第14-2話 傾向と対策
それは彼も考えていたのだろう。わかった上で、念押しするようにアイザックが尋ねる。
「確かにそうだが……君はそれでいいのか。きっと、今までにはなかった苦労を背負うことになる」
「構いませんわ。それが私の望む未来に繋がっているのなら」
力強く答えれば、アイザックもうなずき返す。それからすぐに考え込んだ。
「ならば、次の問題は大聖女が選ばれる方法か」
難しい顔をしている彼のそばで、コーデリアの両親も釣られて難しい顔をしている。思わず「あなた方、ついさっきまで無邪気に手を叩いて喜んでいましたよね?」とは言いそうになるがコーデリアは我慢した。アイザックが続ける。
「幼い頃から常に聖女の存在を意識し、対策も用意してきたが……まさか二人現れるとは思わなかった。その上選ばれる時期も方法もわからないとなるとは」
「そこですわよね……」
コーデリアはため息をついた。そばにいる両親も真似してため息をついているが、「あなた方、本当にわかってらっしゃいます?」とは突っ込まない。
それより、今後の対応だ。
「そもそも、大聖女選びが長引くこと自体もよくないですわ。王選びだけでも十分国内外ともゴタゴタしますのに、大聖女も選ばないといけないなんて……」
「周辺国に知られるのも時間の問題だろう。国境は封鎖したが一時的なもの。それに事が大きすぎて隠し通せるものでもない」
「そうなると、いつどこで誰が攻めて来るかわかりませんわね……。今こうしている間にも着々と準備が進められているのかもしれないと思うと……」
ああ、とコーデリアは嘆いて額を抑えた。そんな彼女を、アイザックが不思議そうに見つめている。
「……随分詳しいんだな。正直、君が戦争のことまで考えているとは思わなかった」
「あ、そ、それはほら、私、勉強しましたから……うふふ……」
彼の指摘を、コーデリアは笑って誤魔化した。
――コーデリアからそんな発言が出るのは、何を隠そう、前世でゲームをやっていたからだ。
とはいえアイザック以外は無課金で適当に遊んでいただけだが、物語の中には王決めのゴタゴタに乗じて、周辺国が攻め込んでくるパターンもある。
大体そういう輩はすぐに聖獣に蹴散らされておしまいなのだが、今回に限ってはラキセン王国最大の強み“聖獣の守り”が上手く発動するか自信が持てなかった。何せ、聖獣が一度は国を滅ぼそうと暴れた上に、聖女も二人現れてしまったのだ。
「今のフェンリルさまは、ラキセン王国を守ってくれるのかしら……」
コーデリアはぼやいた。
圧倒的な力で外敵から国を守る聖獣フェンリル。そのフェンリルを使役できるからこそ聖女と呼ばれ、王を決める権限すら与えられているのだが……。
(使役どころか、先程のフェンリルさま、まったくこちらの言うことなんか聞いてくれそうになかったですわよ)
爆弾発言をぶちこむだけぶちこんで、スッキリした顔で行方をくらました白い獣の姿を思い出す。
「そもそも聖獣ってずっと聖女と一緒にいるものかと思っていましたけど……全くいらっしゃいませんね」
もう一つ、コーデリアは素直に白状した。
本人は散歩と言っていたが、原作ではそんなシーンはどこにもない。フェンリルと言えば常に聖女に付き従い、どこに行くにもついてまわり、姿が見えなくても呼べば秒で駆けつけてくれるほどべったりだったのだ。
(私、ものすごく放置されていますけれど、これが普通なんですの? イレギュラーなことが多すぎて全然わかりませんわ)
「呼んでみても駄目だろうか? 先ほど、ヒナ殿は名前を叫んで呼び寄せていた気がするが」
提案されて、コーデリアは大きく息を吸い込んだ。それから――
「フェンリルさま! いらして下さい!」
……けれど、部屋にこだましたのは彼女の声だけで、一向に聖獣が現れる気配はない。
「駄目みたいねぇ」
「駄目みたいだなぁ」
おっとりと話す両親を尻目に、コーデリアはがっくり肩を落とした。目の前のアイザックもなんとも言えない苦い顔でこちらを見ているし、ジャンに至っては完全にバカにした目をしている。心から一発殴ってやりたいとコーデリアは思った。
「……もしかしたら、今はあちらの聖女さまといるのかもしれません」
言い訳するようにコーデリアは呟いた。と同時に、思い出してしまった。ひなは間違いなく、聖獣を呼び寄せられたことを。
対してコーデリアは、聖獣の居場所すらわからない。
(まずい。急に幸先が不安になってきましたわ……!)
そもそも「聖女になった」と言うのもフェンリルの鶴の一声ならぬ聖獣の一声があったからこそ。聖魔法が使えるだけでは聖女とは言えず、フェンリルの言葉以外にコーデリアを聖女たらしめる要素はない。実を言うと、聖女であることにコーデリア自身が一番懐疑的だった。
(考えれば考えるほど落ち込んできますわ……。でもずっと落ち込んでいても意味がありませんわね!)
コーデリアは自らを奮い立たせるために、勢いよく顔を上げる。
「とりあえず、やれるだけのことをやりましょう! まずは私――広報活動を始めるべきだと思いますの!」
「「「広報活動?」」」
コーデリアの提案に、その場にいた者たちの声が重なった。




