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欲しいものほど手に入らない。私は本当に欲しいただひとつのもののために、必死に努力をしたのに。
教養を身につけ、会話の術を会得し、服装のセンスを磨いて、ついでに武術や芸術も嗜んだ。どれにも精魂込めたお陰で、完璧に全てをこなせるようになった。しかし、異性同性問わず人気を得るようになってもまだ、本当に欲しいただひとつのものは手に入らない。
あなたは完璧すぎる、と言われたとき、三歩先も見えないほどに涙が溢れて止まらなかった。誰のため、何のための完璧か。
けれど、一度身につけた教養、話し方、センス、武術に芸術は、私から離れることはなかった。いくら荒んだ心で生きようとも、それらはいつのまにか私のもとへ舞い戻り、静かに私の近くで待っていた。何の役にも立たない筈のものが、いつのまにか私の心をもっとも慰めてくれるものになっていた。
本当に欲しいものは手に入らなくとも、もう少し生きてみようと思った。少なくとも、今、何も持っていないわけではないのだから。