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第14録 村長の思い

 村長の家の前には村人全員が集まっており、彼等の前に

村長、その隣に2人の若い男が立っていた。気まずそう下を向いている。


 「残念じゃが、デールが自白した。たまたま出稼ぎ先の

アレキサンドルから帰ってきておるそうじゃな。

それと、隣のイルザは釣られたのか。ワシはとても悲しい」


 すると村長の隣にいる男性――デールが顔を上げて叫んだ。


 「だってこの村は裕福とは言えないだろ⁉ちょっとでもお金をもらって皆でラクに暮らして欲しかったんだ!」


 村人達は複雑な表情でデールを見つめる。村長が彼の肩に

ソッと手を置いた。


 「デールたちの村への思いは伝わった。じゃが、少し向きが違ったようじゃの。確かにこの村は裕福とは言えん。しかしな、ワシらは皆で協力して生活しておる。それだけで幸せなんじゃよ」


 「で、でもっ!」


 「確かにお金があれば裕福にはなる。しかしそれは一時的じゃ。永遠には続かんじゃろ?

 それに人を渡したお金で生活してワシらが喜ぶと思うか?」


 「じゃあ、どうすれば良いんだよ……」


 ガックリと膝を落とすデールに村長は目線を合わせる。


 「お主は今、出稼ぎに行っとるんじゃったな。そんなに村の事を思ってくれとるのなら戻って来てくれんかの?

 ちょうど特産物でも作ろうかと考えておってな」


 「だけど……お金が……」


 「出稼ぎをやめたからといってすぐに生活が苦しくなるわけでもあるまい。困ったらワシに言いに来ておくれ。皆で協力

して立ち向かおう。

 ところで、イルザは金額に目がくらんてしまったの

じゃったな?いくらじゃ?」


 「……50万オールです……」


 イルザの一言で場が騒がしくなった。何人かは村長に詰めかけ、他の人たちは信じられないような表情でエリスに目を向ける。その様子を見てジョセフィーヌはさらにエリスを隠すように体を移動させた。


 「落ち着きなさい。確かに50万オールは大金じゃ。

ワシらからしたら手が届かない額かもしれん」


 「でも村長!50万あればしばらく食べ物に困らずに

すみます!」


 「古い道具も買い替えられます!」


 「そうじゃな……」


 村長はそう呟きながら歩き始める。さすがに止めるわけにもいかず、詰めかけた人々は気まずそうに道をあけた。

ジョセフィーヌの前に立った村長は背筋を伸ばすと彼らに

鋭い目を向ける。


 「お主らの言うことは間違ってはおらん。だが、お金が

尽きた後はどうする?場合によっては今の生活より質が下がるかもしれんぞ?」


 「それは……」


 「まだ皆には知らせていなかったが、そろそろ貯蓄が農具を買い替えられそうな額になる。もちろんまとめてな」


 ゆっくりと諭すように話す村長を見て村人たちは徐々に顔を下に向けた。話し終えた村長はその様子を見てニッコリと微笑む。

 

「……誰も反対はないのじゃな?それならよかった。

さて、そろそろ戻ろうか」


 村長の一声で村人達が散り散りになっていく。

誰もいなくなったのを確認すると村長はエリス達の方を

向いた。


 「すまんのぉ、あの子たちも悪気があった訳ではない

のじゃ。ワシらを思ってくれての――お嬢さん?」


 エリスは膝立ちになっているデールたちを睨みつけている。目に魔法陣のような模様が浮かんでいて表情はとても冷たく、すぐにでも殺しそうな勢いだ。


 「…………そんなにお金が大事なんですね」


 「お、落ち着いてくだされ!確かに許しがたい事ではある。だが、彼らも反省しておるし……」


 「…………そうみたいですね」

 

 「ちょ、ちょっとアンタ……」


 止めようとするジョセフィーヌの手を軽く振り払うとエリスは両手を握りしめて2人の目の前に立つ。そして小さな声で

話し始めた。


 「優しい方々でよかったですね。村長さんたちが居なければ殺しているところでした」


 「ヒッ……!」


 「こ、ころッ……⁉」


 「お、お嬢さん!話ならワシが聞こう!だから、どうか

そこまでにしてもらえんか?」


 怯えだした2人を見て慌てて間に割って入った村長にエリスが目を向ける。しかし先程までの冷たさは嘘のようになくなっており、不思議そうに村長とデールたちを交互に見る。


 「ほんの一瞬記憶が無いんですけど、何かしてしまった

みたいですね……」


 「ご、ごめんなさいごめんなさい!こんな事になるなんて

全然考えられなくてっ」

 

 何度も謝罪の言葉を口にしながらガタガタと震えている

デールたちをエリスは困ったように眺める。

村長が困惑しながらエリスに声をかけた。


 「さ、さっきのはいったい?」


 「まるで人が変わったように見えたんだけど、

どうしたんだい?」


 「そ、それが私もわからなくて。あの、大丈夫ですよ?」


 側に立ったジョセフィーヌに答えながらエリスはデール

たちに優しく声をかける。

しかし2人の状態は変わらなかった。


 

 戸惑う3人を上空でボサボサ男が眺めており、右目には

エリスと同じ魔法陣のような模様が浮かんでいた。どうやら

コントロール魔法をエリスにかけたようだ。

一部始終を見ていたようで、目を細めると大きなため息を

つく。


 「ハ、結局自分や大事なヤツの為なら他はどうなっても良いってか。理解出来ないワケではないけどな。

 お嬢さんを利用するつもりはなかったが、少し魔法使わせてもらったッスよ。ああいうヤツらには1度灸を据えてやらないと理解しないんでねぇ。

 クソッ、イヤなこと思い出した。胸糞悪い」


 ボサボサ男はエリスたちを睨みつけると宙を蹴って

どこかに向かった。

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