかどうか

なんてわからないッスけど。

 さー、もうオレはお役御免ッスね。じゃーな」


 アザゼルはそう言うと人混みの中に消えていった。

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