表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮掌編集  作者: tei
24/34

紙の束

 目の前に積み重ねられた紙の束を見つめながら、おれは喉の奥から唸り声が漏れ出るのを止められなかった。

 紙の束……数字と肖像と風景が印刷されただけの、仕事で使うコピー用紙より薄っぺらい紙の、束。それだけの物に、なぜこうも心を動かされるのだろうか。

「で、どうなんだ。これだけ積んでもダメか」

 紙の束を無造作に取り出しておれの前に積み重ねた男は、イライラしたように肩を揺すった。

「だ、だだ、ダメれす」

 ダメなのはおれの唇だ。想像外の大金を積まれた動揺が如実に現れてしまった。男は渋い顔でおれを睨み、おれはおれで、積まれた紙幣から目を離せない。そこから発される何らかの毒が目から脳へ伝わり、手指の神経を侵して、意思とは別に束を掴んで、そのまま部屋を飛び出してしまう、なんてことが起きそうな気がしてくる。

 しかしそうなるよりも、男が諦める方が早かった。毒を発する紙の束は一瞬で消え失せ、肩を落とした男も数分で立ち去った。思わず「助かった……」と呟いてしまう。

「助かったのですか」

 奥に引っ込んで様子を窺っていたミライさんが、古くなってキイキイいう車輪を動かして顔を出した。発売当時は最先端だったディスプレイフェイスに、当時は流行っていた顔文字が可愛らしく浮かんでいる。

「うん。ミライさんを手放さずに済んだよ」

 華麗に追っ払ってやったよ、と言うと、ミライさんは昔活躍していた何とかいう声優の可憐な声で笑った。

「ありがとうございます」

 祖父の形見であるミライさんは、ロボット産業黎明期に生産され、今ではとんでもない額で取引されるレアな骨董品だ。祖父が丁寧にメンテナンスしていたので、さっきの男のように大金を積むマニアが後を絶たない。

 だが、どんな対価を提示されようとも、おれはミライさんを手放すつもりはない。祖父とミライさんとの思い出に比べれば、あんな紙の束には何の価値も無いのだから。

「私も、どこにも行きたくありません」

 そう言って、ミライさんは照れを表す顔文字を点滅させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ