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第5-2話 ジャガイモ討伐戦、もとい王子体験会


 最初はお菓子や魔法道具など、もっと無難な報酬を用意していた。だがアイザックが「それだと乗ってきてくれない気がする」と言い、自ら案を提案してきてくれたのだ。


 並べ終わったろうそくを前に、コーデリアが皆の方を見る。


「ご存じの通り、ろうそくの火は属性問わず、一定の衝撃を受けると消える仕組みになっていますわ。催しの内容は殿下にもナイショにしていたので、条件は皆さまと全て同じ。さあ、栄えある一番手はどなたかしら?」

「俺だ」


 予想通り名乗り上げたジャンが前に進み出る。


「では、私が三つ数えたあとに『開始』と言ったら始めてくださいね。行きますわよ。――三、二、一、『開始!』」


 途端に、素早くジャンの手が動いた。

 子供が鉄砲遊びをする時のように親指を立て、伸ばされた人差し指から小さな火の玉が次々と放たれる。それがろうそくの火にあたり、パン、パン、パン! とはじける音とともにどんどん消えていくと、周りから「おおっ」と歓声が上がった。


(さすがジャン、軽々とやりますわね)


 火を消すための弾は大きすぎても小さすぎてもいけない。正確な量を、狙った場所に即座に当てるのは実際はすごく難しい。


 パン、と最後の蝋燭の火が消され、王宮から連れてきた時間測定係がバッと手を振り上げる。


「二十三秒!」

「ちっ。二十秒切れなかったか」


 そういいながら、ジャンの顔はどこか得意げだ。


「ジャガイモが早いのは認めざるを得ませんわね……。さ、他の方もどんどん行きましょう!」

「だからジャガイモって言うな!」


 その言葉をまるっと無視して、コーデリアは進行した。


 難易度をあげたかいがあり、その後は慣れた遊びでもろうそくを傷つけてしまう者が続出した。さらに二十秒台にたどり着くものとなると、一気に数が減る。


 他に誰も自分の記録を抜かせそうにないのを見て、ジャンは得意顔になっていた。


「おいおい。王子サマを最後にしてよかったのか? これで一番どころか全部倒しきれませんでした、とかになったら恥をかくのはそっちだぞ?」


 煽るジャンの横っ面を思いっきりひっぱたいてやりたい衝動に駆られつつ、コーデリアは無視してうなずいて見せた。いよいよ本日の目玉であり、大取りを務めるアイザックの番だ。


 無表情のまま、アイザックが静かに進み出る。その姿を固唾をのんで見守っているのはコーデリアだけではない。ジャンや生徒たち、それに教師や従者など、今や講堂内にいる全員が彼に注目していた。


「……準備はよろしいかしら?」

「大丈夫だ」

「それではいきますわよ――三、二、一、『開始!』」


 ゆるやかにアイザックの手が持ち上がったと思った次の瞬間、目にも留まらない速さで水の魔法が放たれた。

 その速度は、ルール通り順番に火が消えているか確認するのが大変なほど。今や判定係の目は皿のように真ん丸になり、首を伸ばして食い入るように見つめている。それは周りの人も一緒だった。


 コーデリアがちらりと見ると、余裕しゃくしゃくだったジャンの顔には明らかな焦りが浮かんでいる。


 皆が取りつかれたように見つめる中、ジュッという音とともに最後の蝋燭が消えた。


「十九秒!」


 時間測定係の声に、ワッと弾けるような歓声が上がる。続いて誰かが拍手したかと思う間も無く、瞬く間に講堂は拍手の音に包まれた。


「皆さまいかがでして? 残念ながらアイザック殿下より早かったものは、いなかったようですわね」


 にっこりと満足そうに微笑みながら、コーデリアはジャンを見た。彼はしばらく悔しそうに表情をゆがませていたが、やがて大きく息をつくと、カツカツとアイザックの方へと歩み寄った。


「……すみませんでした。王子サマなんて呼んで。本当にすごかったです。その、アイザック殿下」


 目をそらしながらぼそぼそと言うジャンにアイザックが目を丸くし――それから珍しくふっと微笑みを浮かべた。とっさに胸を押さえて、尊すぎる笑顔の威力に耐えたのはコーデリアだけではなかったようだ。教室のあちこちからほぅというため息が漏れる。


「……気にしなくていい。君もすごかった、ジャン」


 アイザックが手を差し出し、ジャンがそれを恥ずかしそうに握る。二人の和解に、キャアアアと女子たちから黄色い悲鳴が上がった。


(しまった! 今ので新しい世界に目覚めてしまった方もいらっしゃるのではなくて!?)


 男同士の熱い友情は、いつでも世のフ女子たちをときめかせるのである。


(試みとしては大成功ですけれど、ジャンがライバルになるのは御免被りたいですわ!)


 この体験イベントの狙いは、アイザックの能力のすごさを()()してもらい、さらにジャンに認めさせることにある。彼は負けず嫌いではあるものの、根は真っすぐ。自分が認めた人間には従順なのだ。


 だが、これがきっかけでもしジャンがコーデリアのライバルになってしまったら……。恐ろしい想像をして、コーデリアはぶるぶると頭を振ったのだった。




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