第19-1話 ニュースリリースができました
後日。コーデリアは王宮の自室で、届いた二枚の告知新聞を見て喜んでいた。
「とても良い感じですわ!」
一枚はケントニス社に依頼したもの、もう一枚はスフィーダ社に依頼したものだ。どちらの告知新聞にも文章とは別に、版画を使ったコーデリアの肖像画も載せてある。
その声に、最近ここを執務室代わりに居ついてしまったアイザックが椅子から立ち上がり、何事かと覗き込む。
「……版画でもこんなに美しく表現できるのか。気高く、凛とした雰囲気で綺麗だ」
「ええ。ケントニス社は貴族階級に配りますから、気品を大事にしましたの」
「お嬢さま、こちらはスフィーダ社のですか? 微笑みがまるで聖母のようで素敵です!」
両手をほおに当ててうっとりと言ったのはリリーだ。そこにジャンが口を挟んでくる。
「聖母ぉ? こっちの絵は詐欺だって言われるな。いてっ!」
すかさずリリーがジャンの耳を引っ張った。この数年、何かと四人で行動することが多かったこともあり、彼女もすっかりジャンに対する遠慮がなくなっている。
「スフィーダ社は大衆向けだから、優しそうに見えるようにしてもらいましたの」
言いながら、コーデリアは版画の出来栄えに感心した。
(あのスフィーダとか言う男……きっちり求めた仕事をこなしてくるあたり、さすがね)
肖像画に求めるイメージはあらかじめ伝えてあったものの、版画職人の手配はそれぞれの新聞社に任せてある。規模が大きく歴史もあるケントニス社が要望に応えるのは予想内だとして、スフィーダも相当腕のいい職人を見つけてきたらしい。お得意の“魔眼”を使ったのだろうか。それとも色恋営業の方だろうか。
――結局あの後、コーデリアはスフィーダの不思議なペースに乗せられ、全てを洗いざらい喋っていた。
コーデリアが「どうしても正体は明かせないんですの」と言うと、向こうも「それじゃあ僕の創作意欲に火がつかない……。全てのピースが美しく揃ってこそ完成するファビュラスな世界を、一緒に見たくないかい?」と謎の理論で言い張り、最後はアイザックに許可を取って二人目の聖女であることを明かしたのだ。
(なんだかんだ彼のやり口はうまいのよね。なんかこう、うなぎみたいにぬるぬるっとこっちの懐に入り込んでくるというか……)
同時にアドバイスは的確で理路整然としており、話してすぐに「この人はできる」とも感じ取っていた。
今回も新聞記者の仕事から外れているにも関わらず、一人で難なくこなし、腕利きの版画職人を調達してくるあたり非常に優秀だ。
「……まあ、この出来栄えなら大丈夫なんじゃないか?」
ジャンの言葉は投げやりだが、彼は自分の認めないものには絶対にうなずかないため、これでも納得しているのだろう。コーデリアは満足そうに微笑んだ。
出来上がってきた二枚の告知新聞は、どちらも非常に満足のいくものだった。書いてある内容は同じでも、載せている版画や言葉遣いは微妙に変えてある。貴族階級向けは気品と教養を感じさせる文章でプライドをくすぐり、大衆向けは慈悲と親しみやすさを感じさせる文章で構成している。
「でも……貴族の方々は、治療会にいらっしゃいますかね?」
「“治療会”には来ないわ」
リリーの問いに、コーデリアははっきり答えた。
「平民が大量に来て、なおかつ無償を謳った治療会ですもの。貴族の矜持からして、無償で施しを受けるなんて恥以外の何者でもないでしょう。――だからほら、ここを見て」
言いながら、コーデリアは貴族向けの告知新聞を指差す。
「ここ、『働きに賛同してくださる支援者の方も募集しております』って書いてあるでしょう? 貴族の方には、スポンサ……じゃなくて、パトロンとして参加してもらう方が、お互い利点が多いのよ」
そう言うと、リリーは「なるほど!」と声を上げた。
計画はこうだ。
おおっぴらに行われる治療会は、身分問わず誰でも来られるため、メインターゲットは平民となる。
一方外聞の理由から治療会に来られない貴族たちには、後の修道院や施療院訪問の際に、支援者として同行してもらうのだ。そうすれば聖女であるコーデリアと交流を持てる上、彼らも慈善事業に参加したと格好がつく。
「とは言え、貴族の方々をどれだけ味方につけられるのかは謎ですけれど……。王位への野心があるならひな派になるでしょうし」
言って、コーデリアは小さくため息をついた。




