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第13録 迫る危機

 翌日、エリスは相変わらず農作業に勤しんでいた。昨日よりもスピードが上がっており、側の切り株に座っている老婆が感心しながら適宜指示を出している。


 「進歩してるねぇ。ちょこっと言っただけなのに」


 「ありがとうございます……。まだまだ皆さんには

及びませんが」


 「いやいや、遠慮することじゃないよ。アンタは今日で3日目だけど、もう土起こしを手早くできるようになっている

だろう?ここまで呑み込みの早い子は久しぶりだねぇ。

 あ、そういえば頭痛は治ったのかい?」


 「は、はい。あれは一時的なものだったので。昨日みたいにたまに痛むことがあるんです」


 相棒――しかも悪魔の仕業と言うわけにもいかず、

エリスは手を止めると苦笑しながら答えた。老婆は頷いて

話を続ける。


 「大変だねぇ。もしまた痛みだしたら休んでいいからね」


 「……ありがとうございます」


 作業を再開しようとしたエリスのもとにジョセフィーヌが

息せき切って走ってきた。肩で大きく息をしていたが驚いているエリスを見ると頬を緩ませる。


 「ああ、よかった……。ここにいたんだね。

アンタ、今すぐあたしについてきな!騎士様たちが

来てるよ!」


 「え?」


 突然の知らせに固まるエリスを見ながら老婆が口を

開いた。


 「おや、税の徴収にしては早すぎないかい?」


 「村長もそう言ってた。だから誰かがこの子のことを国に

知らせたんだろうよ。残念なことだけどね」


 「ならジョーさん、この子は安全な場所に連れてくん

だろう?私はどうしたらいいんだい?」


 「ハリーさんはいつも通り過ごしときな。

変にぎこちなかったら逆に怪しまれるよ」


 ジョセフィーヌの言葉を聞きながらハリーと呼ばれた老婆はエリスに手を差し出す。意味を読み取ったエリスから鍬を受け取るとゆっくりと立ち上がった。

 

 「はいよ。それならいつも通りに過ごすかねぇ」


 「よろしく頼むよ、ハリーさん!

 さ、ついてきな!」


 「はい……」


 ジョセフィーヌはまだ頭の整理が追いついていないエリスの服の袖を軽く引っ張りながらその場を後にした。



 一方、村長は村の入り口に立って様子を見ていた。しばらくして騎士達がガシャガシャと鎧を響かせながらやってくる。村長を見つけると敬礼し、マントをはおった騎士隊長が前に出た。


 「突然失礼。この村にテオドールの少女が居るとの情報が

入った。すまないが調査させていただきたい」


 「はぁ……調査するのは構いませんが、テなんとか?の少女

なんて知りませんぞ。今初めて聞いたわい」


 「む、貴方には通さずに知らせたのでしょうな。貴方の言葉を信じたいが、情報が本当かどうか確かめなければならない。失礼……」


 「そうですか……悲しいですな。我々は今までしっかりと

税を納めてきたというのに」


 騎士隊長は再び敬礼すると村長の横を通り抜け、他の騎士たちも後に続く。

 村長は眉間にシワを寄せて彼等を眺めていた。



 ジョセフィーヌはエリスを連れて村の奥にある洞穴に来ていた。簡易的な木のドアを開けて中に入ると薄暗く少し

ジメジメした空気が2人を包む。

エリスはローブの袖でで軽く鼻を覆いながら周囲を見回した。大きめの樽や木箱がたくさん並べられて積み上げられている。


 「ここの洞穴は倉庫さ。涼しいから食物の保存にうってつけなんだよ。独特なニオイに慣れないかもしれないけど

ねぇ。さ、ここに隠れてな」


 そう言うとジョセフィーヌは隅ヘエリスを押し込み、彼女が見えないように樽や木箱を並び替えた。


 「息苦しいと思うけど我慢しておくれ。騎士様たちもさすがに夕方までには帰るだろう。それと、あたしが呼びに来るまで絶対に声を出したり音を立てちゃいけないよ!他の人たちでも返事しちゃダメだ!何があっても必ずあたしが呼びに

来るからね!」


 「は、はい!」


 エリスの返事が聞こえたのかはわからないが

ジョセフィーヌは満足そうに頷くと洞穴から出て行った。



 しばらくして、ドアが開き複数の足音がし始める。エリスはハッとしてさらに身を丸めた。


 「おーい、騎士達ならもう帰ったから出てきてもいいぞー」


 「けっこう時間はかかったけど、村長がどうにか説得して

くれたよ」


 若い村人のようだ。思わずエリスは動こうとしたが、

ジョセフィーヌの言葉を思い出してグッとこらえる。


 「反応がないぞ?ここにいるんじゃないのか?」


 「そのはずなんだけどな。……いないのかー?」


 「ど、どうする?今からこの大量の箱やタルを動かす気にはなれないぞ?」


 「いや、もしかしたら場所を移ったのかもしれない。

これだけ呼んでも反応なしだから」


 「じゃあ早く出ようぜ!」


 男たちは来たときよりも焦った様子で走り出して洞穴を後にする。再び1人になったエリスは大きく息をはいて額に

浮かんだ汗を拭った。



 さらに時間が経ち、複数のガシャガシャという音が倉庫内に響く。先ほどの男たちの言葉は嘘だったようだ。

再びエリスは身を強張らせる。


 「他に思い当たる所と言ったらここしかありませんな」


 足音の主は村長と騎士たちだった。マントをはおった騎士が積み上げられている木箱を見ながら口を開く。


 「ここは倉庫かね?」


 「はい。できれば調査は控えて欲しいのですがな。

なにしろ食物が大量に保存してあるもので、動かされると

どこに何があるのか分からなくなってしまいますのじゃ」


 「それについてはご安心を。

 我々が元通りに致しますので」


 「そうですか……。お約束していただけるのなら調査してもらって構いません。

 先に言っておきますが、ここで最後ですからな。もう怪しい場所などありませんぞ」

 

 騎士達は頷くと樽や木箱を調べ始め、ガタガタと騒がしくなった。エリスは緊張と不安からか目をギュッと閉じて、

息を殺している。

 少しして、多くのフタを開けたためかいろいろな食物の匂いが混ざり悪臭となって倉庫内に漂い始めた。

頑丈な鎧でも臭いまでは防げない。


 「ウッ……ゲホッ……」


 「こ、これはキツイッ……!」


 「ひゃから、ひゃへて、ほひひほ、ひっひゃほひゃ

(じゃからやめてほしいと言ったのじゃ)」


 いつの間にか布で何重にも口と鼻を覆った村長が憐れみの

表情で言う。


 「……こ、これだけ探しても、居ないのなら、村内には、

居ない、だろう……て、撤退‼」


 騎士隊長の号令で騎士達が一目散に洞穴から出て行く。

そんな彼等を村長は勝ち誇った表情で眺めていた。

 


 騎士達が出て行ってからすこしして倉庫に1つの影が差した。布で口元を覆いながらゆっくりとドアを開ける。


 「あたしだよ。もう大丈夫さ」


 ジョセフィーヌはそう言って再びタルや木箱を動かし始める。片手なので最初より時間がかかったが、なんとかエリスの姿を目に映した。肩を叩くと服に挟んでおいた布を

手渡す。


 「ごめんねぇ、最初から渡しとけば良かったねぇ」


 あまりの悪臭に顔を歪ませながらもエリスは首を横に

振った。


 「いえ、おかげで見つからずに済みました。

 本当にありがとうございます」


 「そうかい?なら、いいんだけど。それにしても面白かったよ。騎士様たち、ヒーヒー言いながら帰ってった。アンタにも見せてやりたかったよ。……って笑っていい話じゃないか」


 「…………………………」


 「さ、出ようか。今、村長が村人全員集めて密告した人を

割り出している事だろうからね」


 ジョセフィーヌに肩を抱かれながらエリスはポツリと

呟く。


 「騎士たちが来る前に村の男性が2人来ました。

帰ったから出てきていいって、私を迎えにきたみたい

でしたが……」


 「なんだって⁉」

 

 慌ててジョセフィーヌは立ち止まるとエリスの顔を

覗き込んだ。


 「騎士様たちの前ってことは、まだ帰ってないじゃないか!アンタを差し出そうとしたってことかい?よく出て行か

なかったね?」


 「動ここうとはしたのですがジョセフィーヌさんの

「他の人でも返事をしちゃいけない」という言葉を思い出しました」


 「ありがとう……あたしの言葉を信じてくれたんだね」


 「ジョセフィーヌさん……」


 どこか不安そうに見つめてくるエリスを見てジョセフィーヌはハッと我に返る。


 「って嫌だねぇ!あたしらしくもない!

 ささ、行こうか」


 ジョセフィーヌは少し歩くピードを早くしてエリスを

倉庫から連れ出した。

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