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第10-1話 聖女、気付く

「やだ……こんなのやだよ。お願い、国王さまから何か言って!?」


 ひながタタタッと国王の元に駆け寄ろうとする。警戒した近衛騎士が前に進み出たが、それを国王自ら手で制した。ひなは目の前の障害がなくなったのを見るなり、ためらわずに国王の膝元に飛びついた。


「お願いです! 国王さまからアイザックさまに言ってください! 子供みたいなわがまま言わないでって……!」

「……私には、わがままを言っているのは貴女の方に見えるがね」

「えっ?」


予想外の返しだったのだろう。ひなの顔がひきつる。


「確かに、貴女と結婚した方が我がエフォール家にとって利点が大きいだろう。しかしアイザックの言うことにも一理あり、何より本人があそこまで強い気持ちを持っているのに、無理強いする気はない。元々王位も、前聖女に選ばれたからこその“借り物”。我々は常に、返還の用意をしているのだ」


(驚いた……! 陛下がそんな風に思っていたなんて……)


 王位に対する執着が薄いのは、普通の王位継承とは事情が違うラキセン王国だからなのだろうか。あるいは聖女の血筋か。歴代聖女はみな高潔だったと聞くが、その性質は時を経た今も失われていないらしい。


「そして、今の王である私から言わせてもらうなら、貴女はもう少し社会を勉強した方がいい。仮にも未来の王妃になるのだ。物と違って人の心というのは、ねだれば手に入れられる物ではないのだから」


(全面的に同意ですわ!)


 コーデリアは深くうなずいた。


「そんな、嘘……。嘘だよ。こんなの現実じゃない。シナリオがおかしくなってる」


 だが、ひなはふらふらと国王陛下から離れたかと思うと、一人で何やら呟き始めた。その姿はいよいよ狂人じみてきており、コーデリアは嫌な予感がした。皆も同じことを考えたようで、誰もが不安そうな顔になる。


 やがてぶつぶつ呟いていたひなは、ある一人の人物にうろんな視線を向けた。


――コーデリアだ。


「……そうだ! なんかおかしいと思ったらあなただ。ねえ、あなたならわかってくれるよね? アイザックさまは、絶対にひなと結婚した方がいいよね?」


 言いながら、狂気じみた笑顔を浮かべて近づいてくる。まるで、ようやく味方を見つけたと言わんばかりの顔だった。


「よせ、彼女を巻き込むな。同席させるだけと言う条件だっただろう」


 アイザックが素早くひなを止めようと立ち塞がった。どうやら、コーデリアはひなによってこの場に引きずり出されていたらしい。


 が、ひなはそんな彼を鼻で笑ったかと思うと、アイザックの手を払いのけてすたすたと近づいてくる。


(どうしよう。ここでなんて答えるのが一番いいのかしら!?)


「わ、私は……」


 コーデリアは何か言おうと言葉を絞り出した。そのとたん、嬉々としてこちらに駆け寄ってきたひながぴたりと足を止める。それからいぶかしげに、まじまじとコーデリアを見つめた。

 

「……あれ? ねえ……その声……もしかして加奈ちゃんなの?」


 思わぬ指摘に、コーデリアはとび上がりそうになった。


(うそっ!? なんでバレましたの!? ちょっと喋っただけなのに!)


 動揺するコーデリアの両手を、先ほど以上に嬉しそうな顔をしたひなががっしと掴む。

 

「ねえ! やっぱり加奈ちゃんだよね! 顔は……全然違うけど……なんていうかこう、雰囲気? 雰囲気と声が加奈ちゃんだ!」


(顔は全然違うけどの一言がやけに刺さるのは気のせいかしら!)


 過去、コーデリアが一目見てひなだと気付いたのと同じように(ひなの場合は顔がまんまひなだったからでもあるが)、ひなの方も()()だと気付いたらしい。観念するしかない、とコーデリアは思った。



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