反射
彼女は天才的な女優だった。初めは冴えない子役だったのが、当時売れっ子だった子役と共演したのをキッカケに頭角を現し、瞬く間に銀幕のスターへの道を駆け上って行った。
「ああ、烏羽さん。あの人、上手かったわよね。まるであの人の中に、何人もの女優がいるみたいで」
ある大女優……いや、嘗ては大女優とされていた女性は、そう、溜息まじりに話してくれた。言外に、自分も彼女の中にいるようだという気持ちを込めて。
烏羽黒羽は、共演する俳優を自らに取り込んでいった。彼らの全てを模倣して、その輝きを完璧に自分のものとし、そうすることで演技の幅を着実に広げていったのだ。
そして、人気の絶頂期に突然、壊れた。
契機となったのは、ある雑誌のインタビューだった。彼女はそれまでプライベートに関する質問は全て許可していなかったのだが、不慣れな記者が不用意な発言をした。それはよくある質問に過ぎず、他の俳優ならば仕方ないなと苦笑いしながら簡単に流してしまうような質問だった。だが烏羽にとって、それは自らの空虚を映す鏡のように作用した。
「私は、」と言いかけた彼女は、それから「わたくしは、」と言い直した。更に「あたし……」と続けようとして、息を止めた。彼女は彼女の中の全ての人間が、彼女を見つめていることに気がついた。そして見つめられる彼女は、ただの箱だった。
烏羽はけたたましく笑い、そのまま、その編集社屋の窓から……五階の高さから落下した。九死に一生を取り留めたものの、復帰は絶望的だという。
「ああ、烏羽さんですか……。駄目ですね、アレは。目の前の人間の行動を逐一真似ようとするので、看護師も気味悪がってしまって」
私の取材に答えてくれた医師は、首を振りながら答えてくれた。
「ああ、でも……彼女、鏡を見せると大人しくなりますよ。何なんですかね、あれは」
能面のような表情で鏡を見つめる烏羽の姿が脳裏に浮かんで、私は思わず腕をさすった。




