表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮掌編集  作者: tei
7/34

眼球を洗う

 目が(かゆ)かった。アレルギー性の結膜炎だと、私にはよく分かっていた。アレルギーは何に対しても発症する。ほこり、ダニ、温度差、季節の変わり目、嫌いなアイツ、気の進まない仕事、立ち上がりの遅いパソコン、ウェブ広告、政治家の顔、すれ違う人のにおい、エトセトラ、エトセトラ。

 痒みは唐突で、猛烈だ。最近流行のウィルスに対抗するためのワクチンを打った箇所もまあ痒いが、結膜炎の方が圧倒的だ。それはもう、暴力的ですらある。初め、眼球の側面のあたりが、ちりちりと(うず)く。虫でも入ったかと思う様に疼く。そのちりちりが、気づけば眼球全体を覆い、痒くなる。最早ちりちりなんてものではない、掻きむしらねば気の済まない、しかし掻きむしったとして改善するとも思えない痒みが、私の意識をさらってしまう。

 家にひとり、痒みに耐えていると、どんどんと正気が失われていくのがわかる。目の前に置いてあるペンをいっそのこと突き立ててはどうかなんてことを、ふと気がつけば考えている。だから、次に気がついたときには洗面所で、自分の眼窩(がんか)から垂れ下がった眼球を冷たい水道水で洗い流していたのだが、驚かなかった。薄々、遅かれ早かれ、こうなる様な気はしていたのだ。

 一度やってみたかった。

 清涼な水が、眼球の火照(ほて)りを冷ましてゆく。例えようのない解放感に、うっとりとする。眼球が私の指の中で水に揉まれる、その感覚が脳に伝わるのは、なんだか途轍(とてつ)もなくおかしな気分だ。例えば火傷(やけど)した舌先を限界まで突き出して、それはまるでもう自分の体から切り離されたものの様な気がするのに、でもまだ痛いのが不思議な気がする、それに似ている。

 何にも似ていない柔らかさを(もてあそ)びながら、私はこれを上手く元に戻せるのかどうか、少しだけ不安になってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ