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第9録 再びイカナ村へ

 エリスは再びイカナ村を訪ねていた。1人でいる事から

ベルゼブブを返還したようだ。

 灯りのない道を警戒しながら進んでいたが、人影を見つけて早足になる。


 「あ、あの……」


 「おや、もう周ってきたのかい?ずいぶん早いねぇ」


 人影はジョセフィーヌだった。ランプで手元を照らしながら花の数を数えているところで、驚いてはいるもののどこか

嬉しそうだ。


 「すみません、今、込み入ってまして」


 「………ついてきなよ」


 エリスの表情から何かを読み取ったようで、ジョセフィーヌは深く尋ねずに先導を始める。エリスは身を低くして後をついていった。

 少し歩いて村の中で最も大きいと思われる家の前で

ジョセフィーヌが立ち止まる。


 「村長の家さ」


 「えっ、ですが」


 戸惑うエリスをスルーしてジョセフィーヌがノックすると

白髪の男がドアから顔を覗かせる。


 「おや、何か――おお、薬を売ってくれたお嬢さんじゃないか!こんな時間にどうしたんだね?」


 「込み入ってるんだってさ」


 「……ひとまず中に入りなさい」

 

 村長は2人を中に招き入れるとドアを閉めた。

部屋の中央に長方形のテーブルが置いてあり、その周りに椅子が3つ並べてある。村長はその1つにエリスを座らせると、

自分は向かい側に腰を下ろした。


 「何があったのか聞かせてもらえるかね?」


 「実は…………」


 エリスがゆっくりと話始めるとジョセフィーヌは出ていこうとする。しかし村長が手で制止し座るように促したため、

彼女は諦めた様子で彼の隣に座った。 

 エリスの話を聞き終えると村長が唸り声を漏らす。


 「なるほど。生まれつき魔力が高い、か。

それで国から追われていると」


 「厳密にはまだ追われてないないのですが、数日経たずに

指名手配されると思います。

それでお願いがあるのですが、髪の染料をいただけま

せんか?」


 「もちろん。お嬢さんにはお世話になっているからなぁ。

追われるのなら、染めた方がいいじゃろうし」


 ゆっくりと頷いた村長に同意してジョセフィーヌが

口を開く。


 「なら、ついでにそのローブも新調したらどうだい?

しばらくは安心できると思うけどねぇ」


 「ですが……」


 「染料を出すのに少し時間がかかるのさ。

食事と睡眠時間を除いて作業しても、早くて3日ぐらいだろうよ」


 「そんなに根を詰めてくださらなくても!」


 身を乗り出して言ったエリスにジョセフィーヌは笑いながら

話を続ける。

 

 「はははっ、例えで言っただけさ。でも3日以上はかかる

だろうねぇ。

 そうかそうか、ボスボアをあっさり倒しちまうから不思議には思ってたんだけど。厄介なところに目をつけられちまったねぇ」

 

 「え?」


 「ボスボアを倒してくれたの、アンタじゃないのかい?」


 「そう、ですけど……」


 まごつきながら言うエリスを見てジョセフィーヌは安心したように息をついた。


 「なんだ、違うのかと思って心配したよ。

 でもごめんねぇ。騎士様達が徴収に来た時にボスボアと

アンタの外見の事を話しちまったのさ。

まさかこんな事になるなんて……」

 

 「いえ、私はアレキサンドルで魔法を使ってしまいました。それが原因です。あなたは悪くありません」


 お互いに謝る2人を村長は悲しそうに眺めていた。

そして小さく咳払いすると口を開く。


 「お嬢さんの言うように時間の問題じゃろうな。

 束の間になってしまうかもしれんが

ゆっくりしていくといい」


 「でも……」


 「お嬢さんからもらった薬でワシら老人達の体の痛みが柔いでおるのじゃ。さすがに若い頃までとはいかんが、皆嬉しそうに畑仕事をしておる。

 お嬢さんには感謝してもしきれんのじゃよ。微力ではあるがどうかワシらにも協力させておくれ」


 「………ありがとう……ございます……」


 涙を浮かべながら言うエリスの背中をジョセフィーヌが優しく撫でた。そして大きく息をすう。


 「よし、そうと決まればあたしはみんなに知らせて

くるよ!」


 「頼んだよ、ジョセフィーヌ。ワシは空き家の掃除でも

してくるかの」


 「急に名前で呼ばないでおくれっ!心臓に悪いじゃないか!」


 ジョセフィーヌは少し顔を赤くして家を後にした。

 村長は静かに見送ってポツリと呟く。


 「いつも名前呼びなんじゃがなぁ。

 そうじゃ、ホットミルクでもいかがかな?」


 「あ……いただきます」


 村長はニッコリと笑うと用意をしに台所へ向かって木で

できたカップを持って来る。カップからは白い湯気が立ち上っており、それをエリスに差し出した。


 「ついさっきワシも飲みたくなって温めておったのじゃよ。良かった良かった」


 エリスは少し顔を下に向けたままだったが、小さくお辞儀をしてカップを受け取った。村長はゆっくり頷くと再び椅子に座る。


 「それにしてもまだ若いのに災難じゃの。国も愚かじゃ。

戦いの為に魔法を使うとは」

 

 「……魔法は」


 「ん?」


 「魔法は力の差を見せつけるのに効果的なんです。剣術も

武術も、もちろん魔法も鍛錬が必要ですけれど。

 剣と武はある程度攻撃は読めますが、魔法は直前まで何が来るか予測が難しいんです。

 アレキサンドルにも魔法使いはいるようでしたし、手っ取り早く勝利を収めたいんでしょうね」


 エリスはそう言ってからホットミルクを口に含んだ。


 「アレキサンドル家も生まれつき魔力が高いのはご存知

かな?」


 「はい。確かテオドールの次だったはずです」


 「そうか。戦いにも王家の者達が度々加わっておるようじゃが、あまりいい話は聞かんのぉ。

 不思議じゃな、魔法でバンバン支配していきそうなのに

なあ……」


 村長の言葉を聞きながらエリスはホットミルクを一気に

飲みほした。空になったマグカップを村長に渡す。


 「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


 「よしよし。……落ち着いたようじゃな。

掃除をしてくるから少しばかり待っていてくれるかの?」


 「はい。ゆっくりで構いませんので」


 不安そうに言うエリスを村長は安心させるように微笑み

ながら家を出ていった。1人残されたエリスは大きなため息を

つく。


 「あまり村の人に迷惑をかけないようにしないと。

どうにかして手伝わなきゃ」


 それからゆっくりと室内を見回した。壁には複数の麻袋や

農器具がかけられており、年季が入っている。


 「……私はこのような人達を助けるために。それがお母さんとお父さんとの――」


 その時、村長が戻って来たためエリスは慌てて姿勢を

伸ばした。


 「お待たせしたの。それじゃ、案内しようか」


 村長はエリスを連れて村の端にある家に向かった。

所々修理の後があるものの生活をするには問題なさそうだ。


 「この村であまり若者を見らんじゃろ?アレキサンドルに出稼ぎに行っておるのじゃ。時々帰ってくる者もおれば、身内を呼んで移住する者もおる。

 ここには誰も住んでおらんから好きに使うと良い。前の者が出て行ってそこまで経ってないはずじゃから調度品も使える物が多いと思うぞ」


 「ありがとうございます」


 エリスは村長に深々と頭を下げた。村長は微笑むとエリスの肩に軽く手をのせる。


 「ゆっくり休むといい。何か困った事があったらワシや

ジョセフィーヌに言っておくれ」


 「はい…………」


 2人は就寝の挨拶を交わすとそれぞれの家に入っていった。

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