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プロローグ
あなたは数多の物語を股にかける旅人であり、これまで幾つもの時間と空間を歩き続けてきた。そろそろどこかで休憩を、と見渡した目に飛び込んできたのは、巨大な扉だ。蜃気楼か、はたまた幻か。突如として空間に出現した扉は、それが取り付けられてあるべき壁もないままに、ただ一枚の扉として、目の前に存在している。
好奇心の強いあなたは、不可思議な色の把手に手をかけた。扉は難なく開き、あなたはそこにできた隙間に体を滑り込ませる。
先ほどまでいた空間は瞬時に消え失せ、あなたは、自分が迷宮の入口に立っていることを知る。扉の先には、無数の扉があった。そこへ続く、無数の道があった。そして恐らくは、無数の扉の向こうに、また無数の扉が。
無数の世界が、あなたによって開かれるのを待っているのだ。
さあ、あなたは踏み出す。休憩などということは、頭の中から締め出してしまった。なぜなら、あなたは旅人だからだ。物語を見聞し、歩む、永遠に留まることを知らない旅人だからである。