第5-1話 ジャガイモ討伐戦、もとい王子体験会
「というわけで、僭越ながら今日は特別に私が進行役を務めさせて頂きますわ!」
長い机がずらりと並んだ講堂。教壇の前に立ち、魔法学校の制服である長いローブをまとったコーデリアが生徒たちを見ながら言った。彼女の隣にはアイザックが静かにたたずみ、隣に教師や従者たち大人たちが控えている。
前世で散々ひなの補佐としてイベント司会を経験したこともあり、コーデリアのふるまいは堂々としたものだった。――本当は司会自体、ひなの仕事だというのはこの際置いておく。
「ふん。“王子サマ大好きコーディちゃん”にそんなことが務まるのかよ」
せせら笑うように言ったのは、最前列の席に陣取り、燃えるような赤髪を持つジャンだ。
彼はコーデリアに次ぐ才能の持ち主で、みんなのボス猿、もといガキ大将とも言うべき人物。そして彼がアイザックを毛嫌いするせいで、他の子たちも気後れして話しかけられないという、ある意味元凶ともいえる存在だった。
「うるさいですわよジャン=ジャガイモ。静かにしなさい」
「品種みたいに呼ぶな! そもそも俺ジャガイモ要素一つもないだろ!?」
その言葉をコーデリアは無視した。
確かにジャンの顔は悪くない。むしろいい。なぜなら彼も、“情熱の炎魔法使い”というキャッチコピーを持つヒーローで、聖女の相手候補の一人だからだ。
言わずもがな容姿は端麗。すんなりと伸びた手は長く、勝ち気な瞳はいきいきと輝いている。若木のような健やかさと自信に満ち溢れた雰囲気は、それだけで人を惹きつける魅力があった。加えて伯爵家の嫡男でもあるため、学園内外の女子たちから有望株として熱い視線を集めているのだ。
が、残念ながら前世からアイザック推しであるコーデリアにとっては、彼以外の男性は等しくジャガイモにしか見えなかった。むしろアイザックを悪く言う分、作物として優秀なジャガイモよりよっぽど地位は低い。
そんな彼女の態度(と成績が負けていること)が気に食わないらしいジャンから度々突っかかられることがあり、二人は犬猿とも言える仲になっていた。
「それより本題ですわ! 今日は皆さまとアイザック殿下の交流を兼ねて、"火消し遊び”をしましょう!」
「って、入学してすぐにやらされるあれか?」
ジャンの声に、コーデリアはうなずいた。
火消し遊びはろうそくを横一列に並べ、魔法を使って火を消す速さを競うもの。消すのは必ず一本ずつ順番で、なおかつろうそく本体を傷つけてはいけないというルールがある。
単純ながら高度な魔力のコントロール能力を必要とされるため、低学年のうちは授業の一環として何度もやらされるのだ。
「今さらやれって言われても、簡単すぎてなあ」
「って言うと思いましたので、今回はどどんと五十本、高さをバラバラにして用意させて頂きましたわ。そしてアイザックさまより早く消せた方は、なんと殿下が一日なんでも言うことを聞いてくださるそうです!」
コーデリアの言葉に、講堂内にどよめきが走った。アイザックが同意を示すようにうなずくと、ジャンの目がぎらりと彼を捉える。
「……なんでもって、本当になんでも? 一日俺の奴隷になれって言ったらなるんですか?」
不敬罪にもあたりそうな言葉に、皆が一斉にアイザックの顔を見る。彼はいつも通り無表情のまま、淡々と答えた。
「喜んでなろう。……私に勝てれば、だが」
その瞳には、静かな闘志の色が浮かんでいた。
面白がるようにジャンがにやっと笑う。
「よし、乗った!」
「ほかに参加したい方は? 皆さま遠慮しなくていいんですのよ。遊びですから誰でも大歓迎ですわ」
ジャンが食いついてきたことにほくそ笑みながら、コーデリアはテキパキと準備を進めた。
(やっぱりあの報酬、過激な分食いつきがいいですわね)