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第28-2話 聖女ヒナの握手会

「ああ……疲れましたわ……」


 その日の夜。満身創痍となったコーデリアがカウチソファにつっぷしていると、控えめなノックがしてアイザックが入ってくる。コーデリアが慌てて姿勢を正すと、アイザックが「いいんだ、楽にしていてくれ」と声をかけた。そう言う彼の顔も、どこかやつれて覇気がない。


「今日は助かった。君がいてくれなかったら大変なことになっていただろう……。そして巻き込んですまなかった」

「いいえ、殿下のせいじゃありませんわ。気になさらないでくださいませ。――ところでひなの様子は?」


 コーデリアの問いに、アイザックがため息をついて首を振る。その様子だけでなんとなく想像がついた。


「相変わらず部屋に閉じこもって誰とも口を利こうとしない。さすがのラヴォリ伯爵も面子を潰されたとカンカンで、伯爵をなだめるのに時間がかかってしまった」

「それは大変でしたわね……」


 前世でも、ヒナはいつもトラブルメーカーだった。自分の野心のためにヒナを利用しているラヴォリ伯爵に同情心はわかないが、巻き込まれたアイザックは心底気の毒だ。


「それより君は大丈夫なのか? 前回の治療会でもひどく疲れていただろう。体に異変は? どこか痛くないか?」

「私は大丈夫ですわ! 少し疲れていますけれど、何日かすれば元通りになりますもの」

「回復に何日もかかる……。それほど体を酷使しているのか」


 アイザックの顔が曇る。安心させるつもりで言ったのだが、逆効果だったらしい。どう取り繕うべきか慌てていると、アイザックが後ろにいる侍従に合図した。よく見ると、侍従は手に何かを大量に抱えている。


「全て君に教えてもらったものだが……疲労や心労に効くというものをありったけかき集めてきた。他に何か欲しいものがあれば言ってくれ」


 見れば、腕の中にあるのはリラックス効果のあるハーブティーや、滋養強壮に効くと噂の野菜。ほかにも果実に甘味と、てんこ盛りだ。


「それから、これも飲むといい」


 そう言って、アイザックが胸元のポケットから、ピーコックブルーの液体が入った小瓶を取り出す。


「私が作ったエリクサーだ。少しだが、魔力回復の効果もある。飲んでくれ」

「まあ! 殿下が作ったエリクサー!? そんな貴重なもの、一生保存しておきたいですわ! ……じゃなくて、ありがたく頂きますわ」


 一瞬彼が変な顔をしたので、コーデリアは大人しく飲むことにした。

 瓶を恐る恐る受け取り、ガラスの蓋をつまんでひねる。キュポン、と心地よい音を聞いてから、そっと唇をつける。すぐに流れ込んできたエリクサーの優しくまろやかな甘みは、まるでアイザックの人柄そのもののよう。疲れた体にエリクサーが染みわたるのを感じながら、コーデリアはほうとため息をもらした。


「おいしいですわ……! 心なしか、体がぽかぽかしてきました」


 薬とは思えないおいしさに、うっとりしながら言う。それを見たアイザックは、どこに隠し持っていたのか、服のあちこちから同じ小瓶を大量に取り出してコーデリアに押し付けた。


「まだたくさんある。足りないのなら、君の為にいくらでも作ろう」

「い、一本で大丈夫ですわ殿下!」

「だめだ。持っていてくれ。周りの人たちに配っても構わないし、治療会の足しにしてもらってもいい」


 断ろうとしたものの、珍しく強い調子で言いきられてしまい、結局コーデリアは両手にエリクサーを抱えるはめとなった。実際、魔力を回復できる薬はこれ以外にほとんどないため、非常に助かる品だった。


「では、ありがたく頂きますわ。……それから殿下、私も、一度ヒナとちゃんと話をしようと思っていますの」

「大丈夫なのか? 極力、彼女に関わりたくないのだろう?」

「そうも言っていられなくなりましたわ。今日のようなことがまたいつ起きるとも限りませんし……」


 そこでいったんコーデリアは言葉を切る。


「――それに、私もヒナから逃げてばかりじゃいけないのかもしれません。聖女と呼ばれるもの同士、一度きちんと話をしようと思っています」


 ある意味、前世からの因縁ともいえる仲。女神が二人を同じ世界に転生させたのも、何か理由があるのかもしれない。


(話をする前に、ひとつ確認しなければいけないわね……)


 考えながら、コーデリアはスフィーダ宛ての手紙を書くことにした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ひなは治療の反動に耐えれなかったんだろうなぁ〜。 分かってて使ったコーデリアがこうなんだから…
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