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第12録 エリスの手伝い

 イカナ村の畑の一角では、農作業着に身を包んだエリスが

鍬を振るっていた。滞在して2日目になる。 


 「振り上げて、下ろすっ!」


 ザクリという音を発しながら鍬が土に突き刺さる。エリスはそのまま鍬を手前に引いて土を引き寄せた。側で一通り見ていた老婆がゆっくりと口を開く。 


 「昨日よりはよくなったけど、まだまだだねぇ。

もうちょっと腰を落として、あと振り上げる高さもね。

肘がほぼ伸びた状態から、まっすぐ下ろすんだよ」


 「は、はい。すみません」

 

 「謝ることじゃないさ。手伝ってくれて私たちは助かって

いるんだから」

 

 エリスは自主的に農耕の手伝いをしていた。村長やジョセ

フィーヌをはじめ村人たちは遠慮していたが、エリスがあまりにも真剣に頼むため仕方なく折れたのだった。


 「ちょいと鍬を貸してくれないかい?」


 「はい……」


 老婆は戸惑うエリスから鍬を受け取ると彼女から少し離れたところに立った。


 「よっこいせいっ‼」


 素早く鍬を振り上げて土にザクリと突き刺し、そしてすぐにすくいあげて自分の方に引き寄せる。

その流れるような動作をエリスは唖然とした表情で

眺めていた。


 「こんな感じだねぇ……。あ、あとアンタは鍬を振り上げたときに位置が定まってないだろう?真上に持ってきたときにもブレがないようにすると私みたいにできるようになるさ。

 とはいえ、私たちも体力がないから数はこなせないけど

ねぇ」


 エリスは老婆の言葉を感心しながら聞いている。今日まで

全く農作業に触れたことのないエリスだったが、村人たち見て興味を持ったようだ。

 ところが、突然顔を歪めて軽く頭を抑えると老婆に声を

かける。


 「っ⁉……すみません、少し頭痛がするので休憩して

きます」


 「おや、ちとハリキリ過ぎたかい?もちろんさ、痛みが

なくなるまで休んでおいで」


 「ありがとうございます」


 お礼を言うと同時にエリスは駆け出し、仮の住居に飛び込んだ。そして肩で息をしながら呪文を唱える。


 「《アンヴォカシオン》」


 すると床に魔法陣が描かれ、いつも通りベルゼブブが姿を

現した。


 「《インカネーション》」


 立て続けに呪文を唱えて受肉させると、真っ先にベルゼブブがしかめっ面で口を開いた。


 「なにノンキに畑耕してんだよ、お前は」


 「私のローブとか新調してくれているんだから、ただ待っているだけじゃ申し訳ないもの」


 「それなら、薬作るとかモンスター倒してやるとかの方が

いいんじゃねぇか?」


 「考えたけど農耕の方が大変そうだったし……」


 「一生ソレ(農作業着)着てろ」


 ベルゼブブは呆れて大きなため息をつくと、めんどくさそうに話を続ける。


 「で、わざわざオレ様を喚び出したの何かあんだろ?」


 「うん。この前の頭痛の原因、あなたでしょ?」


 「ほぉ、よくわかったな」


 エリスから言われてベルゼブブは意外そうに眉を上げた。

パッカツの町と護送中にを襲われた頭痛を、エリスは

ベルゼブブが原因であると推測していたのだった。


 「パッカツのときはどうにもできなかったけど、護送のときはあなたを喚び出したら途端に治ったもの。なら、あなたが原因としか考えられない。……どうやってるのかはわからない

けど」


 「オレ様を出しとかないのが悪ぃんだよ。もしその間にお前が死んだら面目が潰れる」


 「だったらケンカを買わないで」


 「オレ様にケンカ腰で話しかけるヤツが悪い」


 ベルゼブブの受肉前の姿は、袖や裾の長いローブに深く被ったフードと首に巻いている紫の布で顎すら見えておらず、とても奇妙だ。しかし背丈は成人男性よりもひと回り大きいため、喚び出されたときは何かと声をかけられることが多いのだった。


 「だいたいフードを被っている理由を聞かれているだけ

じゃない。ケンカ腰ではないと思うけど」


 「うるせぇ。オレ様からすればケンカ腰なんだよ」


 「……《デロベ》」


 途端に黒いモヤがベルゼブブを覆い、晴れたときには顔の見えない骸状態になっていた。それにも関わらずベルゼブブはエリスに掴みかかる。


 「テメェッ……!」


 「嫌なら目立たないようにして」


 「クスリ……ウル……メダツ……!」


 「確かにそうけど町中でケンカされるよりは目立たない。

それに両親との「約束」の1つなの。困っている人をできる

だけ助けるようにって」


 少し目を伏せて言うエリスをベルゼブブは鼻で笑った。


 「フン……クダラン……」


 「あなたにとっては下らないでしょうね。

 ……肝心なことを言うの忘れるところだったわ。頭痛起こすのやめてもらえる?」


 「オマエ……シダイダ……」


 「そう……。《ラントレ》‼」


 今度はアレキサンドルのときのように白いモヤがベルゼブブを覆う。そして抗議の声をあげるひまもなく姿を消した。


 「出しておくかどうか決めなきゃ。私が簡単に死ぬわけにはいかないのは確かなんだけど、もう少しスルー力があればいいのに……。ベルゼブブなのだから仕方がないのかもしれないけど、まだ難しい」


 エリスはブツブツ呟きながら老婆の待つ畑へと歩みを進めた。




 村の入り口に茶髪の青年が立っていた。懐かしそうに頬を緩めていることから、長期間村を離れていたようだ。ゆっくりと村内を歩いていたが、何かを見つけてこれでもかというぐらい目を見開く。


 「あれは!?アレキサンドルでみた絵と同じ……」

 

 青年は何回も唸り首を捻っていたが、決心したよう目つきを鋭くすると来た道を戻った。

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